第十一話 ハンバーガーセット

「ふぅ。ただいま」


 アルフィアにブチ怒られた俺は、あの後飯を求めて奔走し、良さそうなものを買い揃えて来た。それなりの出費となってしまったが、後悔は無い。

 あと、折角買い物をしに来たという事で、個人的な物もいくつか買ってある。


「おお、ご主人様よ。待っておったぞ」


 すると、早速アルフィアが笑顔で出迎えてくれた。

 ルルムではなく、アルフィアが一番最初とは珍しい。

 そう思っていると、家の中からドタバタと足音が聞こえ――


「マスター~~~!!!!」


 中からルルムが、弾丸の如く飛び出してきた。

 そんなルルムを、俺は胸元でバサッと受け止めると、頭を優しく撫でながら口を開く。


「ああ、ルルム。帰って来たよ」


「えへへ~~~~~」


 俺の言葉に、ルルムは頬を綻ばせて笑った。

 すると、後方に居るアルフィアからの視線が突き刺さり、俺は思わず硬直する。


「のぅ、ご主人様よ。早く、飯を食わせてくれんかの?」


「……ああ、分かった」


 いつからアルフィアはこうなったんだ……と内心で天を仰ぎながら頷くと、俺はルルムを軽々と抱き上げた。

 そして、「きゃっきゃ」と笑みを転がすルルムを肩車すると、《空間収納インベントリ》を開く。


「んー……これでいいかな?」


 そう言って、俺がそこから取り出したのは3つの紙袋だ。

 側面には、マグトナルトと書かれている。

 これまた遥か昔に聞いた事があるような名前だが……まあ、気のせいだろう。

 すると、アルフィアがくんくんと鼻を鳴らす。


「おお、これはまた”美味い”匂いがするのぅ。早速食べたいのじゃ」


「マスター! ルルムも!」


「ああ、分かった。家に入ろうか」


 2人の言葉に、俺はそう言って頷くと、家の中に入った。

 そしてロボさんも呼び寄せ、リビングにある食卓へとつく。

 俺は皆がちゃんと居る事を確認すると、紙袋の中から色々と取り出していった。


「これは、ハンバーガーのセットだ。肉等をパンで挟んだハンバーガーにポテト、チキン、ナゲット。ドリンクも付いてる」


 テーブル上に並べられる様々な飯に、アルフィア一同目を輝かせる。

 ……ロボさんだけは、相変わらず無反応だけど。

 ただ、なんか魅入っているような気がするような、しないような……そんな感じだ。


「全員分買ってあるから、数は足りている筈だ。各々、食べてってくれ。食べ方が分からないのなら、その都度俺に聞いて」


「うむ。分かったのじゃ」


 そう言って、アルフィアが最初に手を付けたのはLサイズのポテト。

 ひょいひょいひょいっと摘み、口へ放り込む。


「おお、この程よい……”塩味”とやらか? これが良いのぅ。いくらでも食べられそうじゃ」


 そして、満足気にそんな事を言いながら、更に食べる食べる。


「えっと、ルルムはこれを食べる!」


 一方、ルルムが手に取ったのは包み紙によって包まれたとろーりチーズバーガーだ。


「はむっ!」


 そして、ルルムは大口を開けると、それを食らった。


「ちょっ……」


「……ええ」


 あまりの所業に、俺とアルフィアは揃って唖然とする。

 余談だが、この時ロボさんは影を薄くしながら黙々と食べている。


「もぐもぐっ……うん。美味しい!」


 そして、ルルムはそう宣いやがった。


「ルルムよ……それは正しい食べ方では無かろうて……。弁当のように、入れ物は取るのじゃよ」


「む~~~~?」


 我慢できぬとばかりに忠言するアルフィアの言葉に、ルルムは変わらずハンバーガーを頬張りながら、不思議そうに首を横に振った。

 うん……もう、いいよ。


「はぁ……ああ、うめぇ」


 そんな事を思いながら、俺はナゲットをバーベキューソースにつけ、口に入れる。

 ああ、美味いなナゲット。

 その後、俺はそのバーベキューソースにポテトもつけて食べてみる。

 うん。味変というのが出来て、実にいいね。


「ほうほう。これとな……」


 すると、アルフィアが俺を真似るようにしてポテトにバーベキューソースをつけた。

 そして、口に運ぶ。


「……おお、これもいいのぅ」


 そして、そんな言葉を口にした。

 楽しそうで、何よりだよ。


「さて、じゃあ俺もメインのハンバーガーを食べるとするか」


 そう言って、俺は包み紙に包まれたハンバーガーを手に取る。

 因みに、この中に入っているハンバーガーは、ベーコンレタスバーガーだ。

 ここにある中で、これだけは個人的に食べたいと思って買ったものなんだよね。


「さて、楽しみだ」


 笑みを零しながら、俺は包み紙を剥がす。すると、そこにはレタスとベーコンが溢れ出ているハンバーガーがあった。

 俺は早速、そこへかぶりついた。


「……んん、美味い」


 シャキッとした感触。ベーコンやハンバーグの肉々しさ。

 とろりとしたチーズ。トマトの酸味。舌を撫でるマスタードの微かな刺激。

 ああ、いいね。

 弁当とは違い、本当に出来立てだからこそ味わえる、表現しがたい温かさが、俺の口を満たしてくれる。


「は~~~最高だ」


 そして、合間合間にぽいぽいとポテトを口に放り込み、ドリンク――グレープソーダをごくごくと飲み、口の中で弾けさせながら。

 実に充実した夕食を満喫するのであった。

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