第六話 美玲と共にダンジョン探索

 第60階層まで降りた俺たちは、ようやく”ダンジョン移動”では無く”ダンジョン探索”が出来るようになった。

 世間一般のダンジョン探索は、その階層を歩き回って、魔物や宝箱の中身を手に入れるというものだった。俺が普段するダンジョン探索は、次の階層へと続く階段を見つける事を目標にしている為、ちょっと意識する場所が異なってくる。


「はっ はっ!」


「グギャッ!!」


「ギャッ!」


 まず前衛に居る俺が、近づいてきた2匹の魔物を斬り裂く。


「【魔力よ、いかづちとなれ。いかづちよ、一直線に穿ち抜け――《雷槍サンダーランス》】!」


「グガアアアア!!!!」


 その後、後ろにいる美玲が放った雷の槍が、その更に後ろに居た魔物を穿ち、痺れさせ撃破する。


「まあ、ここぐらいなら”戦い”が出来るな」


 当然圧倒的な実力差で蹂躙できるのだが、まだ”戦い”という物が出来ている。

 ここより下の階層とかだと、どうやっても戦いにならないんだ。

 1匹の蟻と”戦い”が出来る人間が居ないのと同じだよ。


「ふぅ。大分連携も良くなってきましたね。というか、大翔さん合わせるの上手過ぎです」


 すると、美玲がそんな事を口にした。


「余裕のある階層だからな。美玲の方にずっと意識を割き続けられるのなら、あれぐらいどうという事は無い」


 そんな美玲の言葉に、俺は淡々の事実を告げる。

 実際、そんな感じだからね。

 それに……これは言うつもり無いのだが、こっちにはあのルルムが居るからさ。

 ナチュラルボーン破壊神、純粋無垢な殺戮者ことルルムとも完璧な連携が取れる俺にかかれば、美玲はずっと合わせやすかった。

 そんな事を思いながら、俺は魔石の回収を進める。


「さてと。……また、来たか」


 下よりはずっと少ないが、それでもそこそこの頻度で魔物が壁から産み出され、一番近くに居る人間――即ち俺たちに襲い掛かって来る。

 まあ、なんてことないとばかりに2人でぶっ殺してるけど。

 そうして戦い続けていると、美玲が突然立ち止まった。そして、ある方向をじっと見つめると、口を開く。


「大翔さん。あの奥に行ってみませんか? もしかしたら宝箱があるかもしれませんので」


「あの奥……ああ。行ってみるか」


 美玲が指差す先にあったのは、岩の陰に隠れるようにしてあった小さな脇道。

 確かにああいう所に宝箱はあったな。下じゃ、普通に野晒しだけど。

 そうして俺は懐かしく思いながら、美玲と共にその脇道へと入って行くのであった。


「グアアァ!!!」


「じゃまだよ」


 ザン!


 脇道に入って直ぐの所に、魔物がまるで通路を塞ぐように陣取っていた――が、魔物に対して通路が狭すぎる。その結果、魔物はほとんど動く事も出来ずに、沈んでいった。

 そして――


「……あったな」


「ありましたね」


 通路の一番奥の地面にポツンと、1つの宝箱が置かれていたのだ。

 これはダンジョン内にランダムで生成されるもので、中には各階層の難易度に応じたものが入っている。

 第60階層では、一番いいものでも結構ショボそうだし……まあ、期待せずに開けていくか。


「それじゃ、開けるぞ」


「はい」


 そして、俺は宝箱に手をやると、カパッと宝箱の蓋を開いた。

 すると、そこには――


「……指輪、か」


 小さな銀の指輪が、ちょこんと中に入っていたのだ。

 ただの貴金属類が入っている訳も無いし、多分何らかの効果が付与されているんだと思う。

 そう思いながら、俺は《鑑定アナライズ》を発動させた。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】加護の指輪ブレス・リング

【等級】遺物級レリック・クラス

・指に装着する事で、1日に1回攻撃を無効化する。ただし、一定以上の攻撃は無効化出来ない。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「ほー……まあ、ここにしては悪くないんじゃないか?」


「? どんな効果だったんですか? 教えてください。大翔さん!」


 俺が《鑑定アナライズ》でこの指輪を視ていると、美玲が覗き込むように横から割り込んできて、そう言った。

 それに対し、俺は反射的にすっと横にズレると、《鑑定アナライズ》で視た内容を伝える。


「……それ、普通に大当たりの部類ですよ! この辺じゃ、滅多に遺物級レリック・クラスの魔道具は出てきませんし」


「まあ、確かに……な」


 やや興奮しながら言う美鈴に、俺は困惑したような表情を浮かべながらそう言った。

 いや……だって俺、暫くは《神話級ミソロジー・クラス》、《幻想級ファンタズマ・クラス》、《伝説級レジェンド・クラス》のいずれかしか、宝箱の中から出していないんだよ。だから、それよりも遥か下の《遺物級レリック・クラス》では、全然喜べない――むしろ落胆してしまう身体になっててね……

 だが、そんな事を流石に言える訳も無く、俺はこくこくと美玲の言葉に頷くと、魔物が来る前に脇道の外へと出ていくのであった。


「ふぅ……それで、これはまあ、美玲に上げるよ。使い道無いし」


 どうせ持ってても使わないし、こういうレアな魔導具は売るのにも色々と手続きが必要で、非常に面倒。

 そう思った俺は、手にした《加護の指輪ブレス・リング》を美玲に渡す。

 それに美玲、凄く物欲しそうな目で、これ見てたしさ。

 すると、美玲は目を見開いた後、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。大切にしますね」


 そう言って、美玲は受け取った《加護の指輪ブレス・リング》を左手の薬指にはめた。そして、嬉しそうにその指輪を右手で優しく撫でる。

 まあ、美玲にとっては結構強力な手札になり得るからな。俺も、下の魔物の攻撃を1回無効化出来る魔道具を見つけられたら、今の美玲みたいに喜ぶ自信あるし。

 そんな事を思いながら、俺はふっと小さく息を吐くのであった。

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