第二十一話 時空神の大鎌

「む? 何か不自然な事でもあったのか?」


 思わず声を零した俺に、アルフィアが不思議そうにそう問いかけて来た。

 そんなアルフィアの言葉に、俺は小さく頷くと、口を開く。


「ああ。どうやら、ここに来て新しい等級……恐らく《神話級ミソロジー・クラス》の1つ上の等級である、《創世級ジェネシス・クラス》が出て来たんだ」


「ほう……確か、《神話級ミソロジー・クラス》を初めて見たのは、妾どころかロボさんと出会う前じゃろう? という事は、新しい等級を見るのは実に約150年ぶりという事になるかの?」


「だな。流石に、相当昔だ」


 そう言って、俺は視線を漆黒の大鎌の方に戻すと、《鑑定アナライズ》でより詳しい所も見る。


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【名前】時空神の大鎌クロノス・デスサイズ

【等級】創世級ジェネシス・クラス

・その斬撃は、距離を無視する。

・魔力を消費する事で、過去や未来に斬撃を飛ばす事が出来る。

・装備時は常に筋力、防護、俊敏が3倍になる。

・8時間に1回、時空神の加護クロノス・ブレスを発動できる。

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「わぁー……強い」


 あの《神話級ミソロジー・クラス》の、更に上の等級という事もあってか、効果は中々にヤバかった。

 見た感じ、空間属性系の魔法を容易く使えるようになるのと、純粋な身体能力の強化。そして……最後のだけは、よく分からんな。

 まあ、多分凄いやつだ。


「まあ、折角手に入ったし、あまり慣れてないけど使ってみるか」


 そう言って、俺は《世界を侵す呪剣ワールド・ビオレーション》及び4本の《浮遊する聖剣フローティング・エクスカリバー》を《空間収納インベントリ》にしまうと、代わりに《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を手に取り、構えた。

 基本的に、俺はほぼ全ての武器を使う事が出来る。使い慣れていないっていう小さな理由で、強力な武器を使わないなんて選択肢を取っていれば、とうの昔に死んでいただろうからな。

 まあ、それでもやっぱり向き不向きは多少なりとも出て来てしまうが……


「マスター! それが新しい武器~~~~?」


「ああ、そうだ。強力そうだから、早速使ってみようかと思ってね」


「えへへ~~~~~」


 無邪気に問いかけて来たルルムに、俺はルルムの頭を優しく撫でながらそう言った。


「「「「グガアアアァ!!!!!」」」」


 すると、やがてダンジョンの壁から産み出される魔物ども。

 ああ、もう次の奴らが出て来てしまったか。


「まあ、丁度いい。邪魔してきそうな奴が居たら、上手い事処理しといてくれ」


「うむ。分かったのじゃ」


「は~~~~い!」


「リョウカイシマシタ」


 俺は皆に細かい事は任せると、《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を構えた。


「確か、距離を無視するんだったな……はあっ!」


 使い方は、まだあまり分からない。だが、解析結果から、何となくは分かる。

 俺は魔物どもを見据えると、奴らを斬るようなイメージをしながら、その場で《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を横なぎに振るった。


 ザン!


「「グギャアッ!!」」


 すると、両手に手応えを感じたのと同時に、前方から斬撃音と魔物の断末魔が聞こえて来た。

 見れば、そこには胴を両断され、地面へと崩れ落ちる2体のエンシェント・オークの姿が確認できる。


「なるほど。本当に距離を無視できるんだな。……はあっ!」


 その後、俺は続けざまに《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を振り上げた。すると、今度は3体の魔物が、地へと崩れ落ちて行く。


「魔力の消費は……一応あるが、非常に軽微といった所か」


 この程度なら、適当に魔物を殺して、魔石を喰らうだけでも事足りる。実質ゼロと言っていいだろう。

 また、身体能力も解析結果通り、《世界を侵す呪剣ワールド・ビオレーション》と同じく、3倍となっているのが確認できた。


「よし。残るは2つ……取りあえず先に、《時空神の加護クロノス・ブレス》を使ってみるか」


 解析しても、名前以上の事は分からなかったこれを、俺は取りあえず発動してみる。


「起動――《時空神の加護クロノス・ブレス》」


 直後、俺の身体を包み込む銀の光。

 俺は自分の身に何が起こっているのかを、あらゆる能力を駆使して調べ上げていく。


「……なるほど。時空系の干渉を受けなくなるのか。そして、俺自身の時空干渉能力を上げる……か。はっ!」


 そう言って、試しに《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を振ってみれば、先ほどよりも楽に魔物どもを殺すことが出来た。

 それで、肝心の効果時間は……この感じからして、30分ほどといった所か。


「じゃ、最後に過去や未来に斬撃を飛ばす……か。ほれっ!」


 何となく、どういうものなのかは分かる。

 そう重いながら《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》を横なぎに振るう。

 すると――


「……ほう。こうなるのか」


 そこには、つい先ほどまで生きていた魔物が、いつの間にか骸となって倒れていたのだ。

 む? 思えば、10秒ほど前に勝手に血を噴き出して倒れたような気がするな……

 なるほど。過去を変える事で、俺自身の記憶をも変えられるという事か。


「魔力消費は思ったより少ないが、それでもそれなりには使う……か。で、次は未来だな」


 そう言って、俺は続けて未来へと斬撃を飛ばす。


「グアアァ!!!!」


 すると、残る1体の魔物が、俺目掛けてそれなりの速度で突撃してきた。

 それを、俺はアルフィアたちを手で制しながら、じっと見つめる。

 やがて、残り1メートルの所まで迫り、魔物が獲物を見つけたかのような目をしながら、腕を振り上げた――次の瞬間。


 ザン!


「がっ……」


 何の前触れも無く、斬撃が魔物の首に走った。

 魔物は、何が起きたのかも分からぬまま、頭と胴が泣き別れとなって、地面へと崩れ落ちて行く。


「中々今のは……面白いな」


 魔物の動きを読み、その先に斬撃を仕掛ける。

 そんな、中々芸術点の高い、漫画のような技に、俺はダンジョン最前線であるにも関わらず、口角が上がってしまうのであった。

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