第8話 リア 一線を越える?

「カミちゃん、ちょっといい?」


「……色々と言いたいことがあるし、良くないけどいいよ」


 屋上での一件から数日が経ち、私達の関係は初日に戻った。


 それだけ聞くと関係がリセットされたようだけど、私達の場合は初日から何故か良い関係を築いて、次の日に崩れたので現状は仲はいいことになる。


 だけどリア達と秘密を共有して、更に仲良く? なったのはいいのだが、逆にリア達はその秘密を隠さずに利用するようになった。


 今もそうで……。


「昨日も言ったけど、私の部屋にワープで入るまではいいよ。だけど着替えてる時はやめて」


「こればっかりはタイミングの問題だから仕方なくて。だけど昨日も思ったけど、カミちゃんってそういうの興味無さそうなのに、下着可愛いよね」


「リア、見ていいのは見られる覚悟のある奴だけなんだよ」


 私は昨日と同じくそう言ってリアに手を伸ばす。


 無駄なのを知りながら。


「ふっふっふー。私のワープがあれば人間に捕まらないのなんて造作もないんだよ!」


「ドヤるな。実は下着付けてないとか?」


「私の星では付ける文化はなかったけど、地球に来てからは付けてるよ」


 リアはそう言って制服をつまんで自分の胸を覗く。


 私はそれを一緒に覗き込む。


「どういう原理だよ」


 リアの制服の中は言葉では表せないモヤモヤでいっぱいだった。


「ずっと見てたら頭をやられそう」


「除き防止だよ。ちなみに人地球人が見ると二分で脳がおかしくなるから見ない方がいいよ」


「先に言いなさいよ」


 私は少し残念な気持ちでリアから離れる。


「でもワープっていいよね。遅刻しないで済む」


「目的地の座標がズレて土とか壁に埋まると死んじゃうけどね」


「リアでも?」


「私も結局生物なのに変わりはないからね。地球の人間よりも頭がいいってだけ」


 地球人にマウントを取っているようにしか聞こえないが、実際その通りだ。


 リアのワープや透明になる力、それと今みたく普通に話せているのと他の星に渡るなんかの全てが科学力らしい。


 それを考えると、地球人よりも遥かに知能が高いのが分かる。


「じゃあそんなリスクを負ってまでワープを使うなし」


「それはあれだよ。カミちゃんに会いたくて」


 リアがモジモジと言う。


 これだけ見たら、クラスの男子は全員もれなくリアに惚れる。


 かくいう私も今のリアを可愛いと思ってしまった。


「あざといんだよ」


「照れ隠しが酷い!」


「あざと可愛い」


「それならいいや」


 リアと数日一緒に居て分かったことがある。


 それはリアが嘘をつかないこと。


 リアは基本的に本能で生きていて、やりたい事はやりたいと言うし、やりたくない事はやりたくないと素直に言う。


 だから私にとっては一番話しやすいタイプだ。


「それで今日来たのも一緒に登校したいから?」


「それもあるけど、お願いがあるの」


「お願い?」


 リアに出来ないことが私に出来るとは思わないけど、一応話だけは聞いておく。


 何せリアの表情が今までになく真剣だから。


「でもカミちゃんなら分かっちゃうか」


「あ、大丈夫。リア達の考えは読まないようにしてるから」


 友達、と思っていいのかは分からないけど、そんな相手の心を読んで嫌われている事に気づいたら、私は今以上に人を信用出来なくなる。


 だから普段はリア達の心を読まない事にしている。


「そうなんだ。えっとね、お願いって言うのは、私の『世界征服』を手伝って欲しいの」


「スケールがでかいな」


 てっきり「地球の事を教えて欲しい」とかだと思っていたけど、スケールの大きさにどう返したらいいのか分からない。


「えっと、世界征服を手伝うっていうのは、私がリアと一緒に地球を征服するって事?」


「簡単に言うとそう」


「難しい言い方があるの?」


「あるよ。ただ、今話しても理解は出来ないと思う」


 リアの言う事なら信用出来るし、そういうことならリアの真意を読みながら聞くことも出来る。


 だけどなんとなく、リアが今は話す気が無いように見えるから聞くことはしない。


「まぁいいよ。あくまで『征服』するだけなんでしょ?」


「うん、壊したり蹂躙したりはしない。私は別に武力は無いから」


「そういう化学もあるでしょ?」


 リア達の星は、武力よりも知力が優れている星らしいが、それなら知力で武力をカバー出来るはずだ。


 例えばパワードスーツみたいなもので。


「あるにはあるよ。ただ、私達って多分カミちゃんが想像してる数倍は弱いの」


「筋力とかそういうのが?」


「うん。だから『力を数倍に引き伸ばす薬』とかあるんだけど、元が弱すぎて話にならないし、それに副作用に耐えられない」


 少し考えたら分かることだった。


 単純に『力』と表現されると分かりにくいが、筋肉を無理やり付けて強くなったとしても、使い方が分からないだろうし、何より急な身体の変化に身体がついて来れない。


 一般人がいきなり拳銃を渡されて使えないのと同じように。


「理屈が分からないけど、パワードスーツとかも駄目なんだよね? あれって身体を無理やり動かしてる感じだし」


 私は科学の力で戦う系のアニメや漫画はあまり見ないからよく分からないけど、中の人に負担が掛かるのはなんとなく分かる。


 きっと普通に着たらリアでは耐えられないであろう。


「リアって華奢だよね」


「いきなりな、え?」


 制服の上からでも分かるリアの腕の細さ。


 それが気になって、ついリアの腕を触ってしまった。


「ど、うし……んっ。や、あの……」


(反応可愛い)


