第四話 高級寿司って美味しい……よね?
美玲と肩を並べなら、歩き続ける事約5分。
あっという間に目的地に到着した。
「ここです、ここ」
そう言って、美玲が指差すのは、古き良きという言葉が似あう外観の寿司屋だった。
以前アルフィアたちと一緒に行ったけど、”魔滅会”のせいで入ることが出来なかった寿司屋があるが、あれと似たような感じだ。ただ、こっちの方がちょっと大きめの建物って感じかな。
「見た感じ、結構混んでるな。どれぐらい待つんだろ?」
お高い寿司屋だと聞いていたから、一部の人しか寄り付かない、そこそこ空き気味の店かと思っていた。だが、実際は外で待つ人間がちらほらと見受けられるぐらいには、人気の店だった。
これだと……まあ最低でも30分ぐらいは待ちそうだな。
まあその程度、より美味い飯を食べられる事と比べれば、取るに足らない。
すると、美玲から予想だにしない言葉が飛んでくる。
「2日前に丁度この時間で予約しましたので、直ぐに座れると思いますよ」
「あ、そうなんだ? そりゃナイスだな」
2日前に美玲から一緒に食べようと電話がかかってきたが、その直後に予約を入れたって所だろう。随分と用意のいいものだ。
「誰かと食べる時は、こうやって予約するのが常識ですからね。当然ですよ」
「あ、そうなんだ……」
それに対し、美玲はむしろこれが当たり前とばかりにそう言う。
アルフィアたちを連れている時でも、行き当たりばったりな俺とは、大違いだな。
3回連続で巡った弁当屋が臨時休業だったのは、記憶に新しい。
そして、事情を詳しく知らないアルフィアに「何しとるのじゃ……」という目で見られた事も、よく覚えている。
……おっと。いらん事考えてたな。
「それでは、入りましょう」
「ああ、そうだな【解除】」
そうして、俺は《
「んー……雰囲気あるな」
店内はとても落ち着いた雰囲気が漂っており、調理場を囲うように置かれた多くのカウンター席と、少量のテーブル席が見える。
すると、美玲は入って直ぐの場所にあった見た事も無い機械に、手首に着けている腕時計のような物――この時代のスマホをかざした。
すると、空中ディスプレイに2つの座席番号が表示される。
「えっと……ああ、そこね」
座席番号を確認した美玲は、店内をぐるりと見渡すと、そう言って奥のカウンター席を指差す。
そこには、確かに表示されている番号が座席の後ろに記載されていた。
「そこか」
そう言って、俺は美玲と共にそこへ向かうと、隣り合わせでカウンター席に腰かけた。
「では、早速頼みますか」
「だな。んで、何を頼むか……」
美玲の言葉に頷くと、俺はメニュー表を見やる。
そこには、俺でも良く知るマグロやサーモンといった寿司が写真付きで載せられていた。
さて、実の所寿司は、つい最近スーパーで売っているパックのやつを買って、食った事があるから、有名どころの味は知っている。
だが、ここは店内の雰囲気だけでも想像できる通り、高級寿司店。きっと、それよりも美味しい筈だ。
てことで、まずは基本を頼むとしよう。
「えっと……これと、これっと」
俺は空中ディスプレイに映し出されているメニュー表上で指を走らせ、マグロ、サーモン、カツオ、えびを注文した。
そして、同じく横で注文する美玲を横目に眺めながら、頼んだ品が届くのを待つ。
「はい。マグロ、サーモン、カツオ、えびだ」
少し待つと、気前のよさそうなおじさんが、皿に乗った寿司を俺の目の前に置いておく。
おお、一度に来るタイプなのか。てっきり出来次第来るものなのかと思ってた。
そんな事を思いつつ、俺はマグロの上にワサビを乗せ、醬油を掛けると箸を手に取った。
そして、1貫取る。
「随分と、大きいな」
大きさは、俺が以前見た寿司と比べると倍ぐらいの大きさだ。
そう思いながら、俺は一気に口へ入れる。
「……ん」
随分と分厚いな。食べ応えがある。
その後、鼻を通るツーンとしたワサビが効く感覚。
うん。美味いな。普通に美味い。
前食べたのとは比べ物にならないぐらい……と、言いたい所なのだが。
「味の違いが、上手く説明できんな……」
なんか、どうしても気のせいって感じが拭えない。
気分的に、何となく美味しいな~って程度。完全に、値段補整が掛かっている。
俺、もしかしなくても舌の感覚鈍い?
そんな事を思いながらちらりと横を見てみると、そこでは美玲が美味しそうにサーモンを食べているのが見えた。
「……まあ、美味いからいいか」
俺の味覚が鈍かろうが、これが美味しい事に変わりはない。
なら、別にいいでは無いか。
金なら、沢山あるし……と、昔の俺が聞いてたらマジの殺意を向けられそうな事を思うと、引き続き寿司を堪能するのであった。
◇ ◇ ◇
長野県某所にて。
「……失態だな。幹部を2人も失うとは」
「だが、最善は尽くした。確かに我々にも非はあるが、小川宏紀の能力を過小評価して、我々に報告した貴方にも非がある筈だ」
「報告書にある内容を全て鵜呑みにする貴方たちが悪い」
そこでは、責任の擦り付け合いをする人々の姿があった。
すると、その中でひと際異彩を放つ、ヤから始まるヤバい人みたいな風貌の男が口を開く。
「黙れ、見苦しい。それ以上喚くようなら――」
その瞬間、皆一斉に息を呑んだ。
ドクンドクンと心音だけが聞こえる中、男は言葉を続ける。
「――強制的に、銀座のスクランブル交差点でアソパソマソ体操をさせるぞ? それとも、日比谷公園でプ○キュアのテーマソングに合わせて踊るか? 好きな方を選ばせてやる」
朗々と紡がれた残酷過ぎる言葉に。
皆は一斉に平伏し、言い争いを止めた。
当然だ。
もしこのまま言い争いを続ければ――彼らは間違いなく叩きのめされた挙句、その場所へ送られ。
そして、男の固有魔法により――それが、実現してしまうのだ。
現に、この10年間で5人の被害者が出ている。
因みに現在、彼らは自分の事を知る人が居ない、遠く離れた離島で細々と生活しているらしい。
「……よし。黙ったな。それで方針だが、幹部が潰されたのは割り切れ。それに関して、俺たちが出来る事は何もない。あと、もうじき
「「「「はっ」」」」
男の言葉に、皆は再び平伏するのであった。
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