第34話 勇者一行の災難 

「領主様、昨夜は一晩お世話になりました」

「ああ、まあ、こんな田舎ではたいしたこともできん、すまないな!」

「いえいえ、とんでもありません。感謝しています。このまま辺境を回って、また帰りにでも寄らせてもらいますよ」

「ははは、助かります、よろしくお願いしますよ・・・」

「ところで、魔物で困ってるようなところはありませんか?」

「おお、魔物にも対応してもらえるのか?」

「ええ、大丈夫です、なんなりと!」


「街道を進んで辺境へ向かうのも良いが、我が領の東門から谷筋をぬけて行っても、川に当たるがそこを北上すれば同じ街道に出られるんだが、最近はその谷筋の裏道に魔物が多くて・・・という情報でな、儂も調査をと思っておったところなんだよ。

できれば、そこを調べて、できれば対処していってくれると助かる」


「そうですか、まあ、じゃあ、東門から出て谷筋を行けばよろしいですね、やりましょう!どうせ通り道でしょうから」

「おお、受けてくれるか、助かる! ちょっと待っててくれ・・・」


「これは、報酬の前金だ、8枚しか入ってないが、次回寄ってくれればその時に残金を支払いたい、これでどうだろう?」

「別に、構いませんよ・・・」


なんだかしけた依頼だよな・・・昨日の報酬は、銀貨で20枚、あれは領民から集めたものなんじゃないのか?それをそのままよこしてきたってところだろ? 自分の懐は痛んでない・・それに、谷筋の魔物の掃討って・・・まあ、金貨8枚でも・・・良いか。みんなに、2枚ずつ小遣いだよ、って渡そうとしたら、笑い飛ばされたよ・・・でも、貰ってくれたけど。なら、最初から素直に貰えよ! 全く~


「まあ、そんな約束もしたし、魔物もいるみたいだしな、その谷筋の裏道を通っていくぞ!」

「ああ、それで良いんじゃないか!?」

「俺もそれで良い」

「私もそれで良いよ、でも、長期戦になる可能性も無いわけじゃないよね、少し、食料を補充しといたほうが良いんじゃない?」

「まあ、それもそうか? 少しだけ小遣いももらったしな、これを使い切ってしまおう! 厄落としだ!」

「ははは、違いない・・・」

「カサリン、魔法鞄の空きはあるのか?」

「ええ、大丈夫よ、それにエリックの鞄もあるでしょ?」

「ああ、そうだな・・・」

「じゃあ、用意して、買い物して・・・出かけるか!・・・」




なんか・・・勇者一行って・・・よくわかんないね、まあ私には関係なさそうだけど、完全には王国民のために動いているわけでもなさそうだし・・・


そっと、鑑定!してみた。


*勇者一行 所属:エトワール王国・教会

▶勇者 エリック Lv.200 鑑定、転移 @魔法鞄

▶剣士 タイラー Lv.180 剣術、気配察知

▶魔道 マリック Lv.220 結界、火、水、土、風 

▶聖女 カサリン Lv.250 聖回復 @魔法鞄


あれ? そんなにレベルが高くないんだね・・・

(まあ、魔王もいないし、ドラゴンと戦うことも無いだろうしね・・・)

だよね~ これって、Bランク冒険者あたりと大して変わらないんじゃないの?

でも、そうですね・・・聖女様だけはそんな中で抜け出てるね・・・


でも、悪い連中ではないみたい・・・特に悪い気配は感じないし。




「しかし・・・この裏道、ほとんど整備されていないじゃないか~」

「あはは、まあ、酷いですね。だから魔物が住み着いたってことですか・・・ここまで手が回らないのでしょう、表の街道を使えば済みますし」

「要は・・・なんだ? 俺たちにこの裏道を通れるようにしろ!ってこと?」

「ははは、まあ、良いじゃない、これで、タイラーさんのストレスも解消できるんでしょうから・・・」

「ああ、みんな~ 基本的に俺がやるから・・・でも、危なくなったら助けろよ?」

「はいはい、じゃあ、そういうことで、進みましょう!」


剣士のタイラーが先頭で魔導士のマリック、そのあとを、聖女のカサリンと勇者のエリックが付いていくって感じで進んでいる。

鑑定・地図!で見ているんだけど、ここの裏道、・・・魔物が多いよ。

大丈夫かな? 勇者一行。


まずは、谷の斜面を魔狼たちの群れが滑るように下りてきた。


「おお~お出ましか~ 魔狼だけど、これ何だ?この数は?」

そうだよね、魔狼の群れ、40頭。

それが一斉に谷底の勇者一行をめがけて下りてくる。

魔導士が自分たちを取り囲むように結界を張る。聖女を守るように勇者が後ろ方面を警戒し、前方では剣士のタイラーが剣を構えていて、臨戦態勢だよ。


勇者と剣士が結界から出て剣を振るう、ああ、なるほど・・・訓練はちゃんと積んでいるんだ、私なんかよりはよほど、落ち着いて対処できてるし・・・

(ははは、あるじ~これは良い勉強になるよね~)

何とでも言ってちょうだいな~・・・事実だし・・


少したって、魔狼の数が半分くらいになった。しかし・・・

そこに応援するように、少し大型の魔狼が10頭加わった。


「なんだ?~、まだいるのか~ しかも、今来た連中、でかいな~」


そのでかい魔狼たちから、何と! 火炎ブレスが飛んでいってる。まさか!魔法を使えるの?

(あるじ~あれは、何か体内に別の魔石を飲み込んでいる。それから発せられる火炎魔法だよ・・・)

へえ~そんなこともあるのか・・・

誰かが、魔石魔道具を飲み込ませたんじゃないだろうね!~


まあ、そんなことよりも、あれだけの火炎魔法を数匹から打ち込まれて、かなり苦戦してるし、結界の気配が薄くなってる。まさか? 魔力を使いすぎた反動?

ああ、聖女が、魔導士の結界魔法を支援しはじめた、大した聖女だね。


それに合わせるように、勇者や剣士の斬撃が強力になってきた。

まあ、ここでは大がかりな勇者固有の魔法を使いにくいんだろうか? 確実に一頭一頭を仕留めているよ。


なんとか、終わったようだね。

道には、魔狼の死体の山ができている。血だらけで悲惨な状況になってるし・・・






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