第13話 何かあった二人
「何があったのか説明してもらおうか」
「断るけど?」
マギア人との一件から二週間が経ち、私はやっと学校に復帰した。
まぁ正直起きて二日目には本調子よりも本調子になっていたけど、リアの献身なお世話が嬉しくて治ってないフリをしていた。
どうやら私は五日程眠っていたようで、リアの看病を受けたのは実質一週間だけだ。
それで今日やっと学校に来れたのだけど、いきなりチカに捕まった。
「つまり何かあったんだね。聞かせてもらうよ。いつもの二割増にリアが可愛い理由を」
チカがジト目で睨みながら私に聞く。
ユメはそんなチカをなだめようとあわあわしている。
(ほんとに知らないんだ)
私はそんな事を考えながら隣のリアを見る。
するとこちらを横目で見てたリアがバッと顔を反対側に向けた。
「確かに可愛いけど、リアは元から可愛いでしょ」
「いつも以上なんだよ。昨日まではカミと普通に話してたでしょ」
私とリアは今日から学校に復帰した。だから昨日どころか、この二週間はチカとユメには会っていない。
「一日、一晩あれば関係なんていくらでも変わるものなんだよ……」
「ちょっ、カミちゃん!」
顔を真っ赤にしたリアが私の右腕をポカポカと叩く。
(これが尊いか……)
痛くはなく、ただ頑張って私を叩くリアが可愛い。
一生見てられる。
「リアが朝カミの家に行ってるのは知ってたけど、夜までか……」
「や、やっぱり二人は……」
「カミちゃんのせいであらぬ疑いを受けてるよ!」
「確かに変な言い方した。リアとは一緒のベッドで一緒に寝て……」
私はそこで言葉を止めて窓の方を見る。
「そこで止めないでよ! 一緒に寝ただけ。カミちゃんがお願いするから仕方なく!」
「昨日のリアは可愛かった。色々と……」
昨日の夜、というかこの二週間は毎日リアと一緒に寝た。
私が「一緒に寝てくれたら治る」と言ったら何も疑わずにベッドに入ってくれた。
それ以上は何もない。私が眠るリアにいたずらしようとしたぐらいだ。
それはそうと、チカとユメは私が死にかけた事を知らない。
話しても信じられないとか、リアに記憶を消されたとかではなく、本当に何も知らなのだ。
どうやらリアが、私とリアの思考、仕草、癖、とにかく全てをトレースした存在、リアいわく『ヒューマノイドトレース媒体』と言う、要は私達そっくりのロボットが私とリアの代わりに生活していたおかげで何事もなく私は復帰出来た。
「冗談の言い過ぎでリアに嫌われたくないからここまでにして。別に何もしてないよ。私はしたいんだけど」
「冗談言うんじゃん」
「……」
チカに無言で返すと、チカには察したような顔をされ、リアにはまたも腕を叩かれた。
「やっぱり私を好きって言ってたのは嘘なんですね……」
ユメがとても寂しそうな顔でそんな事を言う。
「誰だ、ユメに変な事吹き込んだのは」
「私、ったい」
背後に寄って来た悪人に
「知ってた」
「雷神、せめて話を聞くとか、せめて最後まで聞こうよ」
「私は悪を許さない」
「私悪くないもん! ただ雷神が喜ぶかなって思っただけだもん!」
「可愛いけど、嫌われたろ」
きっと本心ではないはずだけど、ユメに悲しい顔をさせたのは事実だ。
それは後で責任を取るとして、とりあえず今はこの悪人に全てを擦り付ける。
「ユメもこれの言う事なんて聞かなくていいんだよ」
「
「なんか恋人に浮気がバレた男の気分。違うよ、確かにリアを可愛いと思ってるし、なんかもう色々とリアの困る事をしたいけど、ユメの事も好きなのはほんと」
「二股だ」
悪人二号が現れたので、鉄拳制裁をして黙らせる。
「カミちゃんの言い方的に、私が恋人でユメちゃんが妹みたいな感じだよ」
「妹ですか?」
「私はどうなってもいいけど、ユメちゃんは守りたいんだって」
リアが私にジト目を向けてくる。
多分さっきまでのやり返しなのだろうけど、いじらしくて可愛らしい。
「おかしい。なんでそんなに幼い子を見るみたいな目を」
「仕返しが可愛くて。今日もいじめてあげる」
「『も』って何! カミちゃんはなんだかんだで優しいから何もしてないでしょ!」
