第11話 リア 最後は共に……

「リア、リア!」


 電車から投げ出された私は、私を庇って大怪我をしたリアに呼びかける。


 だけどリアからの返事はない。


「あれ? 地球人の方は生きてる。スキエンティア人のせい?」


 どういう原理かは分からないけど、電車を吹き飛ばしたであろう少女が歩いて近づいて来る。


「スキエンティア……?」


「そ。そこで倒れてる、死んでるのかな? それはスキエンティア星のスキエンティア人。長いからスティア人って呼ばれることが多いかな」


 少女がめんどくさそうに説明する。


 私はそれを聞いてリアの顔を覗く。


「そういえばそんな事も知らなかった……」


 リアは宇宙人。つまりはどこかの星に住む人間だ。


 だけど私はリアの住む星の事も、リアがどんな生活をしてたのかも知らない。


「それで私はマギア人。スティアとは犬猿の仲なんだよね」


「つまり、私とリアを襲ったのは気に食わないからだと?」


「違うよ。そんなくだらない理由の為にスティアの連中に構わないから」


 マギア人の少女はあざけ笑いながらそう言う。


「私はただ、邪魔をしようとしてるスティア人に制裁を加えただけ」


「見た目通りの子どもってことか」


「は?」


 私は別にどうでもいい相手なら心を読む。


 何かに守られてる感じがあって全部は読み取れないけど、マギア人は地球を文字通り征服しに来たようだ。


 地球を選んだ理由はリアと同じで、想像力の優れる地球人の文化を取り込む為。


 そしてマギア人はさっきリアが話していた魔法を使える宇宙人。


 魔法で宇宙全てを征服する為に地球にやって来た。


「もう一回言ってみな?」


「子どもだって言ったの。やりたい事があるって言って邪魔されそうになったら癇癪を起こす。子どもと何が違うの? 私はあんたみたいな自分を世界の中心だと思ってるクソガキが一番嫌いなんだよ」


「……」


 マギア人は黙って私を睨んでいる。


 私はただの一般人だから魔法に対抗する事は出来ない。


 リアの話では生活魔法程度の戦闘に向かない魔法しか使えないと言われたが、私達を別の空間に閉じ込めたり、電車を吹き飛ばしてる時点でリアの言葉は嘘になる。


 リアが嘘を言う理由がないし、リアの反応からあの少女が特殊なのは分かる。


(アニメとか漫画なら私に特殊な力が目覚めたり、誰かが助けに来てくれるんだけど……)


 そんなのはフィクションの世界だ。


 私はただの一般人だし、ここはあのマギア人が作ったであろう空間だから助けも望めない。


(控えめに言って絶体絶命だよね……)