 リアの腕の細さを確認するのが目的だったけど、反応がいいので悪ノリして色んな場所を触ってしまう。


「カミ、ちゃん。触っちゃ、や……」


「リアが可愛いのが悪い」


「ユメ、ちゃっ……んに言いつけ、りゅよ」


 リアに肉薄して色んな場所を触っていたら、リアの顔が真っ赤になっていた。


(可愛いがすぎるんだよ)


 そんな顔されたらやめられない。


「リア、ベッド行こ」


「だめ、だよ。またしちゃう……」


「昨日は結局しなかったでしょ?」


「でも、ギリギリだったもん」


 昨日も恥ずかしがるリアが可愛くて似たようなことをして、ベッドに押し倒した。


 そして一線は越えない程度に人には言えないことをしていた。


 結果、遅刻ギリギリになった。


「いざとなったらワープしよ」


「駄目なの。誰かに見られたら大変だし、何よりカミちゃんの身体が再構築されるか分からないから」


 ワープの理屈が分からないからリアの言う事を聞くしかない。


 リアの言い方から、ワープは一度身体を粒子にしてから、ワープ先で身体を元に戻す感じだ。


 確かにそれなら宇宙人のリアと地球人の私では同じ結果になるとは限らない。


「転校初日にワープしなかったのは見られたくなかったから?」


「違うよ。あれは知らない人から地球を学べる叡智の書を貰って、それを再現したの」


「叡智の書?」


 リアが「これ」と手元にある漫画を見せてくれた。


 漫画ということに突っ込みを入れたいけど、それ以上にさっきまで何も持ってなかったのに、いつ漫画を持ったのか気になる。


「この本でね、転校生は食パンを咥えて走るのが描いてあったから真似してみたの」


「知らない人から貰ったものを信用するんじゃないの」


「でもそのおかげでカミちゃんと仲良くなれたよ?」


 そんな事を言われたら嬉しくなってまたリアをベッドに押し倒してしまう。


 考えるより身体が先に動いていたが。


「昨日の続きしよ」


「駄目だよ……。女の子同士だし、学校あるんだよ?」


「性別なんて些細なもの。それに明日は休みだよ」


「性別はまだ分かるとして、明日が休みなのは関係ないよ!」


 確かにその通りだが、私はずっとやる気満々な姿だから止まる気はない。


「せっかくリアが下着姿の私に会いに来てくれたんだし」


「だからたまたまなの! というかカミちゃんの準備が遅いんだよ!」


「リアが早すぎるんだよ。私は出来るだけ寝てたい派だから」


 私はそう言いながらリアの制服のボタンに手を伸ばす。


「脱がすね」


「駄目!」


「手が止まらないからごめん」


 リアは抵抗しているようだけど、力が弱すぎて私が止まることはない。


「駄目、なの……。カミちゃん、お願い……」


 リアの目元に涙が浮かんでいた。


「ほんとに駄目なやつか。ごめんね、リア」


 ちょうど外し終えたボタンを付け直しながらリアに謝る。


「でも一回だけ抱きしめていい?」


「優しくしてくれるなら」


 そんな事言われたらまた歯止めが効かなくなりそうだけど、ここは抑える。


 そしてリアを優しく抱きしめ、涙が伝う頬にキスをした。


「カミちゃん?」


「これだけ許して。もう脱がすことはしないから」


 触ったりはするだろうけど、リアに拒絶されたくないから、脱がしたりは控える。


 その約束のキスだ。


「カミちゃん……、ユメちゃんが見てるけど浮気にならない?」


 リアが扉の方に視線を向けて言うのでそちらを見ると、そこには両手で顔を隠して、指の間から私達を見るユメが居た。


「幽霊だから扉とか関係ないんだ」


「カミちゃん冷静すぎない? 今の状況結構恥ずかしいと思うんだけど」


「私はユメの前でリアとキスしたり、それ以上のことをしても恥ずかしい行為とは思わないよ?」


「意味合いが違うよ……。なんか嬉しいけど」


 リアが笑顔でそう言って私に抱きついた。


 そして私はユメが来たので学校に行く準備を再開した。


 ユメが来た理由は私とリアが昨日遅刻しそうになったから見に来てくれたようだ。


 だけどそのせいで一日ユメとは顔を合わせてもらえなかった。

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