第4話 モヤモヤに形を与えるとしたら?

イチカ・リィズ・アナスタシアは頭痛を感じたまま、ニュクスの前にやって来ている。心にモヤモヤがあるまま最果ての島へ到着してしまった。時間はあと三十分ぐらいはあるだろうか。そんな事を考える。水平線の向こう側に太陽が沈もうとしているのが目に見える。虹色に輝く目で自分の胸を触る。心にモヤモヤしたモノがある。それはアリの巣のように胸に巣を作っているようで。捉えようが無く、どうもスッキリしない。魔法職さいごのかみさまの役職を受け継いだ時にスッキリするための方法は書いてある。<もう一人の自分と対話しなさい>

「もう一人ってニュクスだよね。それとも?ううん。深く考えない。頭痛がするのは私たちの中のどの記憶かな、ニュクス。どうか教えて。」

【あなたの五感に記憶は見せているわ。あとはそれに言霊を唱えて】

「わわわ。え?言霊?」

【導きたまえ】

「うん。導きたまえ」あーなんだろ。これは私の前世なのかな。男の子。休んでいたら父親に怒られて、殴られた。大切にされたかったのに。大切にされなかった。うん?これと同じことが今起きているのかしら?

私は自分を大切に扱えていないのかな。何か忘れているのかな。

【自分が疲れているのに、あそこも浄化しなきゃ。あ、あの場所も。それって自分を犠牲にしているんだよ。だから頭痛を感じるの。何を生き急いでいるの?】

「ほんとだね。確かに私。自分を…。ごめんね、ニュクス。疲れている私。うん。疲れているから早くここへ辿り着けたのかもしれないかな。今まで意識して休んだ事がないの。どう休めばいいかな、ニュクス」

【忘れたの。モヤモヤがある時はどうするんだっけ?】

「あなたと対話する。えっと出来ているよね」

【ふふふ。まあね。ブランコ、覚えてる?もっと乗りたかったのに、帰る時間に邪魔されてイヤイヤ帰っていた。そう、あの時もモヤモヤしていたでしょ。イチカは浄化を役職だからと、イヤイヤやってしまった。だからモヤモヤが溜まっていったの。イチカが感じているのは?喜び?それとも悲しみ?怒り?楽しみ?】

「悲しみ…。間違っていたよ、ニュクス。ごめんね」

【浄化はイチカの力でやるんじゃない。導きたまえ。魔法職さいごのかみさまのお力を現す。お任せする。ゆだねる。求めずとも開かれる。そういう瞬間。それは探さなくてもいいの。イチカには頭に不死鳥がいるでしょ。クロちゃんだっている。ちゃんと教えてくれるから。必要な言霊さえも教えてくださる。昔からそういうものだったでしょ】

「うんうん。そうだねぇ。なんか忘れていたんだぁ。導きたまえ。なんだか胸があったかいよ」

【私が笑ってるの、わかる。うん。あったかいね】

太陽は沈んだ。

金色に輝く髪、虹色の目、赤いワンピースは消えて、プラチナに輝く髪、金色の目、宵闇のドレスへ変化する。

ニュクスは夜の世界を歩き出した。「待っていてね、イチカ。じゃ、またね」

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