第4話 胸と嘘泣き
「ここが図書室」
「いらっしゃ、っとい!」
私がリア達三人を図書室に案内すると、見知った顔の少女が居たので、無視して他のところに向かおうとしたら肩を掴まれた。
「なんで無視するのさ!」
「図書室に用ある人いる?」
「私、本読まない」
「私は電子書籍派だから」
「私は人の読んだ本に抵抗が……」
私は読みたい本は自分で買って読みたい派だから私も図書室に用はない。
「次はどこ行こうか」
「せめて私には触れて」
「神井さんは図書室で遊んでたの?」
「遊んでないし! 私は図書委員なの!」
「そう」
ちゃんと触れたからもういいだろうと、次の場所に向かおうとしたが風奏は私の肩を離さない。
「まだ何かあるの?」
「……ないけど!」
「じゃあいいでしょ。私は学校案内中なの」
立派な大義名分がある為、風奏もこれ以上私を引き止めることは出来ないはずだ。
家に帰ってもやることは……無いことも無いけど、特に無いから早く帰りたい訳でもないけど、出来るなら早く帰りたい。
「分かったよ。ならこれあげる」
風奏はそう言ってポケットから一枚の紙を取り出した。
「なにこれ?」
そこには『D』とだけ大きく書いてあった。
「三枚集めるといいこと知れるよ」
「別にいらないけど」
私はそう言って風奏の差し出した紙を受け取らないでその場を去ろうとしたが、その紙をリアが受け取った。
「なんだか面白そう。集めるってどうするの?」
「これからみんなの行くだろう教室に残りの二枚があるよ」
「行かなかったら?」
「困る」
「ぐだぐだなルールじゃん」
一応入れる全ての教室を回る予定ではあるけど、途中でめんどくさくなって行かなくなる可能性もある。
まぁリアがやる気だからそれを許さない気がするけど。
「でも多分大丈夫だよ。絶対に集められるから」
「どこからその自信がくるのやら」
こういう時に風奏の考えてることを読めば話は簡単なんだけど、それをしたら紙を集める行為そのものが無駄になる。
せっかくやるのなら何も分からない状態でやりたい。
「じゃあ離して」
「んー、最後に『風奏、愛してる』って言ってくれたらいいよ?」
「なんで疑問形になるの?」
「だっていつもなら途中でデコピンが飛んでくるから」
「ユメとの約束で暴力は振るわないことにした。お望みならユメに許可を取って」
さすがのユメだって、やって欲しいと言われたら暴力を許してくれるはずだ。
「いや、いいです。でもぉ、それなら離せないなー」
風奏がニマニマした顔で私を見てくる。
正直見てて腹立つ。
(ほんとにめんどくさい)
きっと風奏は私が言うまでほんとに離さない。
だから妥協点として、私が他の条件を出すことを待っている。
私はそんな風奏の思惑に乗っかる程優しくはない。
「ほらほら、どうす──」
「風奏、愛してるよ」
こういう時は素直に言うに限る。
絶対にやらないと思われて提案されているのだから、風奏からしたら不意打ちでしかない。
結果、風奏は顔を真っ赤にして膝をつく。
「油断した。まさか言うだけじゃなくて耳元で囁くなんて追加オプションまで……」
「感想は?」
「耳が幸せ……。へ、返事はもちろん──」
「それはいらないから。じゃあ」
私はただ言えと言われたことを言っただけなので、返事とか求めてない。
その場にへたり込む風奏を放置して私達は次の教室へ向かう。
「風奏ちゃん放置でいいの?」
「早く解放さらる為にわざわざやったんだから、これ以上構う必要ないでしょ?」
「あんな愛の告白しといてドライだよね」
「私の本命はユメだからね」
そのユメはさっきから顔を赤くして、私をチラチラ見ている。
「どしたの?」
「あ、えっと、なんかドキドキしちゃって」
「大丈夫? 次は保健室行く?」
「い、いえ、大丈夫です。本物の告白を初めて見て、照れちゃっただけですから」
私はユメに告白ではないけど、それに似たことはしてるつもりだったが、私のは本物ではなかったようだ。
「そういえばユメは私みたいになりたいとか言ってなかった?」
「そうですね。暴力は駄目ですけど、カミさんみたいに強くなりたいなって」
「物理的に?」
「どっちもですかね。私から見たら、カミさんは物理的にも精神的にも強く見えるので」
確かに純粋な殴り合いならクラスの男子にも負ける気はしない。
それに物怖じもしないし、父親からは「図太いよな」と笑われたことがある。
その後に制裁したけど。
「カミちゃんって何かに対して怖いって思ったことあるの?」
