第12話 リア この後めちゃくちゃ
「知ってる天井だ」
意識の戻った私の視界に入ってきたのは、毎朝嫌でも見る自分の部屋の天井だった。
「視力戻ってる。他にも色々と」
私は確か、リアの持っていた『力を数倍に引き伸ばす薬』を飲み、副作用で全身の感覚を失っていたはずだ。
時間経過で戻ったのならいいけど、そうでは無い気がする。
「どういう事か……」
こういう時はまず辺りを見回すのが定番なので、さっきから人の気配がある左側に視線を向けた。
するとそこには寝息を立てずに寝ているリアが居た。
(落ち着け私。起きてるリアに手を出すのはいいけど、寝てるリアに手を出したら犯罪だからな)
あまりにリアの寝顔が可愛すぎて、いつもは一割ぐらい冗談でリアを襲っているけど、本気で襲いそうになった。
(可愛いより綺麗? いやでも、あどけなさがあって可愛いな)
リアの顔をこんなに近くで観察した事はなかったから気づかなかったが、肌が白くて綺麗で、耳は小さくて可愛い。
それにまつ毛も長くて、少し茶色がかった目も……。
「おはようしてる?」
「……」
さっきまでは確実に目を瞑っていたけど、今は開いている。
だけどリアの反応はない。
「イタズラしていいかな?」
私はそう言ってリアの柔らかそうなほっぺたをつつく。
「ちょっと違和感?」
柔らかい。柔らかいのだけど、どこか違和感がある。
「なんか作り物感がある?」
「カミちゃん……」
「びっくり」
私がリアのほっぺたをつまんでふにふにしていたら、さすがにリアが起きたようだ。
「びっくりって言った割には続けるんだね」
「駄目?」
「……先に謝らせて」
「却下。続けるね」
私には謝られるような事をされた記憶が無いので、リアのほっぺたを楽しむ事をやめない。
「お願い。カミちゃんにはちゃんと伝えたいの」
「……仕方ないか。今は聞いてあげよう」
私はそう言ってリアから手を離す。
(後でいっぱい続きやろ)
多分これからシリアスな話が行われるのだろうけど、リアに罪悪感があるのならそれを晴らす為にも私が罰を与えないといけない。
そういう大義名分があれば、私はリアに何でも出来る。
「カミちゃんが何考えてるのか分からないけど、叶うか分からないよ」
「大丈夫。リアは優しいから」
「……そうでもないよ」
リアの顔が辛そうになり、俯いた。
「それでどこから話してくれるの?」
「まずはカミちゃんが意識を失った後の話。カミちゃんをここに運んだのは私。カミちゃんがマギア人を倒してくれたから元のこっちに戻れたの。それで私がワープを使ってこの部屋に……」
リアに感謝する場面なのだろうけど、リアの辛そうな顔がそうさせてくれない。
「ワープって私は出来ないんじゃなかったの?」
「出来ない可能性が高かっただけで、絶対に出来ない訳ではなかったの。だけど私はその可能性を事前に上げてはいたんだけど」
「どゆこと?」
リアが私の身体がワープに耐えられるようにしていた。
意味は分からないけど、私が寝てる間に改造でもしたのかと、私は自分の身体をぺたぺたと触る。
(変わらぬ程よいサイズ)
「誰がペチャパイだ!」
「え?」
「なんでもない。セルフツッコミしただけ」
私の胸は無い訳ではない。
少なくともユメよりかはある……はず。風奏やリアよりは小さいけど。チカは規格外だから知らない。
「続けて」
「あ、うん。一回さ、カミちゃんが私にキスした事あったよね」
「うん」
あれは確か、リア達と仲直りしてリアが私の部屋に来た時に、リアの服を脱がそうとして本気で拒絶された時だ。
リアは服を脱がされるのが嫌で涙を流していた。
「私の着替えは覗くのに、自分は見られるのが嫌なんだもんね」
「私のは不可抗力で……って違くて。あの時、私の涙の上からキスしたでしょ」
「そういうやつか」
「うん、私の涙。つまり『体液』を摂取して、私達の発明品に対する耐性が付いたの」
リアの体液と言われると興奮しそうになるが、宇宙人であるリアと地球人の私では、体の作りは似ていても、耐性や抗体みたいなものは全然違うのだろう。
だから私はリアにワープを使わせてもらえなかった。
「じゃあリアって地球のウイルスに弱いとかあるの?」
「弱いのも強いのもある。だけど私の場合は先にワクチンを作って抗体があるから大丈夫なの」
「さすが科学の力ってすげー、だよ」
地球よりも遥かに進んだ科学力を持つリア達スキエンティア人なら、地球のウイルスに対するワクチンが作れてもおかしくは無い。
「つまり私達地球人はリアのたい……、涙を摂取するとリアの発明品を使えるって事?」
「そこら辺が私の罪。カミちゃんに謝らないといけないところなの」
リアの表情が一気に暗くなる。
見ていたくない顔だ。
「まず、私が地球に来た理由から話すね」
「世界征服では無いって事?」
「最初はそのつもりだったよ。地球を手中に収めた方が手っ取り早かったから」
「つまり、他の理由の為の次いでに地球を征服しようって思ってたと」
それなら私の『読心術』が外れてはいない事になる。
別に百発百中を謳ってはいないからいいのだけど。
「そうなるかな。もう分かってると思うけど、私が地球に来たのはマギア人を追いかけてなの」
「でしょうな」
マギア人の魔法少女はリア達スキエンティア人と犬猿の仲と言っていた。
