第三十話 決断

「弁明はあるか?」


 首を締め上げながら、俺はそう問いを投げかける。

 実行する気がないようなので、直ぐには殺さなかったが……裏を返せば、実行しようとしていた時があったという事になる。

 未来視が何なのか、使ったことが無い俺には分からない。

 だが、こいつに害意があった――それだけは、揺るぎない事実なのだ。


「……ありま、ぜん。貴方の気が済むので、あれば……殺していただいても、かまいま、せん。ただ、どうか……大反乱を、止め、て……」


 そんな俺に対し、宗也の返答はそれだった。

 自分の命を差し出してでも、大反乱を止めようとする思いは流石だな。

 ただ、全く響かな――


「……」


 響かな……い?

 ……ああ、まただ。

 また、害そうとしてきた人間への殺意が、失せてしまった。

 美月に続いて2回目だ。


「……ふざけるな」


 だが、あの時とは話が別だ。

 明確に狙って、害そうとしてきた!


「【脳裏へ。そして魂に刻まれし記憶を見せろ――《記憶の観察者メモリー・オブザーバー》】」


 そこで、俺は対人間用として開発した最新の魔法――《記憶の観察者メモリーオブザーバー》を発動させた。

 こいつの能力は、対象の記憶の観察。

 忘れ去られた物から、魔法等で消去したであろう物まで――文字通り全ての記憶を見る。


「……」


 見えるのは、ただひたすらに怯える宗也の姿。

 固有魔法を得る前も後も、ずっとずっと未来に怯え続けて。

 ただひたすらに破滅の未来を回避しようと、固有魔法を使い続けて。

 やっと見つけたと思ったら、それは圧倒的な絶望の始まりで。

 それでも諦められず、ひたすらに歩み続けて。

 そして――今に至る。

 こいつの半生を隅から隅まで知った俺は、暫し黙った後――宗也を地面に降ろした。

 そして言葉を紡ぐ。


「俺は人間が嫌いだ。何かあれば、絶滅させる事も辞さないと思っている」


「……ええ。存じております」


「だがな。お前らが積み重ねて来た文化など、消えて欲しくない物があるのも事実だ」


 美味い食事。

 科学と魔法の融合。

 そして、美玲の――


「だから、その大反乱とやらはこっちで処理しておく」


「ありがとうございます」


 俺の言葉に、宗也はそう言って深々と頭を下げた。

 ただ、安請け負いは出来ない。

 それをしようものなら、簡単に付け上がり、調子に乗る。

 それが人間だ。


「俺の事は秘匿にしろ。そして報酬金は……そっちに任せる」


 だからこそ、俺はここで報酬金の額を明確に言わなかった。

 さて、未来の1つを視たお前なら、半端な額は出せないだろう?


「で、あと大鎌を得物にしている探索者が居れば、紹介してくれ。技を盗みたい。以上だ」


 そう言って、俺は話を切った。

 すると、ずっと真面目そうな顔で話を聞いていた宗也が、おずおずと言ったようで口を開く。


「はい、承知しました。して、大鎌使いですが……一応私が、日本を代表する大鎌使いとなっております。最近は、公務のせいで徒手空拳の方が多いですけど」


「ほう」


 お、それは丁度いい。

 そう時間のかかるものでも無いし、早速見せて貰おう。


「分かった。なら、今すぐ見せてくれ。【亜空よ、開け】」


 そう言って、俺は《空間収納インベントリ》から《幻想級ファンタズマ・クラス》の大鎌を取り出すと、宗也に手渡した。

 そして自身は《創世級ジェネシス・クラス》の《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を取り出し、構える。


「はい。承知しました」


 突然の事だったものの、冷静に大鎌を構えた宗也は、後ろへ跳んで距離を取った。


「さて、じゃあ見せてくれ。その技――盗むから」


 そう言って。

 俺は踏み込むと、宗也に接近する。


「はっ!」


 それに対し、宗也は大鎌を引き寄せるように振るった。


「ほう」


 その大鎌は、丁度俺の首を後方から掻き斬るような軌道で振られていた。

 なるほど。避け難い。

 そう思いながら、俺はギリギリまで引き付けてから下へ屈むことで、その大鎌を躱して見せた。


「はっ!」


 そして、そこから《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を振り上げて見せた。

 当然力は大して込めていないが、それでも宗也の筋力を僅かに上回る程度には入れている。


「ふっ!」


 大鎌を振り切った直後――だが、宗也は右手はそのままに、すぐさま大鎌の鎌部分の根元に左手を添えると、振り上げられた《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を、大鎌の柄の部分で受け止めて見せた。


「はっ!」


 しゃがみながら振り上げれば、基本的に隙となってしまう。

 そこを狙うかのように、俺の一撃を受け止めた宗也は、右側から這うようにして俺に迫って来た。


「面白い」


 大鎌の技量は、俺よりも遥かに上。

 どんどん俺の中に、その技量が蓄積されていく。

 強くなれる。


「もっと、もっとだ」


 無意識の内に、俺はそう口走ると、少し力を込めて接近してきた宗也を右足で蹴り上げた。

 大鎌の方に当てたから、怪我はない筈。


「はっ!」


 蹴り上げ、引き離した隙に体勢を立て直した俺は、空中に居る宗也へ一気に近づき、大鎌を振るう。


「ぐうっ!」


 それに対し、宗也は大鎌を使ってこちらの大鎌を絡め取ると、そのまま大きく振りぬいて、俺を横に吹っ飛ばす。

 なるほど。そういう使い方もあるか……


「もっと。もっと……全部見せてくれ」


 もっと見せてくれ。

 もっと俺を、強くさせてくれ。

 そう思いながら、俺は宗也へ斬りかかるのであった。

 ……どういう訳か、さっきよりも絶望したような表情を宗也がしていたような気がするが、まあ気のせいだろう。

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