第二十七話 ラーメン……美味いぞ
「……そろそろ離れてくれんかの?」
「ああ、分かった」
あれから暫しアルフィアを抱き続けたところで、冷静になったアルフィアからそう言われてしまった俺は、素直にすっと引き下がる。
「マスター~~~!」
「はいはい」
そして、背後に居たルルムを抱き上げ、肩車してやった。
俺に肩車され、きゃっきゃと笑みを転ばすルルムに、俺自身もつられて小さく笑みを浮かべる。
「……さてと。ダンジョン探索をそれなりに進め、《
「ほう、食事か。美味い食事が食えるのか?」
俺の言葉に、真っ先に反応するのは、いつの間にか美食の虜となってしまったアルフィア。
「美味しい~~~? ルルムも、”美味しい”食べたい!」
続いてルルムも、そう言って足をバタバタとさせる。
並のドラゴンなら、一撃でぶち抜けそうなキックが両肩を直撃する中、俺はルルムの足を優しく掴んで止めさせると、口を開く。
「ああ。という訳で、早速行こうか。今は夕方だろうし、飯食ったら……興味あるし、ホテルで寝るか。で、明日の事は後で決める」
俺は脳をフル回転させ、予定を瞬時に立てると、魔法を唱える。
「【誰も真実を見破れない。無窮の幻をここに――《
まず、俺は幻術魔法を用いて、自分を含む4人の姿形を変えた。
隠密性という点を見れば、以前使った《
だから、色々と融通の利くこっちを選んだという訳だ。
何度か地上へ行き、これでもバレる事は無いというのは確認済み――故にそこも無問題。
「では、【座標を繋げ――《
そして転移魔法を使い、俺たちは地上へと飛ぶのであった。
「よっと。それで、どこ行くか……?」
さりげなく街中へ転移した俺たちは、そこからのんびりと人の流れに沿うようにして歩き、良さそうな飲食店が無いかを探す事にした。
「ふーむ。”美味しい食事”の匂いがあちらこちらからするのう!」
「ん~~~美味しい食事っ!」
「……」
あり得んぐらいキョロキョロするアルフィアに、浮かれて暴走機関車になりかけているルルム。そして、謎に無言のロボさん。
俺はそんな3人の手綱を上手いこと引きながら、飲食店を探しまくる。
「んー……お、ここでいいか?」
やがて、俺が足を止めたのは、それなりに見かけるラーメンチェーン店だった。
ラーメン岡山家とか言う、これまたどこかで見た事があるような、無いような……そんな感じ。
まあ、深く考えるのは止そう。
「うむ。確かに美味しい匂いが漂って来るのう」
「うん! マスター!」
「リョウカイシマシタ。イロンハ、アリマセン。マスター」
皆、美味しければぶっちゃけ何でもいいというスタンスからか、反対の声が上がることは無かった。
そうして満場一致で決まった店に、俺は夕食にしては少し早い時間帯かなと思いつつも、中に入る。
「何名様ですか?」
「4人だ」
「では、ご案内いたします」
店に入り、よくある受け答えをした俺は、4人掛けのテーブル席に案内された。
俺とルルム、アルフィアとロボさんという組み合わせで座った俺は、お冷で喉を潤しながら、メニュー表を眺める。
「ふむ……俺は醤油ラーメンのチャーシュー追加にしよう。そっちはどうする?」
「うーむ……どうすると言われても、妾たちはよく分からぬ。この料理は食べた事が無いからのう」
「まあ、だろうな……」
なら、普通に俺と同じものでいいかと思った俺は、店員を呼ぶと、醤油ラーメンのチャーシュー追加を4人前頼んだ。
すると、ほとんど待つことなく、ほぼ同時に4人分のラーメンが運ばれてくる。
「醤油ラーメンのチャーシュー追加が4つです。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい」
俺はそう言うと、眼前にある醤油ラーメンに目をやった。
コシのありそうな麺に、シャキシャキのもやし。少し独特な食感を持つメンマに、多く乗ったチャーシュー。
実に美味そうだ。
だが、ここで早まってはいけない。
俺は鋼の意思の下、素早くルルムの方に視線を向けると、口を開いた。
「ルルム。普通に箸でこう取って、食べるんだ。食べていいのは、ここだけだからな? 食べる時は、すする感じで」
「ずずず……うん! 美味しい」
「そうか~。良かったな。そうそう。その調子で、上手いこと食べてくれ」
俺は必死にルルムへラーメンの食べ方をレクチャーしてやった。
そのかいあってか、何とか普通に食べてくれている。
良かった良かった。
その様子を見て、思わず安堵の息を漏らした俺は、ようやく自分の分にありつく。
「ずずず……ん! 久々に食ったが、美味いな」
スープと麺が良く絡んでて、いいなぁ。
その後、俺は直ぐにラーメンのスープを飲む。
ラーメンのスープは、謎にほんの少しだけ残して全て飲み干すタイプなんだよなぁ……俺。
ああ……ちょっと昔を思い出す。
まあ、スーパーで買った安いスープに安い麺で作ったあれとでは、天と地ほどの差が、あるだろうけどな。
……止めよう。昔はもう、いいや。
ずっと蓋してたあの頃の記憶は、あまり開きたくないんだ。
そう思った俺はさっさと忘れると、醤油ラーメンを引き続き食すのであった。
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