ストリートにて
日曜日、坂本英二は新月市を1人歩いていた。
「今日はなんかいい天気だなぁ。それに
坂本は買ってきた松脂を1つ眺めながら歩いた。
スタスタと歩いているととある広場がある。そこには青色のピアノが置いてあった。
「ここにピアノなんていつからあったんだろ?最近置かれたのかな?」
坂本はピアノに近づいてピアノを色んな角度から眺め出した。
「状態は極めて良い。外に置かれているにも関わらず傷も少ないし色も落ちていない。ふむ」
ポロん
「いい音なるな。市長、なかなかやるな。ストリートピアノかぁ」
坂本はピアノの椅子に座った。そして音を奏でた。
タラタラタラタラタターン…、タラタターンタラタターン
ベートーヴェンの名曲「エリーゼのために」正確にはバガデル第25番イ短調WoO59「エリーゼのために」…、ピアノで何かを弾くとなったら俺はこれを弾く。だって好きだから。儚くて、消えそうで、ピアノっぽいじゃん。正直その時のベートーヴェンの心境とか、エリーゼの正体とかは興味ない。ただ好きな音楽を奏でたい。
あ、気づいたら結構人が集まってきてるな。俺一応音大出身だし、ピアノくらいは人並み以上には弾ける方だから集まっても無理はないか。でも、ピアノをこうやって人前で披露するのは、大学の時のテスト以来かもなぁ。だって必修だったから仕方がなくピアノはやっていただけで、それ以外はずっとヴィオラに真剣だったからな。
考えてたら早く帰って弾きたいな。曲ももう終わるし帰ろ…。ん?
坂本の目の先には水色のワンピースを着て、犬のぬいぐるみを抱き抱えた小さな女の子が1人立っていた。さっきまで聴いていた大人達はもういなくなっていたが、その子だけはボーッと演奏している坂本を見つめていた。
「きみもしかして、ひとり?お母さんとかは?」
「いなくなっちゃった」
「迷子か〜、どこら辺ではぐれちゃったの?」
「えっとね、あっちの信号のほう」
少女が指のさしたほうは確かに人通りが多くて人とはぐれてしまうのも無理はない道だった。
「そっか、でも近いからきっとお母さんもここにいるかもって探しにくるかもしれないね」
「うん。だからここに来たの!そしたらね、キレイな音が聴こえたから聴いてたんだ」
「そっかそっか。嬉しいなぁ」
もし雄大くんが今の俺の立場だったら、あの人、不審者化しちゃうだろうなぁ。しかし迷子か、どうしたものか。このまま帰っちゃったら1人になっちゃうよなぁ。ん?あれ…
「ねえ、お母さんとはぐれちゃって寂しくないの?やけに落ち着いてるけど」
「えっとね、1人じゃないもん。寂しくないよ」
「え?」
少女は手に持っている犬のぬいぐるみを突き出した。
「この子はガータンって名前なんだよ!テレビで見たお犬さんはガーって言ってたから、ガータン!」
ガー…、この子にはそう聴こえたのか。やっぱり子供の感性って面白いよなぁ。
「楽しい曲弾こっか!もしかしたらお母さんがそれにつられてやってくるかも。きみも一緒に弾こう」
「まなも弾けるのー?」
「簡単だよ。こんな風に押せば音が鳴るんだよ。さあ、おいで」
そうすると少女は坂本の膝の上に乗って人差し指で自由に鍵を押した。
「上手い上手い」
坂本は曲名もない即興の音楽を奏でた。
「なんのうたなのー?」
「んー?適当だよ。楽しんだもの勝ちなんだよこういうのって」
そういうと少女はニコニコしながらまた天心爛漫に鍵を叩いた。
やっぱ音楽って楽しいよなぁ。この子もきっと楽しんでるな。こうやって楽しい時ってどんな不協和音になっても笑いに変えることができる。無我夢中になれる。
「まな!」
「あ!ママー!」
少女は膝から飛び降りてお母さんのところへ駆けて行った。
「本当にありがとうございました」
「いやいや、いいんですよ。楽しかったですし。またね」
「バイバイ!ほらガータンも、バイバーイ!」
少女はぬいぐるみを持っている手で歩きながら手を振った。坂本も小さく手を振っていた。
「なかなか楽しかったなぁ。もういい時間だし帰ろ。いい寄り道だねこれは」
坂本は袋を持ってまた歩き出した。
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