第3話 黄泉平坂で魔神と一緒に歩く。

 イチカ・リィズ・アナスタシアは黄泉平坂よもつひらさか(冥府と現世の狭間)で寝転んでいた。それを見つけたニュクスは「今日はここを始まりの森に設定したのね」と、微笑んでいた。プラチナの髪、金色の目、宵闇のドレスを着たニュクスはいつもようにおでこに口付けをする。

朝日が差し込み、イチカは目を覚ました。

金に輝く髪、虹色の目、白い長袖を下に着て、赤いワンピースをその上に重ねて着ている。頭上には赤い不死鳥が着地して赤い帽子に変化した。

風の精霊に頼んで、体を風で回転させてもらって立ち上がる。燕尾服を着た小鬼、ゴブロウタが45枚のカードを持ってやってきていた。

「おはようございます。イチカ様。カードを引く時間です。」

「ええ、そう見たいね。それじゃあ、混ぜてもらって、一番下のカードをちょうだい」と、イチカはお願いする。

「かしこまりました」と、ゴブロウタは頷き、カードをシャッフルする。それから一番下に来たカードをイチカに渡す。

十三番、破壊神シヴァの花嫁、カーリ。数百のドクロを紐でつないで首飾りにしている女神のカードだ。

「カーリ様のカードはいつも安心させられる。彼女からのメッセージは好きに生きなさい。この一言だけ。それとその姿。わたしは見ての通り、好きに生きているでしょ。そんな彼女が私は大好き。だから今日はこの黄泉平坂に来たの。ルキ(拒絶の魔神、ルキフグス)にも会ったし。それもあるけど。この場所ならルキとだって手を繋いで歩ける気がするわ。ゴブロウタ、クロちゃんをまず呼んで来て。ルキはクロちゃんに呼んでもらうから」と、イチカはゴブロウタに言う。

「はっ、ただいま」と、燕尾服を着たゴブリン、ゴブロウタは走って去って行った。それを半眼でイチカは眺めている。

妖精たちが話しかけてくる。「魔神に会うなんてとんでもない。おやめください、イチカ様」「そうです。おやめください」

「そう言う訳には行かないのよ。陰と陽は切り離せないのよ。だからきっと意味がある事なの」妖精たちはまだ何か言っている。

黒い狼がやってくる。

「クロちゃん、おはよう」

「おはよう、イチカ。今日のサイコロは二十面ダイスと五個と、ウッドダイス八個でいいか?」

「そこにプラスチックのサイコロを六個追加でお願い」

「ふーん。まあ、構わない。それだと、出目次第で魔神を召喚するエネルギーを作り出してしまうことになるぞ。それとも魔神の誰かを呼び出すのか?」

「ルキを呼び出したいの」

「なるほど。わかった」と、クロちゃんは最初に五個の魔法陣を発動させる。

二十面ダイスが現れる。サイコロは回転し始める。

「ストップ」と、イチカは叫ぶ。

19、19、18、10、9という結果になる。

「隠された数字はまだ分からないわね。次のウッドダイスをお願い」

「行くぞ」と、クロちゃんは言う。

八個の魔法陣が発動し、ウッドダイスが現れ、回転を始めた。

「ストップ」と、イチカはすぐにいう。

一、一、一、五、五、六、六、三。

「隠された数字は4。扉は開かれるわ。さあ、クロちゃん。プラスチックのダイスを六個お願い」

「よし」と、クロちゃんは六個の魔法陣を発動させた。

プラスチックダイスは回転を始める。

「ストップ」

1、2、3、4、5、6。

【魔神ルキフグスは召喚される】

「くけけ。イチカか」と、金髪で両目が無く、黒いローブを着ている。左手には中身が白紙の魔導書を持っている。

「うん、ルキ。ここを一緒に歩いてほしい」

「一緒に?それは構わないが、いいのか?」

「歩けるか分からない。あなたがニュクスと一緒に歩いているのはよく知っているから。でも、私とも歩いて欲しいの。私は魔法職さいごのかみさまだから。きっと歩けると思うの。お願い」と、イチカはルキの右手を左手で握る。

「ああ、そこまで頼まれたら断れないな。」と、あるはずの無い眼で、イチカをルキは見る。

イチカとルキは一緒に黄泉平坂よもつひらさかを歩いた。

四色の花と宵闇の蜘蛛が同時に発生する。

創造と破壊。

破壊と創造。

どちらが欠けてもいけない。

「ねえ、ルキ。また歩きましょ。疲れていたと思うの…私もあなたも」

「ああ、そうだな。火の精霊か、炎の精霊でも呼び出して眺めるといい。疲れは癒えるだろう」

「それならこの帽子を」と、イチカは帽子を取って、投げた。

赤い炎が弧を描く。イチカの手元に帰ってくる頃には不死鳥に戻り、戻ってきた。「おかえり」と、イチカは右手で不死鳥を捕まえる。

現世に足を踏み入れた時、ルキは白い光と共に姿を消す。あるはずの無い両目の端が吊り下り、笑っているように見えた。

イチカはクロちゃんと歩き出した。ニュクスの眠る場所を探して。途中、赤い夜叉の仮面を被った女性の霊を拾った。空間の狭間からルキが顔を出してくれたので、ルキに収集を依頼した。

わたくしを見て>ルキは冥府の声を聞かせてくれた。

「うん。あなたという存在を見ているよ」と、イチカは微笑む。

女性の霊はルキの口の中へ消えていった。

「どうして人は本体を忘れてしまうのかな」と、イチカはルキに尋ねる。

「それがゲームの始まりだからじゃないか」と、ルキは答える。

「始まり?」

「生まれ変わる時に忘れてから生まれるからな」

「そっか。なるほどね」

「じゃあな」と、ルキはまた空間の狭間に姿を隠した。

精霊と妖精たちが戻ってくる。

イチカのために環境を整える。イチカは立ち止まり、祈りを捧げていた。



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