第二十八話 ホテルへ、GO

「はー満足なのじゃ。満足なのじゃ」


「美味しかった~~~~! マスター~~~~」


「エネルギー……ビカイフク」


 醤油ラーメンを食べ、店を出た3人は、実に満足げな(1人だけ分からん)表情をしながら、三者三様に今の思いを口にする。

 勿論今も《幻術ファントム》を発動させている為、周りからは人畜無害な通行人にしか見えないだろう。


「ああ、そうだな。美味しかった」


 あのどこか癖になるスープと、それがよく絡んだ麺。

 本当に美味しくて、替え玉を頼んでしまう程だったよ。

 まあ、流石に2杯目で止めたけどね。

 散財は、出来そうで出来ないのが、今の俺なんだ。


「さてと。本来であればもう夜だし、さっさと拠点に戻るところではあるが……今日はさっきも言った通り、ホテルで寝よう」


 ホテル……俺とは一切縁の無い場所ではあったが、今の俺は自由だ。

 故に今回は、いつもと同じように純粋な好奇心で、ホテルに泊まってみようと思う。

 無論、折角なのだから、それなりにいい場所でな。

 ここは今でも浜松市の中心な訳だし、ダンジョンが出来た今なら、あの頃以上にある筈だ――と言うか、ある。


「ふむ……ここでの家みたいなとこかの? まあ、妾は良いと思うぞ」


「ルルムは、マスターの言う事にぜ~んぶさんせ~い!」


「リョウカイシマシタ。マスター」


 俺の言葉に、アルフィアは腕を組みながら頷き、ルルムは俺の周りをくるくると回りながら、無邪気に笑う。

 そしてロボさんは、相も変わらず、全く変わらない言葉でそう言った。


「ああ。それじゃ、行こうか」


 そう言って、俺は《記憶回帰メモリーレコード》を頼りに、以前ネカフェで見たいくらかあるホテルの中から、そこそこ上位に食い込むレベルのホテルの場所を探し当てると、そこへと向かって一直線に向かうのであった。


「……ここか。デカいなぁ」


 やがて到着したのは、昔も見たようなデカいホテルだった。

 D・HAMAMATUホテルという名前らしい。

 高さは……窓の数的に、10階建てと見た。


「じゃ、入るか」


 そう言って、俺はホテルの中へと入る。

 そうしてホテルの中に入った俺は、受付へと向かうと、声を掛けた。


「部屋は空いてますか?」


「はい。ええと……スイートルーム以外でしたら、空いております」


「そうか。なら、ツインルームで頼む」


「かしこまりました。では……」


 その後、俺はホテルについての説明をされたり、朝食バイキング等について聞かれたりなど、色々と必要な話をした後、万単位の金を払ってカード型のルームキーを受け取った。


「じゃあ、行こうか」


「了解なのじゃ」


「は~い。マスター!」


「リョウカイシマシタ」


 こうして俺は、どこか内心浮かれつつも、皆と共にエレベーターに乗り込むと、6階まで上がった。そして、そこで降りると、自分の部屋があるところまで、左右にある客室の扉を交互に見ながら、歩いて行った。


「……お、ここか」


 歩いていると、やがて目につくドアに書かれた4桁の番号。


「6033、6033……うん。同じだな」


 部屋番号が正しいか確認した俺はそう言って、ドアノブ部分にルームキーをかざす。

 すると、ガチャリと開錠音が聞こえて来た。


「開いたっぽいな。それじゃ、入るか」


 そう言って、俺はドアノブに手を掛けると、前に押して開け、中へと入る。


「おー……想像通りって感じだな」


 入って直ぐの所に見えるクローゼット。その横にあるドアの中は……風呂場、トイレ、洗面所か。

 そして、奥に見えるのは2つのベッド。その2つの間には隙間があり、スタンド型の証明やコンセントが見える。


「ふむ……家と根本的には似ておるのぅ。新鮮味があって、悪くないの」


 周囲を見回しながら、俺の後に続いて奥へと向かうアルフィアは、そう言って笑みを浮かべた。


「わふぅ! ごろごろ~~~」


 一方ルルムは、手前側にあったベッドに飛び乗ると、ごろごろと子供みたいに転がる。

 地味に今の、怖かったな。

 もしルルムが調子に乗って力を入れていたら、飛び乗った瞬間、余裕で1階までぶち抜いていただろうな。

 普通にひやひやさせてくれる。

 因みにロボさんは無言だった。


「さてと。明日の朝食は、このホテルでバイキングを食べる」


「バイキング~? あ、ルルム知ってる!」


 すると、この言葉に何故かルルムが反応した。

 知ってるとはどういう事かと訝しんでいると、ルルムが元気よくその答えを告げる。


「確か、海って場所で、物を奪う人間の事でしょ~? それって、美味しいの~?」


「いや、それはヴァイキングだ。あと、それは絶対美味くない。あと、なんで俺がいつ言ったか覚えていないようなものに限って、覚えているんだよ」


 ルルムのツッコミどころ満載の言葉に、俺はお望み通りツッコミまくった。

 まあ……ルルムはやっぱりルルムだったな。

 その事に、俺は深くため息を吐くのであった。


 ◇ ◇ ◇


 D・HAMAMATUホテルの最上階、スイートルームにて。


「……という訳で、近い内にまた”魔滅会”が攻めて来ると思う。狙いはいつも通り、師匠か、宏紀さんかな。ルートは、まだ決まっていないようで、コロコロ変わってるよ」


「そうかい。なら、決まった所で連絡するんだね」


「ああ、分かってるよ。師匠」


 久保怜華――【災禍の魔女】とのビデオ通話を切った日本国総理大臣、鈴木宗也は椅子へ深く座り込むと、深く息を吐いた。


「はーあ。迫ってるなぁ……だけど、やるしかない。その為にも、”魔滅会”には上2人を残して死んで貰わないと」


 そう言って、宗也は立ち上がる。


「……そして、ダンジョンの大反乱の対処……嫌だなぁ。小心者の俺には……固有魔法ウーラニアーがある俺には、確実に勝てる行動しか出来ないんだよ。はぁ……だから師匠に、ぼんくらって言われるんだ」


 だけど――いや、だからこそ、をここで打っておかなくてはならない。


「……行こうか。何度か、日本を滅ぼしたの下へ」


 そう言って。

 宗也は1人、部屋を後にするのであった。

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