第11話 変わり行く古城

 イチカ・リィズ・アナスタシアは古城の中を歩いている。床に敷いてあった赤い絨毯はイチカの足跡を残すように消えている。床も消えて、四色の花が咲いている場所もある。古城に蓄えられた魔力が枯渇しているのかもしれない。

イチカは壁を触ったり、後ろをついて来ている鎧騎士を見つめたりしている。よく見ると鎧騎士は前方からも来ている。さらに人間の顔をした犬も三匹に増えてイチカの前に現れた。あと扉が歩き出したり、壁に目が増えていく。鎧騎士の数が少しずつ増えている。古城はイチカを異物と認識したようだ。鎧騎士たちは人間の血液にある白血球と同じ役割だろう。鎧騎士は剣を抜き放ち、イチカに突進していく。人間の顔をした犬もイチカの足に噛みつこうと走り出す。イチカはしゃがみ込み、人間の顔をした犬に手を差し出す。噛みつかれた。噛みつかれたが、イチカは半眼で笑っている。噛みついた犬は白い光の粒となって消えていく。剣を振りかぶっていた鎧騎士は体を維持できなくなり、崩れる。崩れた鎧は床に音を立てながら、白い光の粒となって消えて行った。「そろそろ頃合いかな」と、イチカは立ち上がり、壁の穴が空いている部分から外へ飛び出す。外から古城を眺めてみると、すでに三分の一ほどが白い光の粒となって消えていた。「クロちゃん、おあがり」と、イチカは言う。

「わかった」と、クロちゃんは古城を飲み込めるほどに口を大きくしてあっさりと飲み込んでしまう。まるで最初からそこに古城は無かったかのように。

 湖だけが後に残る。イチカは湖の中央にいる水龍を見る。水龍がこちらにやって来る。よく見るとシロちゃん(白い狐)が水龍の頭上にいる。イチカは湖の湖面に足を乗せる。湖面の上を歩いていく。外氣功の応用で、できるようだ。シロちゃんが水龍の頭上から飛び降りて、イチカのところへ。シロちゃんを抱き抱える時、金色に輝く髪はプラチナに輝く髪に変化し、虹色の目は金色の目に、赤いワンピースは宵闇のドレスに変化した。ニュクス・リィズ・アナスタシアが降臨した。夜になったようだ。

「なかなか良かったわ」と、ニュクスは笑顔を見せる。シロちゃんの尻尾が九本に増える。「シロちゃん、さっき食べた古城。再構成して出してくれる。この湖の真ん中に・・・。再構成する時に階段を排除して。あと床はアダマンタイトを使用して欲しいわ。それからここにいる水龍をお客さんとして招きたいの。古城に取り込まれていた精霊は土と水と光だったわ。人を吸収することに味をしめてしまったのね。きっと。でも、今日からは私の持ち運びの家としてお城として動いてもらうわ。私が与えるのは太古より流れ出るタオ、氣とも呼ぶわね。動いてくれるかしら、精霊たち」

精霊たちはそれぞれの形で合図をする。シロちゃんは空中で一回転する。湖の中央にアダマンタイトの鉱石が青白く光っている。よく見れば満月が出ていた。ニュクスはそれを満足げに眺めて、古城の中へ入っていく。その後ろを藍色の中華風のドレスを着た水龍の化身が歩いていく。人型と呼ぶべきだろう。腰まである黒髪からは水の精霊の子供たちが湧き出ている。古城の玄関と呼べる場所は石畳の道となっていて、精霊の子供たちがそれぞれ姿を現す。土の精霊は小岩となって、水の精霊は水玉となって、光の精霊は小さな光の玉となって。リズムにすらならないリズムで踊り、騒ぎ、飛び跳ね、転がり、手をつないで、また踊っている。

 茶髪の女の子が泥まみれの服を着たまま湖面の上を歩いて来ている。足は無い。金髪の男の子も泥まみれの服を着たまま湖面の上を歩いて来ている。足は無い。だから歩いているように見えるだけかもしれない。緑髪の男の子、女の子の二人は兄妹なのか、お互いに手をつないで、泥まみれの服を着たまま湖面の上を移動している。やっぱり足は無い。その後ろに青白い鬼火ウィルオーウィスプが何十、何百と連なっている。かつて古城に喰われたモノたちだろう。そんな百鬼夜行をニュクスは再構築した古城の窓から眺めて微笑んだ。「悪くない買い物だった。シロちゃん、夜は長い。今宵を楽しみ、またイチカに交代するとしよう」そう言って、ニュクスはグラスに入った血の色をした何かを飲み干した。







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