第7話 謎の手紙、正体

「送りたかった」


 やっと放課後になり、私はストーカーと共に屋上へ向かっている。


「今日は酷かったね。雷神当てられても上の空で先生を完全無視で怒られて」


「まぁ怒られてるのは覚えてるけど、その時も上の空でほとんど聞いてなかったんだけどね」


「ノートちゃんと書いてた?」


「多分?」


 授業が終わっても上の空は続いていたからノートを見返していない。


 なんとなく書いてあったような気はするけど、正直覚えていない。


「雷神はドライに見えて結構相手のことを気にするよね」


「気にするっていうより、気になるだけ」


 別に私だって気にしたくて気にしてる訳じゃない。


 今日に限っては怖いのかもしれない。


「絶対に何かあるのは確定してるし」


「呼ばれてるからね」


「それもそうだけど、が人達だから」


「誰だか分かってるんだ」


 さすがに分かる。


 というか他に有り得ない。


「誰?」


「教える義理はない」


 私はそう言って躊躇いなく屋上の扉を開けた。


 普段は施錠されているはずの扉がすんなり開いた。


「扉の前で一瞬止まるとかないのね」


「この後バイトだって言ってるでしょ。だから私には時間がないの、用件は手短にね」


 私が目の前の、にそう言う。


「雷神。私はてっきりあの三人か、そのうちの誰かかと思ってた」


「ん? あぁそっか」


「私は──」


「あれチカだよ?」


 私は目の前の、貧乳で気が弱そうなおさげ女子を指さしながらそう言う。


「あれが?」


「うん。多分リアの力か何かでしょ」


 宇宙人であるリアなら、人の見た目を変えるぐらいのことが出来ても不思議ではない。


「目的は私を試すことかな」


「何を試すの?」


「本当に私に読心術があるなら、変装程度はすぐに見破れるでしょ?」


 風奏が「なるほど」と得心したように頷く。


 なんでそんなことをしたのかまでは分からないけど、私が本当に正体を見破っているのかを知りたかったのかもしれない。


 もしも適当に言っているのなら、それは私の虚言に出来るから。


「……なんか全部バレてて怖いんだけど」


「その見た目の口調もあったんでしょ? それでいいよ」


「私を殺したいの? それよりカミの読心術は本物なんだね」


「そうだよ。それとチカ達のことをバラすことはしないから」


 チカ達が一番不安に思っていたのはそれだと思う。


 私が三人の正体をバラすこと。


「口ではなんとでも言えるよ」


「だからこんなことしたんでしょ? それに一日私を観察してたんだから私がバラしてないの知ってるでしょ?」


 今日一日、私には監視が付いていた。


 幽霊であるユメが透明になってずっと私のそばにいたのだ。


 確証はないけど、私が教室を出てトイレなんかに行って帰って来ると、確定でユメがいなかったから多分そういうことだ。


「隠してもバレるから認める」


「別にバラしたりしないよ? そもそも私がそんなこと言っても誰も信じないから」


 特に親しい友人のいない私が「あの三人って人間関係じゃないんだよ」とか言っても「高校生にもなって何言ってんの?」とか思われるだけだ。


「そうそう、雷神には私しか友達いないんだから、そもそも話すような相手がいないよ」


「そうだよチカ。私には一人も友達がいないから」


「わーたーし!」


 風奏が私の肩を掴んで思いっきり揺らしながら言う。


 頭がぐらつくからやめて欲しい。


「本当に、バラさない?」


「バラす理由が無いでしょ。私がそれで人気者になりたいとか思う?」


「……絶対にないか」


 昨日一日一緒に居ただけでも分かってくれたようで、私にはそんな野心は無い。


 むしろモブとして、将来クラスの人に「あぁ、名前は聞いたことあるかも?」ぐらいな存在になる予定なのだ。


 いっそ忘れられてもいい。


「もうね、私が普通の日常を送るのは諦めた。だけど、それは私の中だけでいいんだよ」


「どういうこと?」


「私は普通じゃないことに気づいてるけど、他人から見たら普通だったらいいかなって。それなら結局、学校生活自体は普通に過ごせるだろうし」


 チカ達はあくまで『普通の人間』として振る舞いたい。


 それなら私が黙っていれば、周りからも『転校生と一緒に居るモブ』としか思われないはずだ。


 そうすれば私の平穏も保たれると思う、


「実際は違くても、それならいいかなって」


「カミは私達が邪魔だっ──」


「思わないね。神井さんは邪魔だけど」


「飛び火!」


 本音と冗談? はさておき、私はチカ達を邪魔になんか思わない。


 それは今日一日でよく分かった。


「チカ達と居るの結構楽しかったみたい。一日見てたなら私がおかしかったのも知ってるでしょ?」


「うん、怒られてた」


「まぁそんな訳で、チカ達が離れると、私は学生Aが出来なくなるの。だから私が『黙る』三人が『一緒に居る』っていう『共存関係』でいこうよ。共犯でもいいけど」


(そっちの方が響きがいいし)


