第14話 イチカ、街を訪れる。

 イチカ・リィズ・アナスタシアは赤い頭巾を今日は深く被って、顔を隠しながら街の中を歩いていた。白い長袖も少し汚れたように見せている。その上に着ている赤いワンピースも旅をしています。と、見てもらえるぐらいに汚れているように見える。裾の端が破けているとか、いつもとは違う演出を施していることに本人は気に入っている。荷物なんてホントは必要無いのだけど、腰にマジックバックを三つほど黒いベルトにぶら下げている。クロちゃんはイチカの左肩にいる。不死鳥は右肩にいる。イチカは宿屋リィズを探していた。目を見られないように黒いサングラスをかけて周囲を見回している。ここは最北端の国、アナスタシア。イチカ教の大聖堂があり、イチカ・リィズ騎士団の本部もある、アナスタシアの首都、ニュクスにイチカは来ていた。何から何までイチカ尽くしだ。一番の有名人ゆえにイチカは顔を隠し、目を隠し、普段の服装をちょっと変わったように見せて・・・自分が建設し、造った仲間と一緒に始めた宿屋リィズに顔を出して、一泊したいとイチカはやってきていた。記憶を遡るならば、そろそろ到着するはずなのだが。「あっ、あったわ。私の手を上げている影絵が看板なのね・・・恥ずかしいわ。取り外してもらおうかしら。」

「いや、イチカ。それは駄目だろう。」と、クロちゃんは尻尾でイチカの頭を軽く叩く。不死鳥もクチバシで首をつつく。「もう、わかったわよ。」と、イチカは両開きの扉を押して中に入る。凛々しい女騎士が店主に似顔絵の紙を見せながら、何か話している。イチカ・リィズ騎士団の一員だとわかったので、イチカは赤い頭巾を深く被り、店主と話さずに宿の中へ入ろうとする。それにはさすがに店主に呼び止められる。イチカは恐るおそる振り向く。「・・・・・何か」「いや、何かってあんた・・・あれ?あ、貴方様は!」と、店主はそこでイチカに口を押さえられる。それとイチカ・リィズ騎士団の女騎士もじーーーーっとこちらを見ている。これはバレた?バレてしまったのかしら?などとイチカは顎を触り、考え込むふりをする。

魔法職さいごのかみさま、お祈りしたき事があります。イチカ・リィズ騎士団、エリザです。要件というのは、この似顔絵の盗賊ゴルドバルがアナスタシア周辺を荒らしていたんですけど、最近やっと捕まえて、本部に移送中に逃げられてしまったんです。その足取りは首都ニュクスで消えているんです。そう、移送していたここで。葉を隠すなら森の中でしたっけ。多分、そういう事だと思うのです。どうか魔法職さいごのかみさまのお力をお借りできないでしょうか。私どもでは顔を知られているので、追跡が難しいのです。」と、女騎士エリザは片足を地面につけて言う。

「・・・・・あ、えっとどこで私だと?」と、イチカは的外れなことを言う。

「え???服装はそのままですし、金に輝く髪も隠せていませんし、サングラスをされていても、不死鳥様と黒き狼であるブラックフェンリル様をお隠しになっていない時点で間違えようが無いかと。と言うかこれで分からなかったらイチカ・リィズ騎士団失格です」と、女騎士エリザはイチカを見つめながら言う。

「そ、そう。そんな分かりやすかったのね。そう、次回はもう少し工夫してみるわ」と、イチカはサングラスを外して虹色の目で女騎士エリザを見つめ返す。

「・・・・・・畏れ多きことに御座います。つきましては、魔法職さいごのかみさま、どうか、酒場に行ってデラックなる者にお会いください。」と、女騎士エリザは自分の目を閉じて十字を切る。両手を組んで本格的に祈り出した。よく見ると、宿屋の店主も目を閉じて祈っている。

「うん。そうね。夜になる前に会いに行ってみるわ。と言うか、夜の酒場にいるのかしら?」と、イチカは聞き返す。

「はっ。この宿屋でしばらく休まれ、ニュクス様と交代なさってからでも大丈夫です。デラックなる者から話だけ聞いてみてください」と、女騎士エリザはそれだけ言うとまた目を瞑って祈りを始めた。やりずらいわ。と、イチカは赤頭巾を深く被る。ほんのちょっと視察に来ただけなのに。まさか祈りを聞いてしまうなんて。

イチカはクロちゃんが勧めてくれた空き部屋に入り、ベッドに腰を押し付けてから窓を見た。日が沈みかけていた。金に輝く髪はプラチナに輝く髪に。虹色の目は金色の目に。服装は宵闇のドレスに。クロちゃんはシロちゃんに。不死鳥は不死鳥のまま。

「ふぅーじゃあ、会いに行ってみようかしら」と、ニュクスは立ち上がり、部屋を出た。


明日へ続きます

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