「それはまんじゅうって答えるのが正解?」
「そういうのじゃなくて、例えばお化けとか宇宙人みたいなのとか」
リアがそう言うと、ユメの肩が震えた。
「ユメみたいな反応期待」
「別に怖くはないでしょ。お化けとか幽霊って、元は基本人間な訳でしょ? だから襲われるのが怖いとかなら、それは人間が何かしたせいであって、それでこっちが勝手に怖がるのは違うでしょ」
お化けや幽霊が存在する理由は、現世に未練があるから。
それは好きな人の幸せを見届けたいや、自分を殺した相手を恨み続ける為など色々だろう。
前者を怖がる必要は無いし、後者はそれこそお化けや幽霊に悪いところなんて無い。
「でもさ、誰かに殺された恨みを他の人で晴らそうとするお化けもいるかもじゃん?」
「それはもう生きてる人間と大差ないでしょ。そこまで来たらお化けが怖いんじゃなくて、人間そのものが怖いってなるよ」
結局お化けだから怖いのではなく、お化けに何かされるのが怖い訳で、お化けだから怖いとかはない。
「じゃあ宇宙人は?」
「それも同じ。宇宙人だから怖いとかはないよ。なんだって『誰が』よりも『何をするか』じゃない?」
人間だって善人と悪人が存在して、善人が怖がられることは少ない。
悪人。悪いことをした人だから怖いのだ。
「善行の為の悪もあるからなんともだけど」
「カミは相手を見て判断するってことね」
「話してみたらいい人なんてよくあることでしょ」
私はそう言ってユメの方を見る。
「私なら絶対にユメみたいな見た目ギャルに話しかけることはしないよ?」
「分かるけど見た目で判断してるじゃん」
「話しかけないだけで、悪者扱いはしないってこと。ギャルだから不真面目だとかの決めつけはしないだろうし」
多分それ以前に興味を持たなかっただろうけど。
「結論から言うと、カミちゃんはいい子ってことだね」
リアは笑顔でそう言うと、私の手を握ってきた。
「何事?」
「べっつにー。嬉しくなっただけー」
よく分からないけど、本心から喜んでいるようなのでそのままにする。
すると反対の手をユメが握ってきた。
「な、何事ですか!?」
「私より反応よくない?」
それは仕方ない。
だって可愛いのだから。
「えっと、私もカミさんがいい人で嬉しくなっただけです」
「これからは善行しか積まない」
「じゃあ私もカミのどこかを握った方がいいかな?」
そう言ってチカは頭のてっぺんから下に視線を向けて、首の下辺りで止めて振り返った。
「いい場所無かった」
「あんたの無駄な贅肉を後で握ってあげようか?」
「あー、悪口言ったー。善行積むとか言った矢先に酷いこと言ったー」
チカがとても嬉しそうに私を指さしながら言う。
(うん、うざい)
言ったら火に油だから声には出さないけど、そろそろチカには何かしなくてはいけない。
「今のはチカちゃんが悪いよ」
「チカさん酷いです」
「無き者からの嫉妬が……」
図らずも三対一になってくれたようだ。
それでもチカは反省の色が見えないので、もう一押しする。
「チカ、酷いよ……」
「え……」
私の二つ目の特技『嘘泣き』を発動させた。
女子の必須特技でもあるけど、私みたいに泣きたい時に本気の涙を出せる人はそうそういないはずだ。
実際三人には嘘泣きだとバレていない。
「いや、泣かせるつもりは……」
「泣かせるつもりでやってたらそれこそ救いようないから」
「カミさん、大丈夫ですか?」
リアがチカを睨み、ユメが私の頭を撫でてくれる。
正直ユメに頭を撫でられるのが嬉しくて役得だと思ってしまうのと同時に、本気で心配しているユメへ罪悪感が芽生える。
「チカちゃん謝って。謝って済む話でもないかもだけど」
(済む話で終わらせて。考えてみたらこれって私が胸の大きさを気にしてるってことになるよね?)
チカをどうやって成敗しようかということだけを考え過ぎて、話の内容を考えていなかった。
「あの、私は別に──」
「ごめん、カミ。まさかそんなに胸の大きさを気にしてるなんて思わなくて」
「いや、だからね……」
「本当にごめん」
チカの誠心誠意の謝罪を受けて、後戻りの出来ない状況になった私は、もう「……はい」と答えるしかなかった。
きっとこれから先、私は胸の大きさを気にしていることにされるのだろう。
もう二度と嘘泣きはしないと決めた瞬間だった。
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