第五話 世間一般の探索とは
とにかく美味いなって思いながら寿司を食べ続け。
会計を済ませた俺たちは、店の外に出た。
ん? お値段はいくらかって?
まあ、9500円だったよ。
袋麺をそのまま食ってたりしたあの時とは比べ物にならない程の金額だが、何故だか高いという実感が湧かない。
楽に150万円以上も稼げてしまったせいで、感覚が狂ってしまったのだろうか?
「まあ、別に悪い事ではない……のか?」
生きる事に余裕が出来たと思えば、それは良い事だと思えてくる。
そう思いながら、俺は美玲に視線を向けた。
「美味しかったですね。あ、そう言えば大翔さんって、この後予定はありますか?」
「いや、特に無いな」
美玲からの問いに、俺は軽く首を振ってそう言った。
すると、美玲からこんな提案がされる。
「でしたら、軽く一緒にダンジョンへ潜りませんか? 買い物もいいですが、大翔さんの場合はそっちの方が好きかと思いまして……どうですか?」
「ダンジョン探索か……」
確かにぶっちゃければ、買い物よりもダンジョン探索の方がずっと好きだ。
ただ、下の階層だとぬる過ぎるんだよなぁ……
まあでも、美味い寿司屋を紹介してくれた美鈴には借りがあるし、何より美玲の戦い方をもっとじっくりと見てみたい。
美玲は結構上位の探索者らしいし、参考になる場所も、もしかしたらあるのかもしれない。
「ああ、分かった。ダンジョン探索に行こうか」
そう思った俺は、美玲の提案に軽く頷くのであった。
その後、既に準備が出来ている美玲と共にダンジョン総合案内所まで歩いた俺は、中に入るとロビーのソファに腰かける。そして、美玲とこれからの探索について、軽い話し合いを始めた。
「それで、どういう役割分担で、どこまで行く?」
「そうですね……私は基本ソロで探索しておりますので、前衛後衛支援のどれもこなす事が出来ます。ですが、接近戦の方が少し苦手なので、出来れば後衛が良いですかね」
「なるほど。なら、俺が前衛をやるか」
「ありがとうございます。次にどこまで行くかですが、まあ最初の40層ぐらいは最短経路で駆け抜けましょう。そして、その後を時間が許す限り探索し、今晩ここへ戻る。これでどうでしょうか?」
「んー……まあ、いいんじゃないか? 細かい所は、臨機応変にやって行けば」
同じ場所を何度も何度も探索する経験がほとんど無い俺には、残念な事に最適解が分からない。だが、それに関しては経験豊富な美玲がそう判断したのなら、まあ問題ないだろう。
それに何かあっても、その程度の階層なら割とどうとでもなるし。
「んじゃ、行くか」
そう言って、俺は立ち上がると、《
この剣は、もう随分と昔に沢山使った最初期の愛剣で、それなりに思い入れの深いものだ。能力も、水属性魔法の威力を高めるという、俺と相性抜群のもの。
「分かりました。行きましょう」
続いて美玲も立ち上がると、そう言って頷いた。
そして、俺たちは奥にあるダンジョンの入口へと向かうと、そのままその中に入って行くのであった。
「……なるほど」
やがて、美玲のペースに合わせながらダンジョン内を駆ける俺は、周囲の様子を見回しながらそう呟いた。
もう何階層も何階層も下へ下へと降りているのだが、そのペースは想像よりずっと早い。
そして、さらに驚くべき事に、今第20階層まで来ているのだが、ここまでで魔物と戦った回数はたったの1回。しかもそいつは俺にとっても美玲にとっても弱すぎる為、瞬殺であった。
で、なんでそんな事態になっているのかと言うと……
「普通に狩る人間が多いからか」
普段の俺のダンジョン探索とは違い、ここでは多くの探索者が日々の生活やレベル上げを目的に、まるで魔物を奪い合うかのような勢いで戦っているのだ。
そりゃあ最短経路で、現在下へ行く事だけを目的としている俺らに魔物は襲い掛かってこないわな。
下の魔境を知っているせいで、なんだか調子狂う。
そんな事を思いながら、更に更に下って行く。
すると、第25階層を過ぎた辺りから急に人間が半分ぐらいに減少し、そして第40階層に辿り着く頃には普通に俺らが戦わないといけないぐらいには、探索する人間の数は減っていたのだ。
「それで、第40階層まで来たわけだが、ここからはどうする?」
「普通に、探索をするだけですよ?」
俺の問いに、美玲は何を当たり前の事をとばかりにそんな言葉を口にした。
いや、普通の探索と言われましても、俺は世間一般の探索を知らんのだよ……
だがまあ、ここまで来る過程で探索者が何をやっているのかは見て来たから、あれと似たような事をしていけばいいだろう。
「「「グルルルルゥ!!!!」」」
呑気にそんな事を思っていると、3頭の狼型の魔物が姿を現した。
だが、俺は反射的に剣を振るい、3頭を一瞬で殺戮する。
「「「「「グガアアア!!!!!」」」」」
すると、今度は追加で5体、ダンジョンから産み落とされる豚頭人型の魔物――ハイオーク。
だが、それもまたもや剣と魔法で無意識に殺戮する。
……やべ。反射的に殺ってしまった。
まあ、それはいいとして、これだと美鈴と一緒に来た意味ないな。
そんな事を思っていると、美玲が口を開く。
「えっと……大翔さんと居ると、普段よりも速く移動できるし、もう少し下の階層まで行きましょ。確かにここは、私でも1人でやれちゃうし……」
「……だな」
こうして、俺たちは再び最短経路で、さらに下の階層――第60階層まで降りて行くのであった。
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