第十六話 ”魔滅会”創設者
時は少し、遡る。
「……遅いですね。もう、終わってしまいましたよ」
ここはダンジョン第33階層最奥。
そこで、鈴木宗也は”魔滅会”とその下部組織で構成された部隊の屍の上で、敵から奪った通信機を手に持ちながら、そんな言葉を落とす。
「私が居るんだから、当たり前だろうに」
すると、転移魔法によって現れる久保怜華。
彼女の右手には、1人の男の首が下げられていた。
「ありがと、師匠! お陰で助かったよ」
宗也は首相となって以降、人前で見せる事がほとんど無くなった本来の笑みを浮かべながらそう言うと、怜華から首を受け取る。
「……”魔滅会”幹部、序列三位。
「油断するんじゃないよ。30年前と50年前にも同じように追い詰めたけど、ゴキブリみたいにしぶとく生き残り、勢力を盛り返してくる。……全く。面倒ったら、ありゃしない。それに、まだ私の代から生きる創設者のクソ爺と、恥辱趣味の序列一位が残っている」
「分かってるよ、師匠。あの2人を潰さないと、根本的な解決にはならないと」
怜華の経験則が多分に含まれた忠告に、宗也はそう言って頷くと、屍の上から降り立った。
「さてと。それにしても、奴らは一体何を企んでいるんだと思う? 師匠」
「阿呆、ぼんくら。既に分かっているだろう? 確かに向こうにも未来視持ちは居るが、お前さんの方が遥かに上だ」
「まあね。何度未来を視ても、奴らの目的は一貫して”ダンジョンの完全破壊”だった」
「相変わらず、傍迷惑な奴らだねぇ……」
宗也の言葉に、怜華はそう言ってため息を吐いた。
(……だが、気持ちは分からなくも無い)
この時、宗也はそのような事を思っていた。
宗也は、彼らが――正確には、”魔滅会”の創設者が何を恐れて、このような事をしているのか、分かっているのだ。
そしてそれは、自分自身が首相になった理由でもある。
(ダンジョンから出て来て、この日本を滅ぼす”ナニカ”、か。どうやら創設者さえも、その存在の正体が掴めていないようだ)
今までの行動から、宗也はそう判断する。
だからこそ、宗也は分かっていた。”魔滅会”のやり方では、意味が無いと――
(300年前。世界を半壊させ、文明を後退までさせたダンジョンの大反乱。それが間もなく、訪れる。それも、前回以上の質と量で。レベルは最高600台――だが、抗わねば……何としても……!)
そして、宗也は怜華と共に、その場を後にするのであった。
◇ ◇ ◇
「……そうか。義文と翼が死んだか」
ヤから始まる危なさそうな人……に見えるでお馴染みの男……”魔滅会”幹部、序列一位の
そんな彼の眼前にあるベッドには、1人の老人が寝込んでいた。
その老人は、しゃがれた声で言葉を紡ぐ。
「ああ。宏紀、宗也、怜華によってな」
その年老いた男は、そう言って枯れ枝のような手を伸ばし……そして、降ろす。
「彼らの未来が、見えなくなったからねぇ……」
「老公。これ以上は、お身体に障ります。どうか、休んでください」
信也は、らしくない言葉遣いをしながら、そう言って老人を労わる。
それに対し、老人は小さく首を振ると、言葉を紡いだ。
「駄目じゃ。これは、儂が始めた事……儂が……な」
そう――この老人が、始まりだ。
”魔滅会”創設者――
そして、そんな彼の目指している事を知るのは、【災禍の魔女】とはまた違う方法で老いを遅らせている、創設時には新人であった信也と、聞き耳が好きな翼だけだった。
「……話した方が、良いかのぅ……」
「駄目ですよ。彼らは結局、社会に反したいから――善人を害したいから、従っているのです。言えば、反発は免れません」
時光の言葉足らずな発言の意図を正確にくみ取った信也は、即座にそう言って首を横に振る。
「そうか……この歳になって、騙して悪いなぁと思えて来る……」
「別に、悪人だからいいと思いますけどね。まあ、俺が言えた事でもありませんが……」
「はぁ……じゃが、今回のでようやく分かった。どうやら宗也の固有魔法、《
「……そうですか」
時光の言葉に、信也はそう言って目尻を下げた。
返す言葉が、出てこない。
当然だ。それだけ時光の能力は”絶対的”だったのだから――
「……そう、暗い顔をするな。さて、儂はそろそろ寝る。夕食の時間になったら、起こしてくれ」
「……分かりました」
そう言って、信也は病室を後にするのであった。
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次から再び主人公視点に戻ります。
今回まで続いた地上回、結構色々情報出したなぁ……
あ、フォローや★★★をつけていない方は、この機会にでもどうぞ!
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