第6話 謎の紙
(そうなったのね)
昨日のうるささが嘘のように今日は静かだ。
教室の喧騒はあるが、私の周りは昨日以降に戻って静寂に包まれている。
リア達が休んでいる訳ではなく、三人で一緒に居て私からは離れている。
おそらく秘密を知っている私とは関わらないようにしたいのだと思う。
(別にいいけど)
私に三人を追う権利はない。
そもそも一人が好きな私からしたら特に気になりもしない。
昨日がむしろおかしかったのだ。
(私の平穏が戻ってきた)
おそらく二度とあの三人と関わることはないのだろう。
だけどそれが普通で、それがお互いの為になる。
(宇宙人と地底人と幽霊ね……)
最初に三人の正体に気づいた時には本当に驚いた。
ベタなことをする変人程度にしか思ってなかったけど、それにも納得した。
おそらく地球人のことを真似ていたのだと思う。
なんかそんな設定のアニメだか漫画を見た事がある。
(まぁどうでもいいんだけど)
今更そんなことを考えても仕方ない。
私にはもう関係ないことなのだから。
「らーいじん」
私がそんなことを考えながらぼーっとしていると、三人が来る前から私の周りを騒がしていた、一番の問題児がやってきた。
「なに?」
「雷神ご機嫌ななめだ。やっぱり寂しい? それとも怒ってる?」
「別に。そもそも私は担任に命令されて一緒に居ただけだし」
そうだ、私とあの三人は担任の思いつきで一緒に行動していただけ。
だから私がこんなに思い悩む理由がない。
「私は別に雷神にあんなに馴れ馴れしくしてたのに、秘密がバレたら『はい、さようなら〜』って離れてったあの三人の事とは言ってないよ?」
「言ってなくても考えてたでしょ。まぁでも違うなら私はずっと神井さんが鬱陶しいけど」
「八つ当たりだ。それより雷神はこのままでいいの?」
風奏が首をコテンと傾けて私に聞く。
「いいもなにも、そうなるのを望まれたんだから仕方ないでしょ」
「雷神の気持ちだよ。昨日は楽しくなかった?」
楽しいか楽しくないかで言ったら、楽しくなかった訳ではない。
めんどくさい答えだが、それが私の気持ちだ。
それを風奏に教えるつもりは無いが。
「私の気持ちなんて関係な……」
「どしたの?」
私が授業の準備をしようと引き出しに手を入れると、教科書以外何も入っていないはずなのに、何か、紙のようなものが入っているのに気づいた。
「そ、それは!」
「ラブレターな訳ないでしょ」
どこからどう見てもノートを一枚切っただけのものだ。
これがラブレターなら想いを伝える気があるとは思えない。
「一周回ってありなのか?」
「私なら待ち合わせ場所に行って断るかな」
「行くんだ」
「一瞬の期待を持たせてから落としたい」
「最低」
だけど気持ちは分かる。
ラブレターを書くということは関わりが少ない相手ということだろう。
私は関わりの少ない相手にそもそも興味がないから、断るのは当然として、どうせダメ元なのだろうからそんなお遊びの相手に選ばれたことに対する罰と考えれば妥当だ。
まぁ私の場合は、行くのがめんどくさくて行きもしないだろうけど。
「それで、雷神の可愛さに今頃気づいた愚か者は誰?」
「可愛くないでしょ。どうせおふざけか何かで──」
紙を開いて中に書いてあるものに目を通した私は言葉を失った。
「まさかほんとにラブレター?」
「似たようなものかな」
「……見せて」
風奏が真剣な表情で言うので、書いてあることは見られても平気だろうから風奏に紙を渡す。
「ラブレターってよりも……」
「果たし状が近いかね?」
書いてあったのは『放課後、屋上にて待つ』だった。
とても達筆で書かれている。
「でも隅っこに何か書いてない?」
「そこはなんか可愛いと思った」
紙の隅に『来てください』と可愛らしい丸文字で書かれていた。
「行くの?」
「行こうかな。今日はバイトがあるからすぐに帰るけど」
昨日はたまたまバイトが休みだったけど、今日はバイトがあるので少ししか学校に残れない。
「雷神ってなんのバイトしてるのさ」
「教えないっていつも言ってるじゃん」
「いいじゃんよ。教えてくれたら毎日通うよ?」
(だから嫌なんだよ)
別に休みだからといって風奏と遊んだりはしないのだから、私がどこでなんのバイトをしてるかなんて関係ないはずだ。
それに教えたら、言葉通りに毎日でも通いそうなので余計に言えない。
「やっぱりメイド喫茶で働いてるの?」
「なんでメイド喫茶にこだわるの?」
風奏は毎回私のバイト先をメイド喫茶にしたがる。
確かに近くに店はあるけど。
「メイド服姿の雷神は絶対に可愛いから」
「私が猫なで声でおかえりなさいませとか言うの? 有り得ないでしょ」
「言ってみてよ」
「言う訳ないでしょ」
風奏のことは無視して授業の準備をする。
とりあえず呼び出しには応じるとして、今はまだ朝一だから気にしてても仕方ない。
ということで放課後まではいつも通りの生活を──。
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