第三十三話 バイキング……大変だねぇ

「おお、そっちも丁度終わったのか」


 席へと戻ると、丁度同じく料理を取り終えたアルフィアとロボさんに遭遇した。

 皿を見てみると、2人とも全く違うものが乗っているのが見える。


「アルフィアは和食にしたのか」


「うむ。意図した訳では無いのじゃが、普通に取っていたら、これで一杯になってたのじゃ」


 俺の言葉に、アルフィアはそう言ってはにかみ笑いを浮かべた。

 朝食バイキングでよくあるご飯に味噌汁。そして焼き鮭などの副菜に、ヨーグルト。

 確かに一杯になるな。


「……で、ロボさんや。それは何だ?」


 そう言って、俺は問題のロボさんの持ってきた料理に視線を移す。

 そこには、皿一杯に乗せられた、子供が持っていきそうなチョコレートケーキ。

 マジでチョコレートケーキしかない。それ以外のものが、何1つ無い。

 すると、そんな俺の問いにロボさんが平然と答えて見せる。


「ハイ。コレガ、エネルギーホキュウニサイテキダト、オモイマシタ。タノシミデス」


「お、おう……そうか」


 幻術掛けてて、心から良かったなぁと思いつつ、俺はそう言って席に着いた。

 その後、全員が座った所で、俺たちは一斉に食事を始めた。


「……あー最高だ」


 まず初めにオレンジジュース。

 喉がいい感じに潤い、気分爽快だ。


「それじゃ、食べようか」


 そうしてまず手に付けたのは、唐揚げ&ソーセージ。

 食べてみると、唐揚げはカリッとした食感で、中には程よく肉汁が入ってて普通に良い。

 ソーセージはパキッといい感じの音がして食欲がそそられ、付け合わせのケチャップとマスタードとの相性が抜群。

 本当に美味かった。


「もぐもぐ……ん~美味しいっ!」


 横ではルルムが、口元にケチャップを付けながら、そう言って笑みを転がしていた。


「そうか。良かったな」


「むみゅ~~~」


 そんなルルムの口元を、俺はそっと紙ナプキンで拭いてあげる。

 すると、ルルムは目を細めながら、そんな声を漏らすのであった。


「……ふぅ。落ち着く味じゃのう」


 前方では、アルフィアが上品に味噌汁を口にしていた。

 ルルムとは対照的に、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 流石(?)は和食と言った所か。

 まあ、内心では随分とはしゃいでいるようだが。


「で、問題なのはまさかのロボさんときたか」


 微妙そうな顔をしながらそう言う俺の目線の先に居たのは、黙々とチョコケーキを喰らうロボさんの姿だった。

 あれ、逆再生したらロボさんがチョコケーキ製造マシーンにしか見えないな。

 そんな冗談をガチで思ってしまうぐらい、ロボさんは色々な意味でヤバかった。


「……ロボさん。次回から、せめて持ってくる量を減らしてくれ。エネルギーは魔石でなんとか出来るだろ?」


「……リョウカイシマシタ。マスター」


 そんな俺の忠告に対し、ロボさんは何故か1拍間を開けてから、頷くのであった。

 おい。今の間は何だ?

