第九話 1日が終わり――
「で、私は何だい?」
「はい……お、お師匠さまは美しい美女でございましゅぅ……」
全身をボロボロにし、意識を朦朧とさせながら、男はそんな言葉を口にした。
一方、そんな男の背中をぐりぐりと足で踏みつけていた怜華は、そろそろいいかと言って足をどかすと、完全に蚊帳の外となっていた俺の方に視線を向ける。
「ふぅ。すまないね。ちと、こ奴が生意気にも酷い事を言ったからねぇ。つい、絞めてしまった」
「そうか。まあ、道理が通っているようなら、いいんじゃないか?」
あの男が、怜華に対して失礼な発言をしたのは、れっきとした事実。
なら、それに対して制裁するのは何ら間違ったことでは無いと、俺は思う。
これを間違いだと言ってしまえば、俺の人間に対する対応のほぼ全てが間違いになってしまうし。
「さてと。美玲、お前さんもちと見ない間に一皮剥けた様じゃのう。大方、こ奴のお陰かの?」
すると、次に怜華は美玲へ話を振った。
それに対し、美玲は少し口ごもった後、口を開く。
「そうかも、しれませんね」
美玲は何か感情が込もったような声で言う。
何の感情かは分からないが……なんか、心に響いたというのかな。そんな感じがした。
「なるほどねぇ。まあ、大翔は逃さん方がいいよ。色々な意味でねぇ」
そう言って、怜華は上層へと続く道へと視線を向けた。
「さて、もう行くよ。地上行って飯食ったら、あのぼんくらに会わなきゃならないからねぇ」
「おーい、師匠。いい加減、首相の事ぼんくらって言うのやめません?」
「ふん。固有魔法に頼らんとやってけないあ奴を、ぼんくらと言わずして何と言うんじゃ」
そして、そんな事を言いながら、弟子共々この場を後にするのであった。
「中々、凄い人だったが……それにしても美玲。日本最強とやらと知り合いだったんだな?」
彼らが去って行った所で、俺は美玲にそんな疑問を呈す。
確かに美玲も全体的に見れば強者の部類に入るが、精々第二級探索者。国内に僅か3人しかいない特級探索者の、それもトップと知り合いになれるだなんて、普通じゃない。
そんな事を思っていると、美玲はポツリポツリと答えを告げた。
「はい。それは、宏紀さんとの繋がりですね。宏紀さんは特級探索者の方々に次ぐ実力を持っていて、その関係で怜華さんと会う機会が多く、その時に宏紀さんの付き添いをしていたのが私……という感じでした」
「なるほどね」
確かに宏紀は強い。
怜華も、宏紀の名を出していたし、この言葉は真とみて、間違いないだろう。
それにしても、怜華。
まさか、俺の実力が己よりも上である事を目視だけで見極めたか。
あれは、経験と第六感が無ければ出来ない芸当――素直に称賛ものだ。
それなりに実力等は、見破れないように気を付けていたつもりなのだがな。
まあ、俺はどこまで行っても凡人だ。ああいう”努力した天才”には、”逸脱した何か”でしか勝つことが出来ない。
「……さて。どうする? 地味に時間使ったけど」
「そうですね……。万が一もありますし、もう帰って売却でもしましょう」
「だね」
美玲の言葉に、俺は同意を示すと、上層へと向かって駆け出すのであった。
それなりの速度で駆け上がり、人混み地帯を抜け、やがて地上へと降り立った俺たちは、取りあえず的な感じでロビーの椅子に座る。
「ふぅ。それにしても、随分と混んでいるな」
「まあ、この時間帯は多くの探索者がダンジョン探索から帰って来る時間帯ですからね。魔石自動売却機もそれなりに数ありますが、それでも……って感じです。受付は受付で、素材の買取でもっと手一杯」
これでも、随分と改善された方なんですけどねぇと言いながら、深く嘆息する美玲の言葉に、俺は黙って肯定するのだった。
その後、俺たちは頃合いを見て魔石自動売却l機の列に並んだ。
そして、待つこと30分弱。
やっと、俺の番が回って来た。
「さて、どれぐらいになるのやら」
そう言って、俺は《
そうして入れ続け、最終的な金が現金として出て来た。
「16万円……か」
まあ、全然悪くない。普通にこの額でも、それなりに節約すれば1か月は普通に暮らせるだろう。
ただし、この内の8万円は怜華から貰った魔石となるが。
つまり、俺が今日稼いだのは実質8万円という事になる。
……それでも、普通に凄いけど。
「ただ、普通は消耗品はまた買わなきゃ出し、武具だったらメンテナンスも必要。何だかんだで一般的には、少し収入が良い程度の職業に収まるんだな」
魔石自動売却機から離れた俺は、手にした金を《
その後、俺と同じく魔石を売却した美玲と合流すると、口を開いた。
「それじゃ、もう解散って感じでいいか? 夜も遅いし」
「そうですね。今日は、本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「……ああ。こちらこそ、ありがとう」
美玲の言葉に、俺は定型めいた言葉で返すと、そのままくるりと背を向けた。
うん。互いに利益のある、良き行動であったと思う。
その後、俺は人目が付かない所へ行くと、第600階層へ転移するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます