第8話 朽ち果てた家屋にて。
イチカ・リィズ・アナスタシアは気まぐれに行動している。金に輝く髪、虹色の目、白色の長袖を下に着て、赤いワンピースをその上に着ている。クロちゃん(黒き狼にして世界を壊せる者)を引き連れて、朽ち果てた家屋を歩いている。果たしてその表現が正しいのか。それともただの誰も住んでいない家なのか。ほんの少し穢れ《けがれ》の気配が漂う愛しき場所なのか。いやいや、決して愛しきなどと普通の人は思うまい。吐き気を覚え、黒い
ここ。ここはそんな場所。
そんな場所をイチカは笑顔いっぱいで歩いている。とても楽しそうに。彼女にとっては愛しき場所なのかもしれない。クロちゃんと今日のお昼ご飯は何をスパイスに食べる?などと会話をしながら歩いているではないか。
「貴様、何者だ!」と、窮奇は闇から威圧をかける。壁の無いところに黒い壁が出来上がり、声を発している。普通の人間ならこれだけで、飛び上がり、腰を抜かして恐れ慄き、泣き崩れることだろう。ただイチカはにっこりと笑ったままだ。「奇魂だけになっても、よくここまで生き延びたものね。それはとてもとても愛しきことだわ」と、イチカはつぶやき、目を瞑った。
クロちゃんは口を開けて、白い光を放出する。仮にもクロちゃんは世界を壊せる者だ。窮奇の作った世界などあっさりと壊せる。
黒い壁に所々ひびがいく。
「な、なんだこの力は?まるで九尾狐様のような…」と、また黒い壁が新しく現れて声を発する。
「のような、ではなくて、クロちゃんは九尾狐とは同じ存在。世界を壊せる者同士。それで愛しき愛しき穢れよ、あなたにも
窮奇は観念したのか姿を表す。作っていた迷宮を壊してまで。
黒い壁は壊れ、大きな
「あ、あなた様は一体?」と、目を瞑ったイチカに近づいていく。
感情体しか無いだけに、恐れを抱いてしまってはそれ以外は抱けないのも、
イチカは目を開けて、窮奇の
「異世界日本において安倍晴明と呼ばれる人がいたの。今の私のように半眼で、あなた達のことを愛しきかな愛しきかな。我には其方ら全ての穢れが必要。其方らの存在を愛している。と、
イチカの足元に四色の花が咲いていく。その中に一つ。ピンクの花びらをつける花が一輪咲いた。
「花はいいわねぇ、クロちゃん。ほら、クロちゃん、これこれ。この花をスパイスに、えっと食べるんじゃなくて。ほら、この花を愛でながら持ってきたサンドイッチを食べましょ。ね、いいでしょ」
「良い」と、クロちゃんは頷く。不死鳥もイチカの周囲をくるっと一周して同意を示しているようだ。
「うんうん。いいよね。こういう晴れた日って。」そう精一杯の笑顔でイチカは笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます