第9話 古城で待っていたのは。

 イチカ・リィズ・アナスタシアは湖のそばにある古城に来ていた。ニュクスが気に入っている場所らしく、こっそり見ておいて欲しいと頼まれる。湖面は風に揺らぐ程度には水が貯まっていて、魚もどうやらいるようだ。霧があって、湖の中心に行くと水龍の姿を確認することができる。水龍はあやかしの部類に入るのか、それとも霊獣に入るのか。イチカはあごに手を当てて考えこむ。

「どっちだったかしら?」正直どっちでもいい。金に輝く髪は風になびいている。風の精霊が何人かわやわやと集まっている。精霊の集まる土地と言うことは格式?霊力の集まる土地なのだろうか。どうしてニュクスはここを気に入っているのだろうか。そこがどうしても気になる。色々と思考を巡らせて見るものの、全く分からない。ただ後ろの古城からはとてもじゃ無いけど、いい雰囲気を感じる事は無い。どちらかと言うと昨日、浄化した窮奇のような魔物がいる気配を感じている。ただ昨日の魔物よりも格上なのか、それとも弱いのか、気配が探りづらい。これはニュクスに言われた通り、こっそりと見ておいておくのがいいかもしれない。肝心なところはニュクスに交代したらいいかなぁってイチカは考えながら古城の玄関を探して歩き出した。四色の花が足元を埋めていく。古城と呼んでいいのかも謎である。蔦は壁に所々ある。それもびっしりと。壁を覆い隠すほどに。せっかくだから少し手入れをしてみようとイチカは考える。壁を触って、大地の精霊に語りかける。「まずの精霊に語りかけて」と、返信が来た。

「そ、そうね」と、イチカは気を取り直して樹の精霊に語りかけた。

「蔦を、成長を逆にできるかしら」と、イチカは聞く。

「さらに成長させて枯れさせる方が早いかなぁ」と、樹の精霊から返信が来た。

「じゃあ、そっちでお願い」と、イチカは依頼する。

蔦は古城全ての壁を覆い尽くすほど成長し、枯れた。灰となって消えていく。

蔦が消えたことでイチカは歩くのを再開する。しかしどこまで歩いても玄関と呼べる場所は無かった。イチカは足元を見て、四色の花がつながったことを確認する。どうやら一周してしまったようだ。イチカはもう一度大地の精霊に語りかけるためにあえて地面を触ることを選ぶ。しゃがみ込み、膝をついて地面を触る。そうやってゆっくりと動作をすることで心も落ち着いていく。「大地の精霊、答えて」「この城は生きているよ・・・・・・。だからニュクス様のお気に入りなんじゃないかな」と、大地の精霊から返信が来た。

「ええ、城そのものが魔物?だって言うの?」

「クロちゃんにでも聞いてみて」と、大地の精霊は返信する。

「クロちゃん、クロちゃん。城が魔物だなんて事があるの?」

黒き狼にして世界の破壊者たるクロちゃんは背中が痒かったのか、大木に背中を擦り付けている。

「ちょ、ちょっとクロちゃん。」

「ふわぁ〜あ。何?」と、クロちゃんは答える。

「城が魔物だなんて。そんな事あるの?」

「あるよ。大きいのだと街そのものとか。湖そのものとか。砂漠の中のオアシスそのものとか、認識できる”世界”そのものとか、とにかくたくさんあるよ。だから城が魔物って言う時点で小さい部類に入るのかな。この湖は精霊たちがいるから魔物じゃないね。うんうん。この魔物の変わっているところは、自分が餌だと認識した相手だけに入り口を与えるところと、一度入って来たら気に入ってもらえるように施しを与えてくれるんだ。何もしなくてもね。で、ある一定の餌が集まるまでは食事をしないんだ。食事の周期が200年に一度とか、300年、500年と、これも色々あるね。だから魔力の流れがわかる人間だとすぐに気づいて出ていってしまうんだけど。中には与えてもらう生活に慣れてしまって、そこで生涯を終えるまで生活する人もいるね。」と、クロちゃんは教えてくれた。

「へえ。じゃあ、私は餌と認識されないってことね。それじゃあ、中を見れないわ。どうすればいい?」

「イチカの生命活動を最弱に擬態すればいい」

「え?擬態?ニュクスはそういうの得意そう」

「足元の四色の花と同じぐらいの生命活動エネルギーにすればいいんだよ」

「ううん。意識しないでも溢れ出るエネルギーの欠片たちと同じと言われても。余計に分からないわ。生命活動エネルギーかぁ。まずそれを感じてみるね」

「そうだねぇ、がんばってぇ」と、クロちゃんは地面に寝転んで寝てしまった。

「ねえ、ニュクス。教えて」と、私は思い切ってニュクスに聞いてみた。

【水滴。一雫ひとしずくの水滴を思い浮かべてみて】

「思い浮かべたわ」

【その状態を維持して】

「え、う。うん」と、イチカは目を瞑って水滴を思い浮かべてみた。

水滴はどんどん大きくなってしまい、それは渦を作り出し、大渦となって、さらに海にまでなった。

「上手くいかないわ」

【氣を練ったことがないのだもの。当たり前よ。だから私の時間になるまで湖で遊んでいたら?どんな魔物か理解できたようだし】

「何かコツみたいなものを教えて、ニュクス」

【そうねぇ。氣を練り上げるコツとしては・・・意識しない事。ただ流れに乗る。求めずとも開かれる。そういう心構えかしら。浄化の時にいつもそれはやっているでしょ。擬態する時はその逆を行えばいいのよ。流れに逆らう。意識する。そうすれば擬態できるわ。】

「あーうん。なるほどね。」

イチカはもう一度目を瞑る。いつもは「導きたまえ」と、流れに乗っている。それと逆のことをする。つまり、意識する。意識するってなに?私は水滴よって宣言すること?それとも私は小さなありなのよ!って宣言することかな。ううん。小さく小さく針の穴を通すようにエネルギーを細めていくことかな。ああもう分からないわ。どう言うことなのよ。あ?

「玄関が現れた。は、入らなきゃ」と、イチカは古城の中へ足を踏み入れた。

【思考を絶え間なく続けること。そう。それでいいのよ】

「入れたわ。じゃあ、ちょっと散歩して見るわね」




明日へ続く。

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