第十八話 謝罪は誠意を持ってやろう
「すー……ルルム。これ、アルフィア?」
「うん!」
「……気配が異なるけど、それでもアルフィア?」
「それでもうん!」
「……ガチで、アルフィア?」
「ガチでうん!」
三度の問答――そして、確定する――してしまった真実。
ついさっき氷漬けにしたドラゴンは、アルフィアであった……と。
俺は思わず背筋が凍るような思いに陥りながらも、そうだと確定すれば即座に行動へと移す。
「【解除】!」
俺は即座に魔法を唱え、氷を消滅させていく。
すると、やがて中で凍って動けなくなっていたドラゴン――いや、アルフィアがのっそりと俺の方に顔を向けた。
直後、それは繭に包まれ、そして小さくなり――中から、いつものアルフィアが怒り心頭といった様子で現れる。
腕を組み、赤いオーラとなって全身を薄く包んでいるのではないかと思わせるほどの怒気。
ああ、ヤバい。これ、完全に怒ってる……
「アルフィア、違うんだ。決して、悪意などは無く、ただ間違えて氷漬けにしてしまっただけで……」
「のう? ご主人様。確かに気配すらも変わる、新しいスキルを報告せずに使った妾にも落ち度はある。じゃがのう……それでも、限度ってものがあるじゃろ? それに、お主なら注視すれば気づくじゃろ? のう? あと、妾が一般的なドラゴン故、氷結に弱い事……知っとるかのう?」
「すまん。マジで……すまん」
ゴゴゴゴゴ……と効果音が聞こえてきそうな状況下。
俺は本能でじりじりと後退りながら、続けて謝る。
「妾、最近扱いが酷くないかの? 食事はしょっちゅう遅れるし。この前は食事買い忘れるし。今日に至っては、氷漬けにされるし。のう?」
「……すいません」
「何か、申し開きはあるかの?」
「ないです」
どうしようか。細かい事の積み重ねも相まって、えげつない事になっている。
俺の事なら、何でも全肯定なルルム、ロボさんとは違い、アルフィアは普通に詰めて来る。
だがそれでも、ここまで怒るのは何気に初めてな気がするな……
仕方ない。ここはとっておきで何とかするしかないか。
「……アルフィア。これを……【開け】」
そう言って、俺が《
蓋をパカッと開ければ、そこからいい匂いが漂って来る。
「ささ、これでどうか」
結局、今のアルフィアに一番有効なのは――食だ。
美味い食べ物こそが、アルフィアが今最も求めているものなのだ!
……因みに、昔は俺との闘争だった。
すると、アルフィアはピクピクと鼻を鳴らし、頬を緩める――が、直ぐにプイとそっっぽを向くと、口を開く。
「ふん。食事で許して貰おうとは、浅はかにも程がある!」
そう言って、ふんと鼻を鳴らすアルフィア。
「……どうぞ」
そこに、俺は追加でチーズピザを添える。
「……そ、それでも……」
「どうぞ」
だが、それでもまだそっぽを向いたまま。
ならばと、俺は次にコーラを添える。
「……妾は、許しておらぬからな……もぐもぐ……」
すると、アルフィアはそんな事を言いながら、八等分にされてあるマルゲリータを一切れ手に取り、食べ始めた。
「お願い。次から気を付けるから」
「許さぬから……もぐもぐ……美味いのじゃ……」
段々とご満悦な表情へと変わっていくアルフィアに、俺は更に許しを請う。
「ほら、美味しいだろう? な?」
「うむ。美味しいのじゃ……うむ。美味しいのじゃ……」
遂に普段の表情へと戻ったアルフィアは、もぐもぐとピザを食べ続ける。
そして、合間合間にコーラを飲み、喉を潤す。
一方俺は、「俺も食べたいなぁ……」と思いながらも、必死に飯テロをするアルフィアからの誘惑に抗い続ける。
やがて、全て完食したアルフィアが、不本意だとでも言いたげな表情で、言葉を紡いだ。
「まあ、仕方なく今日はこれに免じて許してやろう。じゃが、次は無いからな? 絶対に、無いからな?」
「ああ。勿論だ。絶対に、魔法で氷漬けになんかしない」
そんなアルフィアの言葉に、俺はそう言って頷くのであった。
「……そ、それで、新しいスキルを習得したようだが、どのようなスキルなんだ?」
ひと段落が付いた所で、俺はアルフィアにそう問いかけた。
すると、アルフィアは「うむ」と頷いた後、説明を始める。
「妾が新たに習得したスキルは《龍神化》……まあ、分かりやすく言えば強化系のスキルじゃ。ただ、1つ違うのは”力”、”速度”、”防護”のどれか3種類に任意で特化できるようになっておる所じゃ。そして、それぞれに応じた姿形に変化する。じゃが、まだ細かい所は分からぬから、要検証じゃな」
「なるほど。デメリットが分からないせいで、まだ何とも言えないが……悪くはなさそうだな」
強化系のスキルは、単純な分、純粋に強い傾向にある。
ただ例外として、俺の《
まあ、デメリットがあればその分もっと強力だと予想できるから、結局強いねってなる。
「まあ、それは追々やっていくとして……ルルム。飯、食おうか」
「うん! やったー!」
その後、俺は長らく蚊帳の外となり、飯も食べられないでいたルルムに内心謝罪しながら、そう言うのであった。
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