第四十五話 万想継承
「……ふぅ。聞いてましたか? どうやら皆さんのボスが死んでしまったようですよ?」
通信を切り、左腕を下げた鈴木宗也は、そう言って眼前にいる2人を見やる。
「はぁ、はぁ……戦いながら連絡とるとか、随分な余裕じゃないっ!」
「実際、余裕だろ。特級相手に俺たちが勝つのは、結構厳しいから」
その言葉に、肩で息をする序列5位――橋本奈美恵は、そう声を上げて悪態を吐いた。
そして序列4位――東雲和樹は、そんな奈美恵を諭すように、冷静に言葉を紡いだ。
だが、額からは汗が滴っており、相当な恐怖を覚えている事が伺える。
そんな2人に対し、宗也は1歩前に出ると、右手に持つ大鎌を構えた。
「2人が降伏する可能性は限りなくゼロに近いと、解っている。そろそろ、悪足掻きもやめて欲しいものだ――なっ!」
そして、地を蹴った宗也は、一気に敵の前衛たる奈美恵に肉薄すると、その大鎌を振るう。
「ぐううっ!!!」
それに対し、奈美恵は咄嗟に身体を捻ると、振り下ろされる大鎌の側面を全力で殴ることで、大鎌の軌道を変えて躱して見せた。
「甘い」
だが、そこへ繋がる様に逆袈裟が入った。
当然、今の迎撃で手一杯だった奈美恵に対処できる筈も無く、胸を縦に深々と斬り裂かれる。
「いけ、雷龍!」
「グルアァァァ!!!!!」
そこへ、和樹が自身の固有魔法で顕現させた雷龍を突貫させる。
しかし、それも――
「先ほどより、幾分か遅くなってますね」
唯一の長所である速度が鈍れば、もう無意味だと言わんばかりに、宗也は空いている左手を振るった。
パチン!
それだけで、雷龍の軌道は逸らされ、明後日の方向へと飛んで行く。
「化け物がっ!」
その光景に、和也は悪態を吐きながら、後方へと離脱する。
しかし、それは宗也の方も――同じだった。
「マズいですね。この未来――
刹那、和也の姿は霞が如く消えてしまった。
消えたのは、やはり――
「藤堂信也……本当に、厄介ですね。」
藤堂信也の、世界をも欺く幻術だった。
「ですが、問題はありません。元より既に、最悪の状況は回避できているのですから」
「な、に、を……ごほっ……いって……」
「ああ、もう沈んでください。貴方は」
その後、瀕死の奈美恵を即座に処理すると、宗也は踵を返して歩き出した。
「さて。あれから藤堂信也と2度の戦闘を繰り返し、観測した彼であれば、そろそろ奴とちゃんと戦えそうですね。ですが、増援は必要ですね。私では、相性の問題で勝てないので……ここは、師匠に増援を頼みましょう」
もっとも――
「宏紀さん……もう既に、接敵しちゃってますか……」
そう言って、宗也は小さく息を吐くのであった。
◇ ◇ ◇
「……ふぅ。全く、危ない所だったな」
「あ、ああ……悪い。信也さん……」
路地裏にて。
藤堂信也によって、なんとか脱出できた和也は、どこかバツが悪そうにそう言った。
だが――次の瞬間。
「が、はっ……!」
信也の右腕が、和也の腹を貫いていた。
今まで信也が、部下相手にドギツイ制裁を科したことはある。
だが――余程の無能が相手でも、殺した事は一度とて無かった。
衝撃のあまり、目をあらんばかりに見開く和也に、信也は淡々と、冥途の土産とばかりに話をする。
「記憶を意図的に消している故、どういう訳かは分からないのだが……記憶を消す前の俺曰く、これが正しいらしい」
「は……は?」
だが、話を聞いて尚、和也には何が何なのか、全く理解できなかった。
いや――1つだけ理解できたことがある。
それは――今の信也が、今までにない程――恐ろしかったという事。
ずぼっ!
「がはっ……そん、な……」
そして、引き抜かれる右腕。
激しく吐血し、血を流し過ぎた和也は、そのまま血の海へと沈んで行くのであった。
「…………」
一方、和也を殺した信也は、暫し時が止まったかのように固まった。
「……なるほど。
そして、その状態でぼそりとそう言うと、詠唱を始める。
「【数多の
それは、信也が自分にすら隠していた、もう1つの固有魔法。
その効果は、自身――そして対象が、互いに味方だと判断している場合、その対象死亡時に、対象が持つ全ての力を、自身に蓄えること。
魔力とはまた違う――より高位の、より高濃度のエネルギーたるそれは、自身が本来出来ない事さえも、可能に出来る。
「なるほど。必要量エネルギーが溜まった事で、記憶消去が解除されたという訳か……だがこうなれば、宗也の予知に引っかかり兼ねない。直ぐに動かねぇと――」
そう言って、即座にその場を後にしようとした――刹那。
タッ
「見つけました。藤堂信也――本体ですね?」
信也の前に、1人の男が降り立った。
そう――小川宏紀だ。
宗也から、凡その場所を聞いていた宏紀は、その気配を察知するなり、神速で急行したのだろう。
「……ちっ 面倒な。もうお遊びは無しだ。小川宏紀」
刹那、信也の周りに現れるのは、お得意の分身体。
数は3――だが、その全てが特級下位の実力持ち。
素の身体能力では、1体でも手に余るほどだ。
だが、宏紀は一切動じない。
「ええ――今度こそ貴方を――倒します」
短くそう言って、宏紀は戦闘態勢へと入るのであった。
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