第9話 リア お願い

「それで私は何をしたらいいの?」


「んとね、まず恋人繋ぎをやめて普通に話そ」


 昨日、リアから世界征服の手伝いをして欲しいと言われた私は、今日も着替え中にやってきたリアと共に居る。


 二日連続で押し倒されたのがトラウマになったのか、今日は距離を取られたので押し倒せていない。


 その代わりに着替え終わった私はリアとベッドに隣同士に座り、恋人繋ぎをしている。


「カミちゃんはユメちゃんが好きなんだよね?」


「好きだよ。リアは反応が可愛いからやりすぎちゃうんだよね」


「またユメちゃんに距離取られちゃうよ」


 昨日のユメはとても可愛かった。


 私とリアの顔を見れないのは仕方ないとして、おふざけでリアの手を握ろうとしたら慌てて顔を逸らしてちらちらこちらを見てきていた。


「ユメと言えばなんだけど、私はリアとユメに家の場所教えてないよね?」


 別に隠している訳でもないけど、わざわざ教える必要がないから誰にも家の場所は教えていない。


 それなのにリアとユメは当たり前のようにうちに来ている。


「私とユメちゃんが透明になれるのをお忘れかな?」


「これでチカも来たらそれは嘘になるけどいい?」


「私達が教える可能性は無いの?」


「チカならともかく、リアとユメは教えないでしょ」


 チカなら面白半分で私の個人情報をばら撒いてもおかしくないが、リアとユメは根が真面目すぎるのでそんな事は絶対にしない。


「確かにカミちゃんとせっかく仲直り出来たのにそんな事はしないね」


「それで誰から教えてもらったの?」


「知らない人」


「またか」


 昨日も聞いたけど、リアは知らない人から知識を得すぎだと思う。


 そしてその知らない人はなぜ私の家を知っているのか。


「リアはもう少し知らない人を疑おうよ」


「えっとね、説明が難しいんだけど、知らない人ではあるんだけど、どこか知ってるような感じなの」


「どんな人?」


「それもね分かんない。おぼろげで、知らないのは分かるんだけど、それ以外が何も思い出せないの」


 よく分からないけど、アニメとか漫画でよくある認識阻害みたいなものなのだろうか。


 普通ならそんなの信じられないけど、目の前に宇宙人が居るからそれも有り得ると思える。


「まぁいっか。いざとなったらリアが守ってね」


「それなら大丈夫だよ。カミちゃんのお家には結界が張ってあるから」


「勝手にすごい事されてた」


「勝手にごめんなさい。私が知らなくても、カミちゃんの知り合いの可能性は全然あるんだけど、それでもやっぱり不安で……」


 リアが離せと言われて離した私の手をいじりながら言う。


「そんな事言うと今日も押し倒すよ?」


「やっぱり勝手にしたの怒ってるよね。分かった……」


 リアが申し訳なさそうに言うと、ベッドに身体を倒す。


 そして両手を胸の前に置いて目を閉じる。


「感謝のつもりだったんだけど、リアがその気なら据え膳食わぬはなんとやらって事で襲うけど」


 私はそう言ってリアにまたがる。


「先に言っとくね。リアのした事に対して怒ったりはしてないよ。むしろ私を守る為にやった事なんだから誇るべきだよ」


 リアの胸を撫でながらそう伝える。


「カミちゃん、そこは頭を撫でるんじゃないの?」


「ごめん、そこにいい胸があったから」


「カミちゃんってお家だとエッチだよね」


「リアが悪い。私をそういう気にさせるんだから」


 私は別に常日頃から女の子の身体を触りたいとか思ってる訳ではない。


 むしろ人との関わりを極限まで避けていくタイプだ。


 だけどリアとユメはそんな私に手を出させる容姿と行動をするから仕方ない。


「リア達と一緒に居て思ったんだけど、私ってホモサピエンスと相性悪いのかも」


 リアとチカはどういうくくりになるのか分からないけど、要は私と同じ括りの人間と相性が悪い。


 ユメも元はそうなのだけど、今は幽霊だから相性がいいのかもしれない。


「カミちゃんがそういう人だから私達に好かれるんだよ」


「どゆこと?」


「カミちゃん達を『人間』で一括りにしないところ。私は地球で見たら宇宙人だけど、自分の星だと一応人間になるから『人間』って言葉を使わなかったんでしょ?」


 その通りではある。


 リアは自分の星で、チカは地底で、ユメは元は人間になるから、私達を『人間』と言うとリア達が人間でないと言っているようなものだ。


 それはなんだか嫌だ。


「そういう他人の気持ちを考えられるカミちゃんだから私達は真実を知られても仲良くしたいって思ったんだよ」


「記憶を消す事も考えてたりした?」


「もちろん。私の力があれば、地球人の記憶を消す事なんて容易いからね。でもそれをしたらここを離れないといけなくなるから最終手段だったけど」


 私達の記憶を全部消してもう一度やり直しても、また私に心を読まれて同じ事が繰り返される。


 だから記憶を消すならその後にリアは私から離れないといけない。


「だけどチカちゃんとユメちゃんも似たような境遇でしょ? こんな偶然が他でも起こるとは思えないし、それにせっかく仲良くなれたみんなと離れたくなかった」


「私達の記憶を消してもリアは覚えてるんだもんね」


「うん。自分のも一緒に消したら、またカミちゃんと会う可能性があるから」


 どこまで行っても私という障害が付きまとう。


 それに『読心術』は私だけの力では無いから、次の地でも会う可能性が絶対に無い訳ではない。


「だったらカミちゃんと仲良くして、黙っててもらうのが一番いいと思ったの」


