第三十四話 少しずつ、始まって行く
ホテルを出た俺たちは、地上で飯の買い出しをした後、拠点がある第600階層へと戻って来た。
「戻って来た~~~~!」
第600階層に戻った途端、ルルムがそう言って広大な平原の上をくるくると回った。
「そ~~~~れっ!」
そして、ご機嫌のままにロボさんを投げる。
俺の技術を結集させた、圧倒的硬度を誇るロボさんの身体は、そのまま空を飛ぶドラゴンの腹を完全に貫き、絶命させた。
「なんと雑な……」
「まあ、倒せておるから良いじゃろう。少々ロボさんの負担が、大きくなっただけじゃ」
「それは良いのか……?」
「いつも妾にルルムの対処を任せておるくせに、よく言いおる」
「ごもっともで」
そして俺とアルフィアは、そんな様子を保護者面しながら見ているのであった。
その後、ひと段落付いた所でルルムとロボさんを呼び戻すと、家の中に入った。
「……あーやはり地上は出来事が多すぎるな。1日2日でこれだよ」
そう言って、俺はベッドの上に座る。すると、いつものようにルルムが胡坐を掻く俺の膝に上に寝転がった。
「さてと。一先ず情報を整理するか」
膝に寝転がるルルムの頬をつんつんしながら、俺はそう言って頭を捻る。
「まず、やりたい事であった食料の補充。そして大鎌の使い方はそれなりにマスター出来た。成果としては上々だ」
だが、そのせいというのも何だが、少々厄介なことが振って来た。
「まさかこちらの正体を知る人間に出くわすとは……」
「ふむ。確か、未来視の能力じゃったかの?」
「ああ。それなりに制約はあるように見えるが、中々凄い。まあ、分かっていれば対処しようのあるものだけどな」
アルフィアの言葉に、俺はそう言って答える。
確かに強いが、無敵の能力は存在しない。
常識だ。
「まあタネが分かってしまえば、そりゃご主人様じゃし、余裕で対処できるじゃろうな。して、対処法は?」
「簡単だ。ただただ強くなればいい。あと、普通に少しでも未来に干渉出来れば、簡単に妨害できる」
もし正確に未来を見通せるのであれば、あの時あそこまで怯える理由が無い。
未来視で見たもの通りに行動すれば、必ず生存できるのだから。
となると、恐らく未来視で見た未来は、必ずしも確定とはならない……もしくは、完全に見通す事は出来ないといった所だろうか。
それに、ある程度過去未来という概念を理解しているからこそ、俺は未来の不安定さをよく理解している。
なら、分かるさ。
妨害は非常に簡単だ……とな。
「ただ、地上の人間レベルでは、過去未来に干渉するのほぼ不可能。なら、人類最強クラスと言うのも納得だ」
そう言って、俺は小さく息を吐いた。
「……で、話を戻すが、魔物の大反乱……か。まあ、嘘では無いのは流石に分かるから、手は貸すのだが……どう潰すか」
まだあやふやだが、大まかな日時と発生場所は把握している。
故に潰すこと自体は余裕で出来るのだが、あんまり潰すところは人に見られたくないんだよな。
手の内はあまり晒したくないもんで。
晒せば、それは隙となり、いずれ俺を穿つ槍となるかもしれない。
下手な事をすれば即滅亡ってのを理解しているあの首相は例外だが……な。
「……まあ、無難に凍らせればいいか。固有魔法は無しにして、万が一で《
これで、やらないといけない事は済んだ。
なら、暫くはゆっくりするとしよう。
そう思うと、俺はこのまま雰囲気に身を任せるのであった。
◇ ◇ ◇
愛知県名古屋市付近にて
「……ああ、分身が宗也にやられたか。まあ、仕方ないか」
新幹線のグリーン車に乗り、窓の外をぼんやりと眺めていた藤堂信也は、破壊された分身体に割いていたリソースを戻すと、そう言って小さく息を吐く。
今向かっているのは、浜松の目と鼻の先とも呼べる、愛知県豊橋市。
直ぐにでも浜松市へ迎えるそこに仮拠点を作り、作戦を遂行する。
それが、藤堂信也の目的だ。
「相席しても、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わな――」
突然の申し出に、信也は珍しいと思いながら顔を上げ――そして出て来た言葉を途中で飲み込んだ。
何故なら、そこには――
「……まさか新幹線に乗り込んでくるとは思わなかった。小川宏紀」
そう。”星下の誓い”の代表取締役社長にして、特級一歩手前の実力者――小川宏紀が居たのだ。
「ただの分身体でボロ雑巾にされたあの時のガキが、こうしてまた俺の所へ来るとはな。そんなに恋人を殺した俺が憎いか?」
「当然ですよ。藤堂信也」
そう言って、小川宏紀は詠唱する。
「【相対せよ。血を流し合う――】」
何の詠唱術式かを瞬時に悟った藤堂信也は、その詠唱を止めなかった。
代わりに甘いとばかりにニヤリと笑みを浮かべる。
「【――死の戦いをここに――《
直後、2人は何も無い異空間へと飛ばされた。
「なるほど。ここで……か」
そう言って、信也は亜空間内をぐるりと見回す。
「今日ここで――お前を殺す。魔滅会も、終わらせる」
宏紀は奥底に隠していた憎悪を露わにしながら、そう言って左手の薬指にはめられた、欠けた指輪を撫でる。
「……ふん。あれは不幸な事故だった。俺個人として、謝罪するのは吝かでは無い……が、反省するつもりはさらさらない」
「知りませんね。謝ろうが関係ない。絶対に殺す。何としても、絶対に……!」
そんな宏紀に、信也は嘲るような顔を見せた。
そしてそれが、宏紀の怒りをより一層深めていく。
「……だがな。お前では勝てない――絶対にな」
「ふぅ。私を甘く――見ない事ですねっ!」
「アホか。地力が違い過ぎるんだよ」
こうして2人は、衝突するのであった。
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