 何か含みがある様に見えてならないが……まあ、ロボさんに限ってそんな事は無いだろう。

 そう思い、俺は意識を切り替えると、引き続き食べ続けるのであった。

 そして食べ終わると、再び向こうへ食事を取りに向かう……のだが。


「……ロボさんや。それはなんだ?」


「シュガートーストデス。マスター」


 皿の上に山積みとなったシュガートーストを見て。

 俺は思わず、天を仰いだ。

 そして思う。

 地味にロボさんも、ルルムと同格レベルでヤバいのでは無いか……と。


「……ふぅ。色々あったが、美味かった美味かった」


 なるべく節度を保ったバイキングを心掛け、無事終えることの出来た俺たちは、一旦部屋に戻って来ていた。


「むみゅ~~~~~」


 ベッドの淵に俺は座り、そしてルルムはベッドに寝転がりながら、俺に膝枕されている。

 ただ、チェックアウトが10時までなので、そうのんびりもしていられない。


「皆。少ししたら行くよ。思いがけずやりたい事を昨日やれたし、弁当買ったら家に帰ろう」


「はーい! マスター!」


「うむ。了解なのじゃ、ご主人様よ」


「リョウカイシマシタ。マスター」


 こうして俺たちは、もう暫く休んだ後、部屋を後にするのであった。


 ◇ ◇ ◇


 浜松某所にて。

 青梨美鈴は、同じ”星下の誓い”所属の女性探索者たちと共に、街を出歩いていた。


「うん。色々買いましたね」


「だね~。それにしても、美玲が服を沢山買うって珍しいね?」


「だねだね。……あーもしかして、気になっている男でも居るの~?」


「そ、それは……い、居ないって!」


 おちょくる様に聞かれ、美鈴は少し言い澱みつつも、そう反論する。

 だが、それを彼女が見逃してくれる筈が無かった。


「おー? もしかして本当に気になっている人居るの?」


「もしかして……君を救ったっていうあの川品大翔って人?」


「うー……どうでもいいでしょ……?」


 2人に言い寄られ、美鈴は最早たじたじだ。


「……楽しそうな会話の所、邪魔して悪いな」


 そんな時だった。

 音も無く、1人の男が姿を現した。

 厳つい、ヤから始まる危険な人のように見えるガタイの良い男だ。

 その瞬間、3人は一斉に立ち止まると、1歩後ろへ退く。


「誰? 悪いけど、お誘いだったら御免――」


「待って!」


 男の正体を知らない1人が、強気にそのような事を言う――が、それに美玲が待ったを掛ける。


(なんで……なんで藤堂信也がここに……?)


 ”魔滅会”序列1位――”魔滅会”の最高戦力と言われており、特級探索者クラスで無ければ、文字通り戦いにすらならない相手。

 無論、第二級や第三級では、勝ち目など皆無。

 人の居る所まで、全速力で逃げるしかない。

 すると、その男――藤堂信也が口を開いた。


「じゃ――捕まってくれ」


 刹那、信也の姿がその場から掻き消えたかと思えば、次の瞬間には3人の背後を取っていた。


「嘘――」


「嘘じゃないぞ」


 そして、美玲へと手を伸ばした――次の瞬間。


「無駄だ」


「ちっ!」


 信也を上下に分断するように、黒い斬撃が走った。

 直後、信也の身体がまるで幻だったかのように消えていく。


「鈴木宗也……相変わらずだな。まあ、また会おう」


 そう言って、信也は消えてしまった。


「すみません。少し遅れてしまいました」


 宗也は手に持っていた漆黒の大鎌を下に降ろすと、何が起きたのか分からないと言った様子の3人に向かって、丁寧な謝罪をする。


「しゅ、首相!? な、なんであなたがここに……?」


「なに、野暮用ですよ」


 1人の問いに、宗也は紳士的な笑みを浮かべてそう言うと、くるりと踵を返した。


(本体はまだ浜松には居ないようですね。ですが、世界にすら影響を与える強力な精神干渉系幻術魔法――《偽神幻界ヤルダバオト》。本当に面倒ですね。幻である筈なのに、何故第一級探索者クラスの実力を持たせられるのか)


 だが、それほど強力な固有魔法を持つからこそ、藤堂信也はここまで生きてこれた。

 その事実に、宗也は小さく息を吐くのであった。


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1日置き更新から、2日置き更新になりそうです。


あと、もう1つお知らせを。


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前回に続き、異世界ファンタジーものです!


題名は、

【長閑な森(魔境)でのんびりとスローライフを送りたい~何としてもスローライフを送りたいので、困ったことがあったら力づくで解決しようと思います!~】

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https://kakuyomu.jp/works/16818093078494420429


読んでくださるとめちゃくちゃ喜びますので、どうかよろしくお願いいたします!

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