第四十四話 終わりは唐突に

 全身を漆黒の槍で貫かれる佐藤時光。

 だが――


「……ん?」


 その身体は、まるで霞のように消えて行った。


「……また、逃げられたか。相変わらず、逃げ足の速いことだねぇ」


 そう言って、怜華は自らの傷を回復魔法で癒す。


「だが、手応えはあった。相当無茶しただろうし、当分は動けん」


 そして、怜華は事の次第を説明すべく、宗也と連絡を取り合った。


(あのぼんくらに、失敗報告なんて、したかないねぇ……)


 捕縛及び殺害という元々の目的が果たせなかったことに、怜華は心底不機嫌になりながらも、しぶしぶといった様子で報告をする。


「ぼんくら。聞こえるか?」


「あ、師匠! 流石ですね! まさか、こんなにも早くあのだなんて!」


「……ん?」


 通話を繋げば、開口一番そんな事を言う宗也に、怜華は思わず怪訝そうな顔をする。

 だが、即座に冷静になると、即座に思考を巡らせた。


(ぼんくらがこう言うって事は、《未来占知ウーワニアー》で時光の死は確定している……つまり、もう死んでいるという事になるねぇ。だが、私は殺してないし、あれならまだ全然生きている筈……どういうことかねぇ?)


 並の人間であれば、怪我がもとで死んだと判断できるが……時光は並の人間では無い。

 弱っているとは言え、あの怪我でも即死はせず、回復魔法で即座に癒せる――いや、そもそも怪我をしていない可能性もある。


(うーむ……唐突に寿命が来た感じかねぇ? 延命をやらかして)


 そして結局、そんな結論を出した怜華は、どこか釈然としない思いになりながらも、言うべき事を口にする。


「そうだねぇ。それで、そっちはどうだい?」


「はい! 不確定要素の佐藤時光が死んだことで、一気に完全勝利への道が見えてきました。怜華さんは、睨みを利かせる為にも、ここへ戻って来てください!」


「分かってるよ……全く。ぼんくら。お前さんも気を付けるんだね。能力に頼り切ってると、いつか痛い目見るよ」


「そ、それは分かってるよ師匠……でも、どうしても……」


「煩い煩い。切るよ」


 そう言って、怜華は通信を切った。

 その後、即座に怜華は転移魔法を唱え、その場から姿を消すのであった。


 ――時は少し、遡る。


「やれやれ。相変わらず物騒な娘じゃのう。空蝉無ければ死んでたわい」


 そう言って、気配を消しながら山中に立つのは、無傷の時光。

 漆黒の槍で貫かれる瞬間に、空蝉と呼ばれる魔力製の分身体と、入れ替わっていたのだ。


「さてと。それじゃ、身体も温まってきた事じゃし、怜華の苦手な不意打ちと――」


「そこまでだ」


「……なんじゃ?」


 怜華に再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、気配も音も無く姿を現す1人の男。

 青の軽装備を身に纏い、右手には漆黒の大鎌を持っている。


「お主……只者では無いのぅ……どれ、《破滅予知ディース》で見……え?」


 時光はそう言って、常時発動させている、破滅のみを予知できる固有魔法――《破滅予知ディース》を確認する。

 そして――唖然とした。


(馬鹿な……未来が――)


「未来が視えない……か?」


「な!?」


 更に、自身の思っている事も当てられ、狼狽する。

 何故、未来が視えないのか。

 何をされているのか。

 時光は思考を巡らせる――だが、直後。


「【動くな】」


「な……ぜ……」


 たった一言で、時光は動けなくなる。

 まるで魂を鷲掴みにされたかのようにその場で硬直する時光。

 やがて、男は時光の前までやって来ると、その頭に手を当てた。

 刹那、まるで逆流するかのように脳内を巡る自らの記憶。


(記憶を、読まれてる!?)


 そして。


「なるほど。じゃあ、死んどけ。俺の居場所を壊そうとするが」


 ザン――


 胴を、一刀両断された。

 何らかの能力で今だ動けない以上、もう――終わりだ。


「そんな……頼む……未来を、繋……ぎ――」


 そうして、多くの者から恐れられた”魔滅会”の創設者――佐藤時光は、あまりにもあっけなくその最期を遂げるのであった。


「……他者を犠牲にして、自分たちは生きる。あの時の共と、やってることは同じだ。なら、それに俺が抗っても――文句を言われる筋合いはない」


 そう言って、男――川品大翔は、その場を後にするのであった。


 ◇ ◇ ◇


「ただいま、アルフィア」


 用事を終え、第600階層に帰還した俺は、《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》の能力――《時空神の加護クロノス・ブレス》を解除すると、アルフィアにそう声を掛ける。


「お帰りなのじゃ、ご主人様よ。して、事は済んだのかの?」


「ああ。俺の居場所を壊そうとする共の指導者を殺し、情報を抜き取って来たよ」


 アルフィアの問いに、俺はそう答える。

 やれやれ。それにしても、面倒な事をしてくれるな、人間は。

 宗也の記憶を除いた時に知った、”魔滅会”の目的――ダンジョンの破壊。

 比喩無しで、本気で破壊しようとしているらしのだが……まあ、ぶっちゃけそれは荒唐無稽が過ぎると最初は思った。

 だって俺が全力を出しても、このダンジョンの全てを理解する事すら、出来ないのだ。

 ただ、念の為という事で、今さっき”魔滅会”の創設者の下へ行って、情報を全て抜き取って来たんだ。

 そしたら……驚いたよ。


「まさか、本当にダンジョンを破壊――いや、機能停止させる方法があるだなんて」


「なに? それは流石に脅威ではなかろうか? ご主人様よ」


 俺の言葉に、アルフィアは食いつく様な反応を示した。

 そりゃそうだ。俺もアルフィアも、ここが唯一の居場所なのだから。


「ああ。下の――本当のダンジョンが始まるよりも前。第1階層から第600階層までの機能停止が可能らしい。流石にあの手段は、思いつかなかったな」


「うむ……それが為されると、この階層への魔力供給が絶たれ、荒れ果てそうじゃのう」


「ああ……ただ、それよりも厄介なのは、それが為されれば魔物という障害が無くなった事で、人間がここまで来てしまう可能性がある。ここを――奴らに踏ませるわけにはいかないんだ」


 俺は、憎悪の込もった声でそう紡いだ。

 俺の大切な居場所を奪おうというのなら、流石に抗わせてもらうよ。

 本気でね。


「んみゅ? あ、マスター!!!」


 すると、ベッドで寝ていたルルムがむくりと起き上がった。

 そして、俺を見るなり飛びついてくる。


「おおっと。ルルム」


 俺はルルムを抱き締めると、その小さな背中を優しく擦った。


「みゅ~……えへへ~~マスター~~~……」


 それに対し、ルルムは俺の肩に顔を埋めながら、嬉しそうに目を細めるのであった。

 うん……俺の大切なものを守る為にも、ここは動いておこうか。


「じゃあ、少し休憩しようか」


 そうして俺は、未来視系統の対策――《時空神の加護クロノス・ブレス》のクールタイムが終わるまで、暫し休憩に入るのであった。


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Q:主人公の出番が無さ過ぎるぞ、どうしてだ!

A:こっちが聞きてぇ……なんかこうなってたんだ……(泣)

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