第12話 イチカの造った家?

 イチカ・リィズ・アナスタシアは久々の湯船にご満悦だ。灼熱のマグマ、本来なら何も残らない火山の火口。そこを温泉がわりに浸かっている。どこから持って来たのか、炎の精霊をタオルがわりに使用している。不死鳥も何度か浸かっては羽を洗っている。「いい湯だわ」と、金色の髪を沈め、顔も半分沈めてしまう。「ぷはぁー」と、顔を出してタオルを使用して、体を胸から順に洗っていく。融点が存在しないのか、火傷している様子は無い。時々、白い肌が見え隠れしているぐらいだ。「クロちゃん、上がるからお願い」と、イチカはマグマから体を起こす。回転を加えて、手をマグマの表面についてからゆっくりと起き上がる。起き上がると同時に体の上半身に氷の塊が白い長袖へ変化していく。そこそこある胸を上手に隠し、クロちゃん(黒き狼、世界を壊す者)は遠鳴きし、マグマを吸い上げて、イチカの赤いワンピースに仕立て上げる。「今日は久しぶりに階段の下へ行くから。階段どこだっけ?」クロちゃんはマグマの上をトコトコと歩いて行き、尻尾でマグマを叩く。イチカはそこまで歩く。「どこにも無いけど?」「合言葉がいるだろ?」と、クロちゃん。「ああ、合言葉。うん。作ったね。何だっけ?質問形式にしていたよね。確かえっと」「お祖父様の名前だよ」「ああ、うん。そうだね。お祖父様。本物の血は繋がってないけど、私にとってはお祖父様。うん。安倍晴明」マグマだったところに階段が現れる。下へ降りる階段だ。イチカと二匹は階段を降りる。そっとゆっくりと降りる。一人と二匹の後はまたただのマグマに戻る。上から見れば火山の火口だ。それも活火山。誰も近づかないだろう。階段をある程度降りると青白く光る円形の床に到着した。転移魔法陣だ。きっと地下へ通じているのだろう。イチカたちは地下へ転移した。したのかもしれない。ただ転移の部屋を出て上をイチカが見るといつもの土と大きな黒い石の柱が見える。ここを支えている何かだろう。イチカは天井が役割を果たしているのを見ると、わかったから笑ったのか、それは分からないけど、笑った。歩くだけで魅力がある。上からついてきた、タオル役だった炎の精霊が、イチカのリボンとして金の髪を後ろでくくった。「こういう髪型もたまにはいいわね」と、イチカは気にせず、どこから取り出したのか、小麦で作られたパンを食べている。それをちぎって、クロちゃんと不死鳥に一切れずつ与えている。「歩く廊下が土壁だけって言うのも寂しいわね。私の歩く場所だけ四色の花が咲いても間に合わないし。何かいい方法ないかな」「ないな。そんなものは。地道にゆっくりと作っていくしかない」と、クロちゃんは歩きながら言う。イチカはそんなクロちゃんを気に入ったから抱き上げたのか、理由は分からないけど、抱き上げた。そのまま歩いていく。歩いて行く先には鬼火ウィルオーウィスプたちが漂っている。「お前たちがいるから灯りには困らないわ」と、イチカは褒めながら歩いて行く。今、歩いている場所は長方形だったのに対して、突然、円形の廊下になる。なったかと、思えばそこは海の底だった。光が差し込んでいることからまだ浅い場所なのかもしれない。魚たちが群れをなして泳いでいる。赤、青、黄色と色とりどりの魚たちだ。それを眺めながらイチカは自分の姿がニュクスに変化している事に気づき始めている。クロちゃんはシロちゃん(白き狐、世界を造る者)に変化していっている。不死鳥は不死鳥のままだ。そうやって、歩き続けていると、意識的に転移したのか、海面の上に来ていた。「今日はここから私か、イチカ」と、ニュクスは笑うのだった。二人はそんな不思議なやり取りをまた続けて行くみたいだ。

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