第四十二話 草薙剣
「宗也さん、すみません。遅れてしまって」
「いえ、ご無事で何よりですよ。宏紀さん」
連絡をし、ようやく鈴木宗也との合流を果たした小川宏紀は、またもや藤堂信也にしてやられたせいか、心底気まずそうな顔でそう言った。
それに対し、”魔滅会”の構成員を背に漆黒の大鎌を肩に担ぐ日本国総理大臣――宗也は、にこやかな首相らしい笑みを浮かべて、首を横に振るのであった。
「それで、どうやら藤堂信也と再び交戦したようですね?」
「はい。奴は”魔滅会”創設者――佐藤時光と宗也さんの幻を用いて、私を騙しに来ました」
「そうですか……なら、その未来が視えずらかったのも納得です」
宏紀からの報告に、大鎌を肩から降ろした宗也は、顎に手を当てながら、納得したように頷く。
「何か、分かった事でも?」
「はい。以前、私の魔法を模倣して頂いた時にお教えしましたが、私と同系統の固有魔法を持つ佐藤時光には、《
「なっ……そんな事が、可能なのですか?」
宗也の出した結論に、宏紀は驚きの声を上げる。
当然だ――何故ならそれは、藤堂信也の幻が、自身の想像を遥かに上回るレベルで精巧であることを意味するのだから。
「はい。《
「いえ、大丈夫です。今の話と、先ほどの佐藤時光を視て、大体は理解しましたので」
宗也の長ったらしい説明に、宏紀はそう言って頷くのであった。
「……ん? そう言えば、怜華さんはどこへ?」
日本国の最高戦力――この戦いにおける絶対的な切り札。
そんな彼女――【災禍の魔女】、久保怜華はどこへ行ったと問う宏紀に。
宗也は当然とでも言いたげな様子で口を開いた。
「はい。ようやく、敵の首魁周りが手薄となったのですから、そこを突くのは当然ですよ」
そう言う宗也に。
宏紀は、なるほどと言って頷くのであった。
――そして、場所は変わって長野県の山中。
転移魔法でそこに移動した久保怜華は、1人イラついた様子で歩いていた。
「全く。昔はオンボロビルの地下だったのに、いつの間にこんな自然豊かな場所に居を構えたのかねぇ……【魔力よ、闇となれ、解き放て――《
そんな皮肉を言いながら、怜華が全面放出するのは、闇のオーラ。
それにより、数多の虫が絶命する。
だが、木々は無事――これには環境活動家もにっこりだ。
「全く……コバエとかが鬱陶しくてたまらないねぇ」
そう言って、今度は右手を振り上げた。
「……ここだね。【闇の魔力よ、大いなる力となりて――】」
そして、紡がれる長文詠唱。
漏れ出る魔力が、周囲の空間を震わせる。
やがて、魔力が臨界に達した。
「【――破壊せよ――《
直後、放たれるのは特大の闇の砲撃。
万物を破壊する砲撃は、木々や地面を一気にぶち抜く。
これには流石の環境活動家も、裸足で逃げ出す事だろう。
「ふうーーー……すっきりした。で、クソ爺! いるなら、さっさと出て来るんだね!」
破壊によって生まれた、大きなクレーター。
そこに向かって、怜華はそう叫び声を上げる。
――ガラガラガラガラ
すると、瓦礫の山が弾け飛び、中から1人の袴姿の老人が飛び出て来る。
老人は怜華の前に着地すると、小さく息を吐いてから口を開いた。
「やれやれ。相変わらず、派手な訪問じゃのう。もう少しお淑やかにせんか。見目は、可愛らしい美女だと言うのに」
「クソ爺。お前さんにナンパされても、全く嬉しくはないねぇ」
「中々、酷い奴じゃのう……それじゃから、その歳になっても嫁の貰い手が無いんじゃ」
老人の言葉を、バッサリと一刀両断する怜華。
これには、何とも悲しそうな顔をする老人――だが、次の瞬間には刀を握っていた。
「名刀・草薙剣――目にするのは本当に久しぶりだねぇ、クソ爺」
名刀・草薙剣
老人――佐藤時光が所有する、最後の三種の神器だ。
長い信仰が力となり、ダンジョンの影響で偶然覚醒したそれの等級は――《
だが特例であるせいか、大翔が保有する《
ただ1つあるのは――
「【
「【魔力よ、刀身に纏え――《
絶対的な、
見れば、《
絶対に壊れない武器――地味だが、厄介の極みだ。
「はっ! そうでなくてはねぇ! 佐藤時光!」
「やっと名で呼んでくれたか……嬉しいのぅ。じゃが、ここで果てよ。久保怜華!」
そして――衝突した。
こうして、レベル200を超える者同士の壮絶な争いが、始まるのであった。
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