その二つの星の人間が、同じ地球に現れるのはタイミングが良すぎる。
「あのマギア人は、地球のオタク文化に目を付けたみたいなの。私達を別の空間に閉じ込めたり、電車を吹き飛ばしたり、人を焼き殺せる程の炎を生み出したりなんて普通のマギア人なら不可能な事なんだけど……」
「つまりあの力は地球で得たオタク知識が原因と?」
リアが頷いて答える。
どうやら本当に発想一つで変わるようだ。
「でも漫画の中でも違う魔法の使い方とかあるよ?」
全ての漫画が同じ原理で魔法を使わせている訳ではない。
今のご時世、少しでも似た設定を使うとパクリだと言われるから。
「魔法の使い方って言うよりは、その先の、魔法の変化のさせ方かな」
「変化……、水なら先の方を尖らせると勢いが増すみたいな?」
「そう。そういうちょっとしたアレンジの発想があれば、後はそれを試行錯誤して作り出すだけ」
リアは前に「実現する力はあっても、それを想像する力が地球人と比べると少ない」と言っていた。
つまりは、火に油を注ぐと勢いが増したり爆発する事を知れば、辺り一面を一瞬で火の海に出来る火炎瓶をいくらでも作れるという事だ。
「まぁなんとなく分かった。それで地球に来た理由を隠してたのが罪?」
それぐらいなら罪とは言わない。
隠すのが普通だし。
「ううん。本題はこれから」
リアの表情が固くなり、今にも泣きそうになる。
「私の涙を摂取したからワープに耐えられたって言ったよね?」
「言われた」
「だけど実際は涙、普通の体液を摂取するだけじゃ何も変わらないの」
(そういう事か……)
ここまで聞けば『読心術』を使わなくても分かる。
「あの涙は偽物で、私にスティア人の発明品に対する耐性を付ける為のものって事?」
リアが涙を堪えながら頷いて答える。
「それで、その耐性はワープの為に付けさせた訳では無いんだよね?」
「……うん。ワープは必要だったから使っただけで、本当は使う必要なかったの。本当の理由は……」
(優しい子だこと)
リアが本気で悲しんで、本気で悔やんでいるのが分かる。
なぜ分かるって、そりゃあ『読心術』を使ってるからだ。
使わないとは言ったけど、私はリアの発言を全て信じ切れる程付き合いが長い訳では無い。
普通の友達の時は裏切られてもそこで関係が終わるだけだから別にいい。
だけど死の淵まで行かされて、それの案内人を手放しで信じれる程私は優しい人間ではない。
結果的に読んで後悔しているけど。
(後でリアにごめんなさいしよう)
リアが言葉に詰まっているが、そんなの無視して頭を撫でる。
「カミ、ちゃん……」
心を読んだから分かる。
リアが私に耐性を付けたのは『力を数倍に引き伸ばす薬』を使っても耐えられるようにする為。
リアは最初から分かっていたのだ、あの魔法少女が手に負えない程に力を付けていた事に。
だから私という『他称、力の強い人間』を利用した。
リアが薬を飲んでも勝てないから、私に耐性を付けて戦わせる為に。
「ごめ、んなさい。わた、しのせいで、痛い思い、させて」
リアが涙を流しながら言葉を紡ぐ。
「大丈夫。そう簡単に許してあげないから」
もちろんリアがした事を許せないからでは無い。
こういう真面目な子は、簡単に許してもずっと責任を取ろうとする。
それなら分かりやすく罰を与えるのが一番いい。
「どんな罰でも受けます」
「言った……、どんな罰でも?」
(それって回数制限無いのでは!?)
リアにお願いしたい事が一つだけあったけど、回数制限無しならあんな事やこんな事をしてもいいのではと頭を
「それはおいおいでいっか。じゃあ罰ね。脱ぎなさい」
「服を?」
「それはもうちょっと暗くなってからで。前に泣いた理由の方」
「……分かった」
リアには何か秘密がある。
私達には知られたくないような秘密が。
地球に来た理由もそうなのだろうけど、それとは別に、何か容姿に関する事で。
「なるほど。それが本当の姿って事か」
リアの脱いだ姿。つまり元の姿はシンプルに言うと痩せていた。
「地球人の見た目に合わせてたの?」
「うん。こんな地球人いないでしょ?」
確かにいない。
だって顔も体も両手で掴めそうだ。
腕ではなく手のひらで。
「それで嫌がったのね」
「うん。でも最初は宇宙人ってバレない為に人間の姿を真似してたけど、カミちゃんに見られそうになった時は純粋に怖がられるのが怖かったからなの」
「怖いねぇ……」
確かに普通の人間が見たら恐怖や嫌悪を向けそうだ。
リアもそれが分かっているから姿を誤魔化していたし、今も震えている。
「別にリアはリアでしょ。確かにその姿だと抱きしめた時に折れそうだから抱きしめられないけど、それだけじゃん?」
加減さえ気をつければ手を繋ぐぐらいは出来そうだ。
「カミちゃんだもんなぁ……」
リアの姿が元に戻り、私に抱きついてきた。
「いきなりご褒美!」
「私も今はこっちの姿がいいや。大好きなカミちゃんを抱きしめられるし、抱きしめてもらえるんだから」
リアが涙を流しながら今までで一番の笑顔を向けてきた。
「……好き」
「……あ、ありがとうございましゅ」
この後めちゃくちゃ──。
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