第14話 チカ 素直な相談

「ねぇカミ。相談があるんだけど」


「それなら当たり前のように私の部屋に来るのやめなさいよ」


 なんだか既視感のある状況に思わずジト目で突っ込んでしまった。


 私が学校に復帰(SHRが始まる前に保健室に行ってそのまま帰った)した日から数日が経った。


 その日を境に毎日一緒の部屋で過ごしていたリアがやって来なくなり、寂しさを覚えていると、今度はいきなりチカがやって来た。


 ちなみにリアが来なくなった理由は恥ずかしいかららしい。


「ていうか、リアとユメはなんとなく分かるけど、チカはどうやって入って来たの?」


 リアは地球より科学の進んだ星からやって来て、ワープ技術を開発しているし、ユメは幽霊だから扉が関係ないから家さえ知っていればいくらでも入れるのは分かる。


 だけど詳しくは知らないけど、チカは地底人で、地底人とは地中に空間を作って住んでいる人間で、特殊能力は無いはずだ。


「どうやってって、普通に?」


「ワープや透過を普通にやる子達と一緒に転校してきた人の普通は私にとっては普通じゃないんだよ」


「それは文字通り人種差別だけど、ほんとに普通にだよ? チャイム鳴らしてカミのお父さんに入れてもらった」


「……普通でびっくり」


 確かに同級生の家に入る方法はそれが普通だ。


 初めて私の家に同級生が来て、しかもそれがリアとユメというイレギュラーな入り方だったせいで考え方がおかしくなっていた。


「てか父居たんだ」


「うん、私がカミの友達って言ったら涙流してた」


「大袈裟な人だ。確かに父からしたらチカが私の初めての友達になるけど」


 父を一言で表すと『いい人』だ。


 娘の贔屓目とかではなく、人当たりも良く、私の事も大事に扱ってくれる。


 まぁ『いい人過ぎる』とも言えるが。


「リアとユメと風奏は会ってないんだ」


「父が家に居る事自体珍しいからね。そうじゃなくても、リアは私の部屋にワープするから『どうやって入った?』ってなるだろうし、ユメは透過してるところを見られる訳にはいかないから見えないようにしてるだろうし」


