第三十一話 心配かけたな
「……ふぅ。こんな所か。大分動きが身体に馴染んだ」
暫く経ち。
俺は振り上げていた《
「はあ、はあ、はあ……お、お役に、立てたので、あれば……幸い、で、す……」
前方では、息絶え絶えとなっている宗也が、最後の力を振り絞るようにして言葉を紡ぐ。
これでも、大分宗也に合わせて手を抜いた方なのだがな。
まあ、途中少し夢中になってしまったが……うん。夢中になるのはいい事だからな。
何ら悪い事はしていない。
「ただ、あれじゃあ動くこともままなら無いな。【魔力よ、巡れ――《
そう言って、俺はぶっ倒れる宗也に魔法を行使した。
魔力を身体に巡らせ、体力を取り戻させる魔法。
俺の場合は、基本的に体力よりも魔力の方が先に尽きるせいで使う事はほとんど無いが、一応過去に必要だと思う時があった為、開発だけしてある。
「ありがとう、ございます」
すると、宗也はよろよろとしつつも、普通に立ち上がることが出来るようになるまで、体力が回復した。よろよろとしているのは、精神的な疲れだろう。
精神的な疲労までは、流石にこれで治せないからな。
「取りあえず、これで1つはやって貰った。なら、一旦は信用できると判断し、大反乱を鎮圧する。ただし、少しでも何か良からぬ事を考えようものなら……分かるよな?」
「はい、勿論です。私の命に賭けて、約束は必ず守ります」
俺の再三にわたる忠告に、宗也はそう言って深く頭を下げた。
自らの命が懸かっている以上、害する事は無いだろう。
だが、事が済んだら裏切って来る可能性も大いにある。
油断は絶対にしない。
「ならいい。【座標を繋げ――《
その後、俺は転移魔法を使い、ホテルへと戻った。
そして、自分の部屋の前でさっさと別れると、再び転移を使い、部屋へと戻る。
「マスター~~~~!!!」
すると、戻って早々ルルムによるタックルを頂戴してしまった。
俺は上手いこと衝撃を受け流しつつ、ルルムをぎゅっと抱き締めると、口を開く。
「すまん。心配かけたな?」
「みゅ~~~~~行かないで~~~~」
俺の謝罪に、ルルムはそう言って俺の腹に顔を埋めた。
一言も告げずに、急にいなくなったからな。
流石に悪いことしたなぁ……
「全く。ご主人様が動揺するものだから、何事かと思えば、急にいなくなりおって。流石に今回は、本当に心配したぞ。ご主人様よ……」
すると、今度はアルフィアがルルムの後ろから歩いてきたかと思えば、前から俺にそっと抱き着いてきた。そして、俺の耳元でそのような言葉を口にする。
ああ。皆からしてみれば、やっぱりそう見えるよな。
マジですまんわ。
「お前たちを置いて、逝くわけ無いだろ。ただ……心配かけたな」
そんな事を思いながら、俺はそう言うのであった。
◇ ◇ ◇
D・HAMAMATUホテルの最上階。
スイートルームにて。
「はあ、はあ、はあ、はあああぁぁ~~~~……め、めっちゃ怖かった。死ぬかと思った。めっちゃ怖かっためっちゃ怖かっためっちゃ怖かったぁ~~~~~~」
日本国総理大臣、鈴木宗也はそんな事を言いながら、ゴロゴロとベッドの上で転がる。
完全に子供だ。
完全に幼児退行している。
「死ぬかと思った。マジで。うっ……あの首掴まれた時がマジでヤバかった…心臓鷲掴みにされたかと思った……ショック死するかと思った……」
恐怖から解放されても尚、あの時の恐怖が次々とフラッシュバックしてくる。
完全に大翔がトラウマになっていた。
「でも、でも……何とか救われる」
そう言って、宗也は詠唱を紡ぎ始めた。
「【先見えぬ恐怖を終わらせたい。後悔なんてしたくない。抗え、抗え、抗え――】」
震える声音で、始まりの恐怖を思い出しながら。
「【――あるかもしれない破滅の未来を、あるかもしれない喪失の未来を、あるかもしれない悲劇の未来を。俺は回避する。未来を見通す、神の力――《
刹那、クリアとなる宗也の頭。
そして、宗也はそこから今後の未来を想起する。
「……ああ、無事だ」
見えて来るのは、何年経っても、何十年経っても変わらず生き続ける己の姿。
それは、大反乱を乗り越えられたことを意味する。
「……魔滅会を放置したら、どうなるかな?」
ふとそう言って。
宗也は、”魔滅会”を絶対に滅ぼさないと魂に誓う。
すると、未来が少しずつ変わっていき――
「……ああ、宏紀さんが死ぬ」
見えたのは、躱せたはずの1つの悲劇。
直ぐに宗也は今の考えを消す。
すると、未来は再びあるべき姿を取り戻した。
「……今のところは、大丈夫だ。ただ、未来は些細な事でも直ぐに変わる。頼む……変わらないでくれ」
そう言う宗也が脳裏に浮かべるのは、自身と同じ未来視系統の能力を持つ、”魔滅会”創設者の佐藤時光。
誰にも言ってはいないが、彼の行動だけは――読みづらい。
読めはするものの、変わる頻度が他の人と比べても異様に高い。
「まあ、これでも大翔さんよりマシだ……」
強すぎるが故に、未来視の影響をあまり受けない男を思いながら、宗也はそう言葉を漏らすのであった。
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