第四十三話 頂点の戦い

 久保怜華と佐藤時光。

 その2人の戦いは、壮絶を極めた。


「【魔法書解放リード――《厄災顕現カタストロフ》】」


 怜華が呼び出すのは、厄災を文字通り体現した黒いナニカ。

 以前宏紀が翼との戦いで使用したが、本家本元は桁が違う。


「滅ぼしな、厄災」


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!!!」


 厄災は、怜華の命で時光を滅ぼさんと襲い掛かる。

 その余波で、木々は黒く変色しだす。


「環境破壊の極みじゃのう……それ」


 その光景を前に、時光はそんな嘆きの声を零しながら、回避を選択した。


「【全てを浄化せし断罪の剣――《宝剣纏聖ホーリー・ブート》】――はああああっ!」


 そして、刀身に聖なる光を宿すと、横なぎに草薙剣を一閃する。


「◆◆◆◆◆◆――!!!!!」


 それは、厄災を上下に両断した。

 当然、両断された程度では消滅しないが――再生には、僅かながらも時間が掛かる。

 その隙に、時光はもう一度草薙剣を振るう。


 ザン――!


 刹那、草薙剣から放出された聖なる光が、一直線上にあったもの全てを両断した。

 怜華は済んでの所で回避するも、衣服の裾を僅かに斬り裂かれる。


「全く……それが固有魔法では無いとか、中々にデタラメだねぇ。クソ爺」


「それ、怜華が言えた口かの? お主の魔法も、中々にぶっ飛んでおるぞ?」


 そして、そんな軽口を叩き合う。

 だが、その最中で両者は思考を巡らせていた。


(あのクソ爺……近接戦なら最強だが、老化でそう長くは動けん。じりじりゆっくり、削ろうかねぇ……)


(儂の身体、どこまで動くか……。信也の幻術で身体を騙し、ある程度は動けるが……世界の修正力が完全に働ききれば、終わりじゃ。こりゃ、ハードな短期決戦をするしかないのう……)


 互いに、思考は一瞬。

 そして――動く。


「【魔法書解放リード――《漆黒天窮ディープネス》】」


「【万物を斬り裂く剣――《宝剣絶斬スラスト・ブート》】」


 直後、空が夜天の如く黒く染まった。

 そして、時光を取り込まんと浸食を始める。


「はっ! はっ! はあああっ!」


 それに対し、時光は白銀の光が宿った草薙剣を振るって、バターの様に斬り刻む。


「やるねぇ……やれ」


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆――!!!!!」


 だが、その隙を突くかのように、怜華は厄災を放った。


「はああああっ!」


 しかしそれも、地面を勢いよく蹴った時光が、神速で草薙剣を振るって斬り刻んだ。

 そして、そのまま怜華目掛けて振り下ろす。


「強いねぇ――【魔法書解放リード――《魔力収束砲マジック・コントラクションカノン》】」


 だが、怜華は不敵な笑みを浮かべると、すかさず魔力の砲撃を放つ。


「ぐっ――ううっ!」


 草薙剣でそれを受けるも、大きく後ろへの交代を強いられる。


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆――!!!!!」


 そこへ、背後から迫る再生した厄災。


「ちいっ!」


 それには、草薙剣から白銀の光を飛ばして対処する事を強いられてしまった。

 これにより、白銀の光を失う草薙剣。


「本命だよ――【魔法書解放リード――《暗黒破壊弾ダークネス・ブレイクバレット》】【魔法書解放リード――《暗黒追尾弾ダークネス・ホーミングバレット》】」


 その隙を見逃さず、怜華は本命の攻撃を放つ。

 そうして放たれるのは、無数の漆黒の弾丸。


 ドオオン!!! ドオオン!!! ドオオオオオオン!!!!!!


 1種は、着弾時に周囲を巻き込む爆発を引き起こす弾丸。


 シュン! シュン! シュン!


 そしてもう1種は、対象を着弾するまで追尾する弾丸。

 どちらも威力は高く、非常に厄介な代物だ。


「むぅ……流石にハード過ぎんかのぅ?」


 それに対し、時光は眉を顰めながら回避及び迎撃を選択する。


「ほいっ ほいっ ほいっと。で、これは斬る」


 破壊弾は、迎撃時のリスクの高さ――そして回避のしやすさから、回避を選択。

 そして追尾弾は、回避のしにくさから、迎撃を選択。

 同じ外見の2種の弾を、即座に判別して対処する様は、怜華が近接戦最強と断ずるに足る技量だ。


(それで終わらせたかったんだけどねぇ……あれから、どれだけの鍛錬を積めばそうなる……。限定的な……死関連の予知能力があるのも、大きいかねぇ? ぼんくらと違って、本人が強いし)


 佐藤時光の固有魔法――《破滅予知ディース》は、宗也の《未来占知ウーラニアー》の下位互換にあたる魔法とは言え、強力であることに変わりはない。

 それを、宗也のような頼り切ってしまう使い方では無く、自身の力を主軸に使えば、その効果は何倍にも高められるのだ。


「だが、それで精一杯だねぇ。【魔法書解放リード――《厄災顕現カタストロフ》】」


 そして、怜華は2体目の厄災を召喚する。


「やれ!」


「「◆◆◆◆◆◆◆◆◆――!!!!!」」


 狙うのは、当然左右からの挟撃。

 身体に当たれば、それだけで精神的及び魂魄にダメージを受ける――老化で主に魂魄が弱っている時光にとって、それは致命傷だ。


「ぐうっ!」


 そんな時光が取った行動は、左腕を犠牲にしての緊急離脱。

 左腕に甚大な怪我を負いながらも、生き残るために最適の行動を取った時光は、そのまま怜華へ斬りかかる。

 完璧な軌道、圧倒的な速度。


「くっ――」


 接近戦は、さしもの怜華とて分が悪い。

 怜華は後衛魔法師らしからぬ身のこなしで、その場からの離脱を図った。

 だが、本職の近接戦闘者相手では、気休め程度にしかならない。


「終いじゃ」


 そして、突き出される鋭い突き。

 それは、怜華の喉元へ吸い込まれて行き――


「がっ……!」


 完全に、貫くのであった。


 ――がしっ!


「なっ――」


 刹那、怜華の喉を貫く剣を持つ時光の右手首を、怜華が右手で掴んだ。

 力もそれなり――大方、瀕死の人間のそれでは無かった。


「まさか――」


 その瞬間、時光は破滅の未来が近い事を悟る。

 刹那。


「短期、決戦……ごふっ。読んでた、よ――」


 ザザザザザザザンンンン――!!!!!!!!!!


 怜華から突き出た無数の漆黒の槍が、時光を四方八方から貫くのであった。

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