第四十五話 瓜二つの女

「ちっ 思ったより火回ってんな」


 1つ1つ消化しては救出しているのだが、そんなまどろっこしい事をしたせいで、最後に回した所は結構な火事になっていた。

 当然消火活動は他の人間たちが既に始めているようなのだが、消えにくいように魔法で細工されているせいで、中々消えない。


「美玲にああ言われたから、まあある程度は叶えるが、それでも限度があるからな」


 やろうと思えば、転移魔法で即救出からの消火っていうコンボで、事態を直ぐに収める事が出来る。ただ……人間の為にわざわざ俺が、明らかに身バレに繋がりそうな行動を取ろうとは、どうしても思えないんだ。

 だけど、かといって助けないのは道理に合わない。

 故に、これも普通の人間の範囲内で、本気で助けるとしよう。


「【魔力よ、清く美しい水となれ。荒く流れる河川。万物を押し流す自然の力。生命すべからく無力と化す。我が意に応えて顕現せよ――《水水水水ウォーター》】」


 俺はそれっぽい詠唱を唱えると、本来の俺にしては、結構手を抜いて魔法を放った。

 だが、現状においてはこれでも大きな助けとなる。


 ビシャアアアア!!!!


 俺の掌から放出された水は、建物に当たると、程よく火を消化していく。


「おお、いい補佐だ!」


 それは、ちょうどいい感じに消火活動をしている探索者や消防隊員諸君の補佐となった。

 そして、俺の補佐で一気に勢いがついたのか、火が消えるのにそう時間はかからなかった。


「んー……あの様子なら、俺が救助に行く必要は無さそうかな」


 既に幾人もの人間が、逃げ遅れた人々の救助へ向かっている様子を見た俺はそう呟くと、こっち側が終わった事を一先ず美玲に伝えようと、美玲の気配を探る。

 その時だった。


「……マジか」


 感知に引っかかったのは、めちゃくちゃ弱った美鈴と、そんな美玲の前で佇む、いくらかの傷を負っている人だった。そして、両者互いに争った事が感じれる。


「流石に行くか」


 このままじゃ美玲は殺される。

 そう思った俺は、即座に転移魔法で美玲の背後へ転移した。


「……んん?」


 転移し、状況確認をした俺は、思わず目を見開いた。

 だって、そこには美玲が、美玲と瓜二つの女によって、殺されようとしていたのだから――


 ◇ ◇ ◇


 大翔と別れた美玲は、別の場所で一般人の救出及び、”魔滅会”の構成員の討伐を行っていた。


「【魔力よ、いかづちとなれ。自然の摂理。落ちよ、落雷――《落雷サンダーボルト》】!」


「「「ぐぎゃああ!!!!」」」


 朗々と唱えられた詠唱が発動し、3人の男は落雷を浴びて崩れ落ちた。

 本物の落雷程では無い故、死んではない。だが、暫くは動く事すらままならないだろう。

 その隙に美玲は、逃げ遅れた人々の救出にかかる。


「あ、ありがとうございます!」


「ひえぇ……くわばらくわばら」


 美玲が向かった先には飲食店が多く、ダンジョンとは全くの無関係な人まで巻き込まれている始末であったが、美玲たちの懸命な救助活動によって、次々と事態は収まって行く。

 だが、美玲の顔は――非常に険しかった。


「”魔滅会”……まだこんな事をしてたなんて。関わりたくないのに……イライラする……」


 美玲は、”魔滅会”に対して心底嫌悪感を滲ませながら、らしからぬ悪態をつく。

 すると――


 ドオオオオオン――!


 建物で入り組んでるだろう場所から、爆発音が上がった。


「くっ はああっ!」


 美玲は杖を構えながら地を蹴ると、この場に居る誰よりも早くその場所へと向かった。


「【魔力よ、いかづちとなれ。いかづちよ、一直線に穿ち抜け――穿て、穿て、穿て――《雷槍サンダーランス》】!」


 気配で、そこに敵が居ると分かっていた美玲は、先手必勝とばかりにの込められたいかづちの槍を4本放った。

 向かう先には――1人分の人影がある。


「【親愛あいは消え、我が身を苛む憎悪心いかり。世界に響け――《憎心響波ノイズ・レゾナンス》】」


 だが、場に響いた詠唱と同時に空中で激震が走り、いかづちの槍は霧散消滅してしまった。


「へぇ。久々の再会なのに、随分な挨拶だね。ねぇ? ?」


 直後、美玲と似た、憎悪に塗れた声が路地に響く。

 声の主は、その人影。

 いや、そもそもこの場には、美玲ともう1人しか居ない。


「……え? ど、どうして……」


 その声を聞いた瞬間、美玲は目を見開くと、思わずと言った様子でそう問いかけた。

 そんな問いに、人影はイラついたように舌打ちをすると――その身を隠していたローブを脱ぎ去った。


「どうしてって、殺す為に決まってるでしょ? 親殺しが!」


 露わになった、憎悪に塗れたその顔は――美玲と瓜二つであった。


「さあ――御託は要らない。1秒でも早く――死ね!」


「――っ 【魔力よ、いかづちとなれ――】」


 そして、まともに話す間もなく、戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る