風奏ふうかは?」


「私の家知らないんじゃない?」


 そもそも私は誰にも自分の家を教えていない。


 チカ達が来るのだって本当なら有り得ない事だ。


「チカは誰から聞いたの?」


「えっと……」


 チカの顔が険しくなる。


 思い出そうとしてるのに思い出せないような。


「知らない人?」


「知らない……のかな? 誰かに教えられたんだけど、覚えてない。その時はすんなり信じれたのに」


 リアと同じようだ。


 私の家を知っているというのも気になるが、二人して覚えてないとなると、半分ぐらい可能性のあった『リアが純粋に忘れている』という可能性も無くなる。


 後は二人して口裏を合わせている可能性もあるけど、それも無い。


 私の『読心術』がそう言っている。


「別に隠してる訳でもないからいいんだけどね」


「じゃあなんで風奏には教えないの?」


「教えない訳じゃなくて、聞いてこないんだよ。聞かれても教えるかは分かんないけど」


 私と風奏は相手の家に行く程の仲でもない。


 風奏は変わっているけど、私と違って友達がいない訳ではない。


 私によく絡んでくるけど、ただそれだけだ。


「ふーん。こじれた関係ってこと?」


「話聞いてた? 別にいいけど」


 私と風奏の関係は正直私にも分からない。


 友達と呼べるのかも微妙で、風奏が私の名前を気に入ったから構ってくるだけだ。


 それは友達なのだろうか……。


「それより相談は?」


「そうだった。カミって私のやりたい事知ってるよね?」


「確か『地上の調査』だっけ?」


 今のトレンドを知るのが目的。


 地底人だから地上の情報に疎いのは分かるけど、それを知る必要はあるのだろうか。


「そう、それでね──」


「ちょいまち」


 チカが絶対に私では叶えられない事を頼もうとしてるのに気づき、それを止める。


「私は最近の流行とか、流行りとか分からないからね?」


「流行と流行りって言ってる時点で分かるよ。というかカミがそういうの興味ないの知ってるし」


 私は服は着れればいいし、化粧もしない。


 それに外に出る理由はバイトか買い物。


 この前のリアとのデートが初めてそれ以外の外出だ。


 友達もいないからそういう話もしない。


 だから最近の流行りがなんなのかなんて知らない。


「それなら私に何を頼もうとしてるのさ」


「普通のトレンドは風奏に聞けば分かるから、カミには普通じゃないトレンドを教えて欲しいの」


「それは私が普通とはかけ離れたおかしい人間だと言ってるのか?」


「そこまでは言ってないけど、確かに言い方が悪かった。違う視点のトレンドが知りたいの」


 物は言いように聞こえるが、私は私が普通の女子高生ではないのを自覚している。


 だから別になんとも思わないが、確かにチカの言い方には腹が立つ。


「素直に言うなら付き合う」


「私は素直ないい子だけど?」


「チカの身体は嘘で出来てるでしょ?」


「私が言えた義理じゃないけど、失礼だよ」


「そういうのいいから。素直に言うならチカの手伝いするよ。言えないならこの話はこれまで」


 私はそう言ってスマホで時間を確認する。


 今日ももちろんこれからバイトがある。


「言えないならいいよ。私はバイト行くから」


 私がベッドから立ち上がって部屋を出ようとしたら、チカに腕を掴まれた。


「なに?」


「……いの」


 チカが俯きながらか細い声で何かを言う。


「なんて?」


「……わ、私にカミの事をもっと教えて欲しいの!」


 チカが真っ赤な顔をバッと上げて、私の目をまっすぐ……は見れずに、キョロキョロさせながらそう告げる。


「……」


「……」


「……」


「無言で私を見つめるのやめてください」


 私が何も言わずにチカをガン見していたら、チカが耳まで真っ赤にして俯いた。


「ごめん。普段のチカから想像出来ない反応でギャップ萌えした」


「うるさいバカ」


 チカがそう言って頭突きしてきた。


 今日のチカ、というか素直なチカはなんだかとても可愛い。


「普段からそうしてればいいのに」


「素直でいろって? 無理だよ。私は素直でいる事が出来ないから……」


 チカが私の胸に頭を付けたまま悲しそうに言う。


 表情は見えないけど、これもいつものチカからは考えられない姿だ。


「無理にとは言わないけど。私と居る時だけは素直でいるんでもいいよ?」


「それでカミを私に惚れさせて本当に愛人になれって? 浮気者」


 チカの声音がいつもの感じに戻ってきた。


 素直なチカもいいけど、強気でめんどくさい事ばかり言うチカがやはりいい。


「チカはチカの好きなようにすればいっか」


「好きなように……。カミの胸って跳ね返りが無いね」


 チカが私の胸に頭を押し付けながら言う。


「喧嘩売ってんだな? その無駄な贅肉引きちぎんぞ」


「大丈夫だよ。小さい方が好きって人もいるし。それに……」


 チカが頭を離すと、いきなり私の服の中に手を入れて、胸を揉んだ。


「ハリもあって形もいい。でもスポブラはぁぁぁぁぁぁぁ」


 さすがに調子に乗せすぎたので、私の親指と中指と薬指をチカの頭にめり込ませる。


 大袈裟に言い過ぎたが、アイアンクローをした。


「痛い痛い痛い、ほんとに痛い。頭が割れる。でもカミの恥ずかしがる顔が見れて嬉しぃぃぃぃぃぃぃ」


 意味の分からない事を言い出したので、力を込めて黙らせる。


 私は断じて恥ずかしがっていない。


 ただちょっと顔が熱いだけ。きっと熱がある。


「可愛いカミ。だんだん痛みが無くなってきたんだけど、私の頭はまだ付いてる? それとも私はユメの仲間入りした?」


「いいから服から腕を抜け!」


 チカの顔は確かに青くなってきたが、それでも私の胸を揉み続けてる胆力に呆れる。


 こんなのに付き合っていたらバイトに遅刻するので、意識が朦朧としているチカを私のベッドに寝かせてバイトに向かう。


 部屋を出ようとしたら「カミは優しいね」と聞こえてきた。


 チカが原因とはいえ、私がやりすぎたのは自覚している。


 だからそれぐらいは当たり前なのだが、その後に「カミが普段使ってベッドを使うって背徳感がすごい」なんて言うものだから帰って来たらもう少し分からせる必要があるようだ。


 とりあえずはほんとに遅刻しそうなので「帰ったら付き合うから寝てろ」とチカに告げて部屋を出た。


 そして急いで家を出ようとしたら、リビングでそわそわしている父を見つけた。


 無視して出ようとしたら「今日は雷莉の好きなもの作る」と言ってきたので「別にいいから」と告げて家を出た。


 めったに無い休みなのだからのんびりしていればいいのに。


 そんな事を考えながら私はバイトに向かった。

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