第十三話 原因発見!

 爆発四散する器具の破片。


「【守れ】」


 それらから部屋を守るべく、俺は即座に器具の欠片を包み込むように球状の結界を展開する事で、完璧に防いで見せた。


「危なかった。……それで今のは、何が原因だ?」


 脳内に入れた参考書に書かれている注意事項は全て守った。

 となると、どこかが根本的に間違っているということになる。


「ふーむ。応用に走らないで、マジで初歩からやってみるか」


 そう言うと、俺は器具の破片を片付けた後、ロボさんに参考書に書かれているものと全く同じ材料で再び器具を作って貰った。

 そして、再挑戦する。

 だが……


 パアアアアン!!!!


 再び破裂してしまった。しかも今回は、さっきよりも早くに……だ。


「ええ……となると、本当に何が原因なんだ?」


 もしかして、参考書が間違ってるとか?

 いやでも、3冊全ての参考書に間違った事が――しかもこんな簡単にやれそうな事で間違った内容が記載されるのは、普通に考えてあり得ない。

 俺は不思議に思い、悩み続ける。

 すると、ロボさんが唐突に言葉を発した。


「オクラレタキグノデータヲミテ、ワカッタノデスガ、オソラクマリョクヲコメスギテイルカラダト、オモイマス」


「……ああ、なるほど」


 確かに俺と地上の人間たちとの間には、実力に圧倒的な齟齬がある。

 なら、人間側でいう所の”少量”と俺でいう所の”少量”が異なっていても、何ら不思議なことでは無い。

 俺は、それは盲点だったとロボさんを褒め称えると、器具を再び作り直してもらった後、再挑戦――いや、再々挑戦する。

 今度はとにかく魔力を少なめに、だ。


「……おおっ?」


 すると、参考書にも書かれている通り、管の先から魔石と同じような色をした煙が薄っすらと出て来た。そして、その煙が消えた頃、そこからポタポタと滴る暗紫色の液体。

 ビーカーに1滴ずつ零れ落ちていくそれを見て、俺は思わず拳を軽く握った。


「よし。成功だな」


 何もかも参考書通りの、実用化には程遠いものではあるが、何と言うか……達成感というものが感じられる。

 そして、同時にこうも思った。

 やはり、ただ知識として頭に入れるだけでは意味が無い。適切にそれを使えてこそ意味がある……と。

 ……なんか、またらしくないこと思ったな。

 学校と関係のあるものを見たせいで、なんか思考がおかしくなってるな。

 この前、美鈴と美月の――家族の縁を見た時も、こんな感じだった。


「……っと。それで、どれほど濃縮されているのだろうか?」


 そう言って、俺は程よく液体が出切ったタイミングでビーカーを手に取ると、中に入っている液体を解析する。


「ふむ……なるほど。大体、魔石の5倍程濃縮された……といった所か。まあ、全然悪くないな」


 単純計算で、本来の5倍の魔力を貯める事が出来るようになる……と思えば、全然この結果は悪くない。

 だが、所詮それは机上の空論。

 そういうのが即成功した試しなんて、人生で……50回ぐらいしかない。


「まずは、こっちレベルの魔石でも使えるようにしないとな。試薬とかも、それなりに改良しないと魔石と反応してくれ無さそうだ」


 まあ、一からやってた今までの研究に比べれば、参考書がある分ずっと楽だ。

 そう思いながら、俺は研究に没頭する事になるのであった。


 尚、この後当然の様に食事の提供が遅れ、アルフィアにブチ怒られたのは言うまでもない。


 ◇ ◇ ◇


 浜松市某所にて。


「な、なんでこんな危険な役目を……」


 そんな風に文句をたらたら流しながら、人目のつかない場所を移動する1人の男が居た。地味な装備、地味な風貌。どこにでもいる普通の日本人――だが、足運びや身体能力は常人のそれを遥かに超えている。

 また、男は隠遁系の魔法を行使しているようで、不気味なまでに足音はせず、更にその不自然さにすれ違う人々も気づかない。


「……悪いけど、ここから先は通行止めだ」


「……うそん。やっぱ来た」


 すると、人が居ない路地裏に入ったタイミングで、脇道から出て来る若い男――日本国首相、鈴木宗也。

 彼を前に、男は思わずといった様子で天を仰いだ。

 そんな男に、宗也は朗々と言葉を告げる。


「”魔滅会”幹部、序列二位。横井翼よこいつばさ。強盗監禁殺人窃盗痴漢横領脱獄幇助器物損壊罪その他多数の罪で、貴方の身柄を拘束させていただきます」


「ちょ……てか、痴漢は確か冤罪だったは――ずぅ!」


 宗也の言葉に、男――翼が抗議の声を上げるも、次の瞬間、宗也の拳が翼へ振り下ろされていた。

 それに対し、翼は即座に両腕を顔前でクロスする事で防ぐ。


(でも何とか引き付けたし、後はなるべく時間を稼いで、撤退しないと! こいつに”マグレ”は通用しないから、実力少しでも劣ってる時点で、ぶつかれば勝ち目ゼロなんだよ!)


 極秘裏に手に入れた、宗也の固有魔法を知っているからこそ、全力で撤退を視野に入れる翼。

 だがそんな翼に対し、宗也は徒手空拳によるシンプルだからこそ強力な格闘術を見せながら口を開く。


「”魔滅会”が私の固有魔法を把握している事ぐらい、私も”視た”よ。だからこそ、緊急でダンジョンに【災禍の魔女】を戻らせている。この意味、貴方なら分かるでしょう?」


「そこまで分かってるのー!?」


 宗也の言葉に、翼は、驚いたように声を上げた。


「ぐふっ!」


 直後、鳩尾を下から深く殴られて、空中へと吹っ飛ばされる翼。


(俺、二位なんだけど……二位なんだけどぉ……)


 そして、空中でそんな事を思いながらも、生き残るべく固有魔法を発動しようと唇を震わせるのであった。

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