第13話 魔物堕ちしたオオハヤブサとの会話

イチカ・リィズ・アナスタシアは金に輝く髪を精霊のいたずらか、後ろでリボンでくくった。虹色の目で、眼下にいる人間たちの住む街を見つめている。今からお風呂に入りに行く父親と娘。子供たちとおやつを一緒に食べながら帰宅している母親。ここは人間の住む街、イレサム。場所としては北というわけでも無く、南とも呼べない。その中間ぐらいで、どちらかと言えば東寄りの山脈が連なっている大森林の近くにある街。その街でラジオというものを流すための電波塔を建てたという。それをイチカは見に来ていた。氷とマグマで造った白い長袖と赤いワンピースを着て。電波塔。鉄の棒を重ね合わせただけの滑稽な建物にしかイチカには見えない。その滑稽な建物を気に入ったのか、オオハヤブサが住み着いたようだ。それも霊体。姿を見せる時だけ具現化する。縄張りに入った者には魔素を介して翼で強風を起こして吹き飛ばしている。これではせっかくの電波塔も使用できないようだ。街の人間が魔法職さいごのかみさまに教会を通じて祈っていた。それを聞きつけたからこそ、イチカはこのイレサムという街に来ている。あやかし、それとも精霊と魔物の間と言うべきかもしれない。イチカはゆっくりとイレサムの街に足をつけた。電波塔に近づいていく。オオハヤブサはイチカを見ている。イチカも視線に気付いたのか、にっこりと笑う。「イチカ・リィズ・アナスタシアよ」と、イチカは名乗る。その声は魔力によってオオハヤブサに声として伝わる。オオハヤブサは翼を広げて、ゆっくりとイチカの足元へ降りてきた。「不死鳥様の主人とお見受け致します」と、イチカに挨拶をしている。「ええ、そうね。フェニを知っているのね。あなた、鉄が好きなのね。同じものを大森林の中に作ってあげるわ。それともここじゃないと駄目なのかしら。そうなると人間たちと戦うわけだけど・・・それとももしかして・・・あなた、私を待っていたの?」と、イチカは聞き直す。「そうです。魔法職さいごのかみさま。あなた様をお待ちしておりました。私を連れて行ってもらえるでしょうか。すでに何人か人を殺めたので冥府を経由する必要があるでしょうか。」と、オオハヤブサは真摯にイチカを見つめてくる。イチカはそっと近づき、オオハヤブサの頭を撫でる。

「ニュクスが部屋を用意してくれるわ。そこでしばらくいたら、ちゃんと浄化してあげる。ま、どちらも私だけど」と、イチカは笑う。

オオハヤブサは頭を下げた。白い光に変化していく。それを人間たちは見ていたのか、イチカとニュクスへの祈りの言葉が聞こえてくる。街中から白い光と黒い光が集まっていく。イチカ・リィズ・アナスタシアの元へ。「いい街だわ。」と、イチカは電波塔のてっぺんに転移して、そこから空を歩き始めた。重力魔法だろうか、それとも風の精霊たちの力なのか。どちらも分からない。ただイチカが歩きたいだけだろう。いつの間にかクロちゃんもそばに来ている。不死鳥も肩に止まっている。いつもメンバーが揃って、イチカは空を歩き続けた。

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