第33話 勇者一行・・・ 

「よお、エリック、次はヘーゲル伯爵領だったな?」

「ああ、この街道沿いらしいよ」

「まあ、なんだ~ 俺たちは今回も付録で良いんだろう?」

「ああ、確かに・・・聖女様は引っ張りだこだからな、俺たちはその護衛ってことで良いんじゃない?」


「あ~あ~、おれも、思いっきり剣を振り回したいぜ!~ 前みたいにさ!~」

「なんだよ、タイラーは欲求不満が溜まってるようだな・・・」

「まあ、ここが済んだら、少し魔物狩りでもやってくか?」

「おお~~、それが良い! さすがだぜ! 勇者殿!?」

「ははは、止めろよ!・・・エリックで良い!」

「マリックもそれで良いか?」

「ああ、別に良いよ・・・」

「まあ、マリックはエリックよりレベルが高いしな、敵なんて居ないだろ?」

「・・・・」



「見えてきたな、なんだか、領の入口から人が溢れていないか?」

「ふふふ、私たち、人気なんですよね~ アイドル?」

「いやいや・・・さあ、気を引き締めて行こうぜ!~」

「はい!」「「「おお!~」」



「これはこれは、勇者殿、先触れが来ておりましてな、領民にも知られてしまって、この有様ですよ、たいした人気ですな、聖女様もようこそ!」

そんなの自分で広めたんだろ?・・・

「えっと、ヘーゲル伯爵様ですか?」

「おお、これは失礼、儂が領主のヘーゲルじゃ、王国の見回りご苦労様!」

「はい、本日はよろしくお願いします」



気配を消して、様子を伺っていたけど、これが・・・勇者一行かぁ~ なんか、普通の冒険者と同じだね。みんな、髪の毛や目の色は真っ黒だ。


(彼らは、エリーナ王国の教会によって異世界から召喚された転生者たちだよ。

昔は、魔王討伐の為なんていう名目だったけど、今はなんだろう?

王家と、教会の手足となって、王国を巡って、魔物退治をしたり、病気を治したりしているようだよ・・・)

(そうなんだ~でも、それにしちゃ、国中に魔物や盗賊が多いよ?)

(ははは、それがこの世界ってことなんじゃないの?)


領内に入っていくと、領主館の前の広場に人が集まっている。

しかも、・・・酷いな、これ、病人やけが人が集められている・・・

聖女の女の子が、一人一人に回復!を使ってやっている。

(あれは聖魔法だよ? 使い方によっては強力なんだけど・・・)


確かに、一気に複数を対象にすれば良いのに、まどろっこしいな。

(あれは、一種の実演、演出みたいなものだからね、王家と教会が派遣した勇者一行が王国を回って、けが人や病人を治して回る・・・王国や勇者、教会の威光を知らしめるためというのが主目的だからね・・・時間をかけてやっているんだと思う)


でもなら、この広場に出てこれないような症状の重い怪我人や病人は? 相手にしてもらえないの? くじにはずれたようなもの?


見てると、ひとり男の子が聖女のところに走り寄っていったね・・・


「聖女様、とうちゃんが!~・・・ 怪我が酷くてここにも来れないんだ~ 助けておくれよ!~・・・・聖女様!~」

まあ、当然のように周りを警護していた領兵たちに連れていかれたね・・・

人の集まりから離れたところで、領兵に何か言われている・・・・子供は何か悔しそうに声も出せずに泣いてるね・・・


(どうやら、あの広場に集まれる人はお金を支払って集まっているようだよ、銀貨1枚だって・・・家庭まで訪問の場合は金貨1枚だって・・・子供に言い聞かせている・・・・)


何だって? まあ、すべてがタダとは言わないけど、勇者一行を使って領民からお金まで取ってるの?


結局、最後の一人迄じっくり見学していたけど、最後に、領主から聖女に革袋が渡された。あれは領民から巻き上げたお金だろうね、さも、領主からの手土産のようにして渡されているけど・・・・

何がなんだか・・・こういう世界なんだね・・・


(ムンク? さっきの子は?)

(うん、ちゃんと気配を記憶しておいたよ、行くの?)

(ええ、気になるじゃない! 少し覗かしてもらおうかな・・・)


ムンクの案内で、一軒の家に移動してきた。


「とうちゃん、聖女様にお願いしたんだ!でも、話も聞いてもらえなかった・・」

「ああ、ケンタ、だから言ったろ? 無理だから止めとけって・・・<グフグググ・・ゴブ・・・・グフ・・・>」

「とうちゃん!」

「ああ、大丈夫だ、少し眠らせてくれるか?」

「わかった・・・」

と、男の子が外へ出ていった。空になった大きな革袋を持っていったから、水でも汲んでくるのかな?


さて・・・鑑定! 

腕が腐りかけている・・・魔狼に噛まれたの? 魔狼の呪い毒が酷い。

徐々に全身に毒がまわりつつある・・・・ これは酷い! 駄目でしょ!ここまで放っておいちゃ・・・


(ムンク、あの人を助けたい!)

(あるじなら出来るさ、やってみれば?)

(うん、ムンク、もし私の力が足りない時は・・・頼むね!)

肩の上にきて、プルプル・・・震えている・・・良いよ、ってことだよね!?


まず、軽く催眠!とヒール、それと部屋の中に、クリーンを掛けた。

さて、いけるか・・・まずは、解呪! 浄化! そして、回復! 治癒! を重ね掛けしてみた・・・


(ははは、あるじ~ 凄いよ! もう腕の再生が始まってる~)

しばらく見ていたけど、鑑定!で診ても状態異常は消えているわね。

良かった・・・と思う。まあ、自己満足だけど・・・


おっと、男の子が戻ってきた・・・転移!でそこから移動して消えたよ。



「あ・あ・あ~~~ とうちゃん! とうちゃん! 腕が!・・・」

「ああ、ケン、どうした?」

「とうちゃん、腕の怪我が治ってる!」

「うん? そういえば・・・身体が楽・・・・おおお~~~腕が治ってる!

なんだ? どうなってる? ・・・・あぁ~神様? なんだよ、神様っているんだ!~

ありがとう! ありがとうございます!」

「とうちゃん!?」

「ああ、ケン、良いか、このことは誰にも話すんじゃない! これは神様の奇跡だ」

「うん! とうちゃん、・・・神様、ありがとうございます・・・」






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