5冊目 風の図書館



 小さな海辺の村に、不思議な図書館がありました。


 この図書館には、本が一冊もない代わりに、風が棚に並んでいました。


 図書館の番人である老婆は、訪れる人にこう言います。


「心で聞いてごらん。風が物語を語ってくれるよ。」



 ある日、好奇心旺盛な少年カイトがこの図書館を訪れました。


 カイトは本が大好きで、文字で綴られた物語を読むことにいつもワクワクしていました。


 だからこそ本のない図書館に最初は失望しました。


 それでも、老婆の言葉を信じて、目を閉じて風を感じることにしました。


 最初はただの風の音にしか聞こえませんでしたが、少しずつ彼の心は風の囁きを聞き始めました。


 海賊の冒険の話、遠い国の伝説、星々の旅...。


 風が運んでくる物語は、カイトが今まで読んだどの本よりも鮮やかで、心に残るものでした。




 日が経つにつれ、カイトは毎日のように図書館を訪れるようになりました。


 彼は風の物語を聞くことで、想像力が豊かになり、自分でも物語を創り出せるようになりました。


 やがて、彼は自分の物語を風に託し、それを図書館に寄贈することにしました。




 カイトが風に託した物語は、村の子どもたちに大人気となりました。


 子どもたちは、カイトの物語を聞くために図書館に集まり、風の中で目を閉じ、心で物語を聞きました。


 カイトの物語は、次第に風に乗って他の村にも届き、多くの人々に喜ばれるようになりました。




 カイトは、風の図書館が教えてくれた大切なことを学びました。


 それは、物語は文字に限らず、風や心で感じることができるということ。


 そして、誰もが物語を創り出し、共有する力を持っているということでした。




 老婆はカイトにこう言いました。


「君が風に託した物語は、これからもずっと多くの人の心を温め続けるよ。それが、この図書館の魔法なんだよ。」



 カイトは、風の図書館と老婆に感謝しながら、これからも新しい物語を創り続けることを誓いました。


 そして、図書館の周りに吹く風は今日も、遠く離れた場所へと新しい物語を運んでいくのでした。


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