「共存……、私達のことを知ってもそう言えるんだ」


「少なくともチカとユメはそのつもりじゃないの?」


 詳しい理由は知らないけど、リアの目的は『世界征服』だ。どういう意図なのかが分からないからなんとも言えない。何か理由はありそうだけど。


「リアの目的を知って言ってるんだもんね。もういっか。なんか疑うのも疲れる」


 チカはそう言って右手を挙げた。


 すると背中に重みを感じる。


「カミちゃん!」


「やっぱ居たんだ」


 どうやらリアに抱きつかれたようだ。


「リアも消えられるんだね」


「うん、ユメちゃんと一緒に消えて聞いてた。私達の星の科学力って地球より進んでるんだよ」


 それはそうだろう。


 何せ星を渡れるのだから、その時点で地球の科学力を優に超えている。


「だからカミちゃんの読心術も真似っ子出来るの」


「嘘発見器みたいな?」


「そう。たとえそれに気づいてたとしても分かるぐらいのやつ」


 それは助かる。


 実際されてるのは分かってチカと話していたから。


「結果は?」


「大好き」


 答えになってないけど、抱きつく力が強くなったので認めてくれたのだと思いたい。


「リアさん、カミさんが苦しそうですよ」


「あ、ごめんね」


 ユメがそう言って姿を現し、リアは私から少し離れる。


「本当にごめんなさい。カミさんを疑うようなことをして」


「疑われて当然だしね。私はそれよりユメの達筆さに驚いたよ」


「それもバレちゃうんですね……」


 紙に書かれた『放課後、屋上にて待つ』はユメが書いたものみたいだ。


 そして隅っこに書いてあったのは……。


「そんであの可愛い丸文字はチカなんでしょ?」


「ギャップに悶えていいよ」


「チカらしい字だよ」


(腹黒でぶりっ子)


 そんなことを言ったら怒られるだろうから口には出さない。


 顔には出てるかもだけど。


「そうかそうか、私を可愛いと認めるか。そんな可愛い私がキスでもしてあげようか?」


 チカが笑顔で怒りながら私に近づいて来る。


「私の初めてはユメに捧げると今決めたからやだ」


「そんなの私が考慮するとでも?」


「さすが腹黒。ユメ、キスしていい?」


「だ、駄目ですよ! そういうのはちゃんとした時にしないと」


 それはつまりする事自体は嫌では無いと受け取っていいのだろうか。


 それなら嬉しいけど。


「じゃあフラれたところで私としようか」


「やめろ痴女。私の全てはユメに捧げる」


「知らない。私を見てくれないなら、私しか考えられないようにさせてあげる」


「いきなりメンヘラやめろ」


 チカの笑顔がどんどん近くなる。


 いつの間にか見た目も戻っているし。


「てか私バイトあるからもう帰らなきゃなんだけど」


「じゃあ早く済ませるね」


「いやマジでやば──」


 時間がほんとにギリギリになりそうなので、どう逃げようか考えていたら、右の頬に柔らかな感触を感じた。


「……リア?」


「えっと、地球人さんへのお礼はこれがいいって」


「なんのラブコメ読んだのさ!」


 確かにお礼にキスは漫画なんかでよく見るけど、それは男女の話で、女子にやるとなんか生々しい。


 しかもやったリアがとても恥ずかしがってなんか可愛いし。


「リアさんずるいです」


 ユメがそう言うと、今度は私の左の頬に柔らかな感触がした。


「口はちゃんとした時にですけど、ほっぺたなら感謝になって大丈夫ですよね?」


 ユメがとても可愛い笑顔を向けてきた。


 背伸びしてからのキスなんて可愛すぎてどうしたらいいのか。


「なんか先にやられちゃったけど、余ってるのは口だけだから私が……」


「させない」


 そう言って風奏が私の前に立つ。


「口は私のものだ」


「風奏ちゃんが最後の壁か。風奏ちゃんにはおでこあげるよ」


「そっくりそのまま返すよ。いや、私は雷神を脱がして全身を……」


「リア、ユメありがとう。お返しは恥ずかしいからまた今度ね」


 私はそう言って逃げるように屋上を出る。


 その際、チカと風奏の叫び声が聞こえたけど、どうやらリアとユメが抑えてくれたおかげで追いかけては来なかった。


 それに感謝をしながら私は駆けた。


 だからだろうか。私の頬が熱を持ったのは。

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