 唯一の救いであるリアも目覚める様子はない。


 それどころか早く治療しないと手遅れになる。あくまで地球人なら。


 スティア人のリアならどんな傷でも自己修復可能という可能性もあるし、逆に既に手遅れの可能性もある。


 だからどちらにしろ、早くここを出なくてはいけない。


「出る方法は一つだけか……」


 私は唯一の脱出の方法へ視線を向ける。


「ずっと睨んでるけどなに? 私に惚れたの? ごめんね、それならせめてリアより可愛くなってから出直して」


 私の好きなユメはリアよりも可愛い。


 まぁユメは愛でたい可愛さで、リアは襲いたい可愛さだから意味が違うけど。


「黙れ小娘。地球人の分際でわれを侮辱した事を後悔させてやろう」


「私、小さい子をいたぶる趣味ないんだけど」


 私はそう言ってリアに「ちょっとまっててね」と伝えて自分の上着を丸めて枕にして寝かす。


 本当は目覚めるまで膝枕していたいけど、そうも言ってられない。


 リアの身体を整えてから私は立ち上がった。


「どこまでも我を侮辱す……」


「黙れクソガキ」


 私の拳が少女のお腹に吸い込まれた。


 あ、殴っただけ。


「痛くて声も出ない?」


「どういう理屈だ」


「何が?」


「とぼけるな! 地球人ごときを我が見逃すはずがない!」


「目が悪いんじゃないかな。眼鏡付けたら?」


 私が煽ると少女の私を睨む瞳の色が変わる。


 元は黒だったのが、赤へと。


「充血してるよ」


「死ね」


「っぶな」


 私の耳元を炎が走る。


 多分ギリギリ躱せるところを狙ったのだろうけど、躱せたのはまぐれだ。


「さすがに遠距離からちまちまやられると無理だよね」


「安心しろ。一撃で……」


 またも私の拳が少女に吸い込まれた。


「手応えはないんだよなぁ。殴ってる私が痛いから障壁張ってる?」


「お前ほんとに地球人か?」


 さっきまで怒髪天に届きそうな程怒っていたように見えた少女が心底不思議そうに聞いてくる。


「そうだけど?」


「視線操作で消えるのはまだ分かる。だけどその力はなんだ?」


「……」


 私は自分の拳を静かに眺める。


 私が二度魔法少女を殴れたのは、漫画やアニメでよくある、まばたきや視線を逸らした瞬間に近づくあれのおかげだ。


 バレると使えないけど、初見なら確実に近づける。


 そして私の力は……。


「しんない」


「隠すか」


「いやマジで」


 私は力が強いらしい。


 私のデコピンは頭蓋を割る程だと風奏が言った事がある。


 確かに痛そうだけど、さすがに頭蓋は割れない。


「私は生まれつきか成長につれてなのか、力が人より強いみたいだけど、私からしたらみんなが大袈裟なだけだし」


 確かに父との腕相撲で負けた事はないけど、それは父が弱すぎるからであって、私が強い訳じゃない。


 実際父は机すら運べないし。


「ギフテッドというやつか」


「力の強い事が? 私一応女の子なんだけど」


 どうせならギャルゲーの主人公のように、可愛い女の子に囲まれる能力が欲しい。


「暴力女は嫌われる運命にある」


 少女はそう言って炎の弾を私の顔面に飛ばす。


「暴力女ね。確かに私は暴力を振るうよ──」


「直撃……なっ!」


「だけどリアを助ける為なら嫌われたって構わない」


 私の三度目の拳でやっと少女がふっ飛んだ。


「今度のは効いたろ」


 身体が軽い。今なら視線操作が無くても目には見えない速さが出せそうだ。


「……何をした」


「腹を殴った」


「違う! その力はどうやって手に入れた」


「教える義理ある?」


 答えは単純明快。さっきリアの身体を整える時にリアが前に言っていた『力を数倍に引き伸ばす薬』を探した。


 リアは誰かに襲われる事も想定に加えていたから、もしもの時ように持っている可能性に賭けた。


 そしたら『つよくなるやつ』と書かれたケースに赤と青のゲームでよく見る薬が入っていたので拝借した。


 そしてさっき炎が私の顔を覆った時に薬を飲んだ。


 どうせ避けられないからと、ドーピング後の私に賭けたらなんと無傷だった。


(すごい薬だよ。まぁ副作用もそれだけあるんだろうけど)


 リアからどんな副作用があるかは聞いていないし、効力もどれだけあるのか分からない。


「私の身体が壊れる前にあんたを倒せばいいんだよね」


「期限付きの力か。それなら負ける事はない」


 少女はそう言うと自分の周りに大量の炎の弾を生み出した。


「やっぱり遠距離からちまちまは変わらないのね」


「認める。元の力でも我の障壁にヒビを入れる力。そして今は一撃で障壁を破り、我の身体を壊す力がある。そんなお前に近づく事はしない」


 少女はそう言って炎の弾を緩急をつけて飛ばしてくる。


 私はその弾幕にただ突っ込む。


「焚き火に当たってる感じかな。ちょっと熱い程度」


「化け物め……」


「失礼な。私はどこにでもいる、可愛い女の子が大好きな女子高生だっての」


 私はそう言って少女のお腹に再度本気の拳を打ち込んだ。


 今度のはさっきのよりも深く入ったようで、吹っ飛んだ少女はピクリとも動かない。


 一応確認したが、息はあった。


 赤い世界もバグったように崩れていく。


 これで一旦は一件落着になる。


「リアのとこ行か……」


(ありゃ?)


 視界がぼやけてリアの居場所が分からなくなる。


 なんとなくは分かるからそちらに向かおうとするが、今度は足が言う事を聞かなくなる。


「──」


(声もですか……)


 声を出そうとしたら声も出なくなる。


 時間と共に身体が動かなくなってきた。


(副作用か……)


 分かってはいたけど、強大な力には相応の副作用があるようで、それが分かった私は身体が完全に動かなくなる前にリアの元を目指す。


 足は動かないので、這って行く。


 既に目も見えないから向かってる先にリアが居るかも分からない。


 だけど私は目指す。


 リアなら何とかしてくれるから、なんて都合のいい事を思ってるからじゃない。


 動かなくなるのか最悪死ぬのかは分からないけど、どちらにしろ最後はリアの隣に居たい。


(まぁ無理か……)


 もう身体の感覚は消えた。


 前に進んでいるかも分からず、自分が今何をしてるかも分からない。


(思考も……だんだん……)


 頭も上手く回らなくなってきた。


 もう何も考えられない。


 私は結局独りで寂しく消えていく。


 意識が消える前に、熱いような暖かいような感じがした。


 それが何かは分からないけど、私の意識はそこで完全に途絶えた。

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