「私みたいに、馬鹿正直に『あなたは宇宙人』なんて言う人いないだろうしね」


 多分宇宙人を読心術で見つけた人がいたら、証拠を探してテレビ局か何かに連絡をするだろう。


 そういう連中しかいないからホモサピエンスとは仲良くなれない。


「ほんとにバレたのがカミちゃんで良かったよ」


「神井さんにもバラしちゃったけどね」


「カミちゃんのお友達なら大丈夫だよ」


「別に友達じゃないけど? 何故か付きまとわれてるだけで」


 風奏の事はリア達以上に分からない。


 何が目的で私に近づくのか。


「カミちゃんがいい人だって分かってるからだよ」


「私はいい人じゃないっての」


「本当にいい人は自分がいい人だって気づかないんだよ」


 リアが微笑みながら私の頬に触れる。


「やめろし」


「あ、照れた。カミちゃん可愛い」


「うるさい! それより世界征服の手伝いの話!」


 からかうのは好きだけど、からかわれるのは苦手だ。


 からかった事はないけど。


「じゃあまずどいて」


「やだ、このまま」


「カミちゃんの照れてる可愛い顔を見ながらやるんでもいいけど」


 私はその程度で引き下がる程いい子ではない。


 だけど腕をついているのが疲れてきたからリアの胸に倒れ込む。


「顔を見られるのは恥ずかしいと」


「いいの。それで私はリアの邪魔する奴を蹴散らすのが仕事?」


「五十点」


「意外と高得点」


 絶対に違うであろう事を言ったのに、まさかの半分正解。


 どうやら『世界征服』は言葉通りに捉えていいのかもしれない。


「正確には邪魔をされるかもしれないから、それの対処はお願いしたいの」


「物理で?」


「それは最終手段。それに邪魔されるかは分かんないし、されない可能性の方が高いから」


 それは完全な死亡フラグな気がする。


 その時はその時だけど。


「今のが五十点で、残りの五十点が重要なの」


「それなら三十点とかにしたら良かったんじゃないの?」


「こういう時は勘のいい子は嫌いって言うのが正解?」


「リアに嫌われて泣くかも」


「嫌わないもん! カミちゃん大好き」


 リアはそう言って私を抱きしめる。


「揚げ足取るのは私の癖だから気にしないでね」


「ちゃんと返せるようになるね。えっとそれで残りの七十点だけど」


(ちゃんと取り入れてくれるリアの真面目さが好きなんだよね)


 言葉にはしないけど、ここまで素直だと話しやすいから好きだ。


 裏読みなんてめんどくさい行為をしなくて済むのだから。


「聞いてる?」


「聞いてなかった」


「もう! 大事な話なんだからちゃんと聞くの!」


「怒ったリアも可愛いよ」


 私がそう言うとリアが無言で背中をぽかぽかと叩いてきた。


 力が入れていないのか、叩かれてる感触がない。


「それで?」


「ちゃんと聞いてよ。カミちゃんには、地球の中でもここ日本が誇るものを紹介して欲しいの」


「日本が誇るものって何? ブラック企業の多さ? 他の国はどうなのか知らないけど」


 私は何にも興味を持たないで生きてきたから、日本が世界に、宇宙に誇れるものが何かなんて二つしか知らない。


「アニメとか漫画のオタク文化だよ!」


「まぁ日本と言ったらそれと相撲ぐらいしか無いか」


 その二つなら誰でも知っている日本が誇れるものだ。


 逆に他に何かあるかは本当に分からないけど。


「宇宙人が漫画を好むって設定多いけどなんで?」


「他の星の事は分からないけど、私達は科学力がすごいでしょ? だけど実現する力はあっても、それを想像する力が地球人と比べると少ないの」


「なるほどね。地球人は妄想力が強いから」


 今この瞬間にも新しい作品が生まれているかもしれない。


 名も無き作品を含めたら毎秒生まれててもおかしくない。


「カミちゃんも漫画読むんだよね?」


「そだね。三次元に興味の無い人は基本的に二次元を求めるから」


 とは言っても、私はオタクと呼べる程漫画やアニメに詳しい訳ではない。


 沼に足先を触れさせている程度だ。


「まぁでも私でよければお店の案内とおすすめぐらいなら紹介するよ」


「ほんと!?」


「そんなに喜ぶこと? それぐらいなら下校中でも出来るよ」


「でもカミちゃんはバイトで忙しいだろうし」


「確かにこれからバイトはあるけど」


 そろそろのんびり出来ない時間になってきている。


 最近はギリギリばかりだ。


「三時には終わるからそれからでもいい?」


「うん。待ってる間に結界の強化してるね」


「ありがと」


「……していいの? カミちゃんのお部屋に居座るって事だけど」


「問題ある? リアになら下着見られてるからクローゼット開けられてもいいし。それにリアは変な事しないでしょ?」


 チカなら『現役女子高生使用済みの下着』とか書いて私の下着を売る可能性があるから帰らせるけど。


「リアとユメになら信用出来るから。一応言うと、部屋を片付けられない程汚したり、勝手にものを売ったりしたら駄目だからね?」


「しないよ! というかそれ以外ならしていいの?」


「常識の範囲内ならね。ベッドで寝たりするのはいいよ」


 可愛い子に使われるのならベッドも本望だろう。


「リアの甘い匂いを付けてくれていいから」


「言い方……。でも分かった、カミちゃんのお家は私が守るね」


「お願い」


 私とリアは笑い合い、名残惜しくも私は起き上がって準備を始めた。

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