第二十六話 作戦かーいぎ

 長野県某所にて。


「……知っての通り、翼と義文が殺された」


 ”魔滅会”の幹部が一堂に会するそこで、幹部序列1位――藤堂信也が、その重い口を開いてそう言った。


「責任、どうするんですか~。これ、信也あなたが主導したものですよね~?」


 信也の言葉に、不満の空気が漂い出す中、そんな彼らの言葉を代弁するかのように、序列5位の橋本奈美恵がそんな言葉を口にする。

 それに対し、信也はギロリと奈美恵を一瞥すると、ただ一言紡いだ。


「渋谷の交差点……」


「全部こいつに言えって言われました~」


 刹那、奈美恵は神速の対応で、横に居る序列4位、東雲和樹に全責任を押し付ける。


「え、ちょ、それは無いだろ! いつもいつも、責任転嫁するのはやめろ!」


「何言ってんの? 死にたいの?」


「お前がな!」


 それに対し、和樹は狼狽したように声を上げると、そのまま奈美恵と口論に発展する。


「お前ら、静かにしろ。これ以上やるようなら、2人セットで送ってやるぞ。渋谷の交差点にな」


「「なんでもありません。すみませんでした!」」


 信也のヤから始まる危ない人並みの眼光が2人を貫いたかと思えば、次の瞬間には2人は揃って頭を下げ、全力の謝罪を行っていた。

 何という団結力。

 何という統率力。

 流石は、100年近くも続く歴史あるテロ組織だ。

 すると、ここで信也が次の事に付いて話を始めた。


「だが……まあ、完璧な失敗という訳では無い。あいつらはあいつらで、最低限やって欲しい事はやってくれた。ただ、創設者様曰く、もう時間が無いらしいからな……よし。お前ら全員、突貫して来い。行く場所は、俺がサイコロ振って決めるから」


「「「……は? 頭大丈夫?」」」


 信也の耳を疑うような言葉に、残る幹部3人は口を揃えてそう言うのであった。

 尚、この後魔滅会の構成員の前で、アソパソマソ体操を踊る3人組が、居たとか居なかったとか……


 ――――その日の夜。


「……俺、なんか変な夢を見ていたような気がするんだけど、気のせいだと思う?」


「バカバカバカ。それ以上話をしないでっ!」


 もうどうにでもな~れとでも言いたげな表情をしながら、そんな事を宣う和樹に、奈美恵はそう言って和樹の頭をぶっ叩く。


「へぶう!」


 結果、和樹の頭はギャグ漫画の様に、木製の床にメリメリッとメリ込んだ。


「いてぇ……このクソ筋肉馬鹿が……箱入り娘(物理)にしてやろうか?」


 そう言って、床から顔を引き抜く和樹。

 それに対し、奈美恵はふんと鼻を鳴らすと、口を開いた。


「か弱い女の子にそんな事言うとか、サイテーね」


「お前で弱かったら、世間一般の女は何なんだよ……」


「興味ないから、知らないわ」


「ああ言えば、こう言う……」


 レスバ強者の奈美恵とレスバ弱者の和樹――言い合いでどちらが勝つかなど、火を見るよりも明らかであった。

 すると、ずっと蚊帳の外に居た2人よりも1つ上の世代――30代後半程の男、栗林俊介が口を開く。


「仲良いねぇ……2人共」


「「良くない!」」


 俊介の言葉に、2人は口を揃えて、全く同じ言葉で否定する。

 それを見て、俊介は内心「ハモってるなぁ……」と思いつつも、それを口に出した瞬間に2人からタコ殴りにされると思い、口を噤んだ。

 そして、話題を全力で逸らす。


「それで、今回の雑な突貫命令。どう思う?」


 その言葉に、2人は急に静かになると、言葉を紡いだ。


「多分、首相の《未来占知ウーラニアー》が、先の工作で想像以上に精度が高くて、計画を立てる意味が無くなったのだと思う。だからサイコロを使い、少しでも《未来占知ウーラニアー》を出し抜ければ……と考えたのでは無いか?」


「多分、あの2人が最低限やって欲しかったことってのも、《未来占知ウーラニアー》の精度を知る……って意味だったんだろうね」


 2人の予想は、正しい。

 何故なら2人はまだ、信也のもう1つの固有魔法を、知らないから。

 そして、それを知る数少ない人間の1人――俊介は、小さく息を吐くと、口を開く。


「まあ、どうでもいいんだけどね……俺はただ、弱者を殺すだけ殺せれば、満足だから」


 そう言って、”弱者を蹂躙する事”に快楽を覚えてしまった狂人――俊介は、ぞっとするような笑みを浮かべるのであった。


 ◇ ◇ ◇


「……という訳で、”契り”を結んだあの3人全員が”敵”によって殺されてもらえば、丁度あの魔法を発動できるだけの魔力と生命力が、貯まる事でしょう」


 ベッドに横たわる時光に、信也はそのような報告をする。

 それに対し、時光は弱々しく頷くと、口を開いた。


「分かった。じゃが、絶対に”使う”と思ってはならぬぞ。あくまで、”使えるようになる”……と思うだけじゃ。でなければ、宗也に感づかれてしまう」


「分かってます。その徹底はしておりますし、脳手術で脳を弄っていますから、考えたくても考えられません」


 時光の忠告に、信也は安心させるようにそう答えた。


「では、そろそろ行きます」


「……ああ。若いのに任せて、すまんな」


「もう、若くありませんよ。あれから、93年経ったんですよ? 世間的には、もう立派な老人です。まあ、貴方は天元突破してますが」


「……そうじゃな」


 そうして、信也は病室を後にするのであった。

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