「それはつまりいいって事?」
「浮気性のカミちゃんなんて知らないもん」
リアがほっぺたを膨らませてそっぽを向いた。
「リア、一つ言わせて」
「今更言い訳しても知らない」
「私の一途な気持ちを犯したのはリアだからね」
「私のせいにするんだ」
「だってリア、家だと……ね」
確かに初めて会った時から予兆はあった。
だけどまさかここまで可愛いとは思わないじゃないか。
「そんな事言ったら、カミちゃんも可愛いじゃん」
「私の家での姿を知っててよく言えるね」
「照れたところも可愛いし、それに……」
リアが視線を私の顔から少し下に下げた。
「おい、誰が貧相で可愛いって?」
「そこまで行ってない。装着品の方」
「……覗き魔」
私がリアに下着姿を見られたのは、もう両手の指では数えられないぐらいだ。
何せこの二週間の着替えは全てリアがやってくれたのだから。
「リアのは見せてくれないくせに」
「だって私のって見ても仕方なくない?」
「ほんとずるい」
リアの本当の体は直径で十センチぐらいしかない。
今は見せかけだけ地球人に見えるように、体を構成している。
一応服の下に体はあるけど、あくまで偽物だ。
「いいよ、また泣かせるから」
「くすぐったいんだもん」
「いい声で泣きやがる」
私はリアの手のひらに人差し指を立てて線を書くようにくすぐる。
「やぁだ」
「そう言ってこういうのが好きなんでしょ」
「ちょっとクセに……なってないよ!」
私がリアと二人の世界に入って遊んでいると、前と後ろから何やら悪人の視線を感じる。
「私達は何を見せられてるの?」
「バカップルのイチャつきじゃん。付き合ってんの?」
「別に? そもそも付き合うって何?」
男と付き合うのすら分からないのに、リアと付き合うとはどういう事なのか分かる訳がない。
傍から見たら今のやり取りがそう見えるのかもしれないけど、私はリアという友達とじゃれあっていたにすぎない。
「カミちゃんって見た目だけならモテそうだけど」
「性格はクズだって?」
「そんな事言ってないよ。優しいけど、カミちゃん男の子に興味無いでしょ?」
「ない」
私は根っからの女の子好きなようで、初恋もまだだ。
それに私が女の子好きだと気づいたのはリア達と会ってからだけど、思い返してみたら、私が好きになる漫画やアニメのキャラクターは女の子しかいなかった。
「でもリアとなら付き合うってのもいいのかもね」
「またそんな事言う」
「だって結婚願望無いもん」
「じゃあ雷神の隣は風神である私でしょ」
ここぞとばかりに風奏が意気揚々と名乗りをあげる。
「じゃあの意味が分からなし」
「それなら私は愛人でいいや」
「それも意味分からないけど?」
チカも意味の分からないところで乗ってくる。
「ユメちゃんが妹なら、私とカミちゃんと風奏ちゃんで三角関係?」
「リアが私に向いてくれれば丸く収まるんだよ」
「いつか振り向かせてね」
多分本気で思ってはないのだろうけど、笑顔でそんな事言われたら勘違いしてしまう。
実は私は男なのかもしれない。
なんてくだらない事を考えていると、目の前にずっと何かを考え込んでいたユメがやって来た。
「ユメ?」
「……耳お借りします」
ユメはそう言うと私の耳に顔を近づけた。
「
「なっ、んだと……」
ユメの囁きにやられた。
リアとチカには未だに私の名前を教えていないから耳打ちしてくれたのだろうけど、破壊力がやばい。
「カミお姉ちゃん、大丈夫?」
「駄目かもしれない。なので慣らすところからお願いしても?」
「分かったカミお姉ちゃん」
「ユメ、なんか怒ってる?」
チカの言う通りユメは何故か怒っている。
理由なんて知らないし、読む気もない。
だから多分、私は今日一日持たないかもしれない。
「カミお姉ちゃんやっぱり具合悪い? 一緒に保健室行こ。元気になるまで一緒に居るから」
ユメが満面の笑みで言う。
私には天使の笑顔に逆らう事は出来なかった。
そうして私は学校復帰一日目を保健室で過ごす事になった。
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