第四十六話 美玲の過去
青梨美玲は、父と母――そして妹の
だが――両親は2人が産まれる前から、”魔滅会”に所属していた。
分かりやすく言えば、2人は典型的な二世信者だ。
故に、美玲はずっと”ダンジョンを探索する事は悪”として考えてきた。
だけど――ある日、思ってしまった。
「私たちのしている事は……本当に正しい事なの?」
”魔滅会”の構成員――何より、両親によって殺害された人々の死体処理を美月と共に行う美玲は、そんな言葉を漏らしてしまった。
それからだった。
美玲の疑念は、少しずつ蓄積されていき、そして――限界を迎えた。
「お父さん。お母さん。私たちのしている事は――本当にあっているの? 私たちも、ダンジョンで力を得て、それで色々とやっているでしょ?」
ある日口にした美玲の言葉に、両親が放ったのは――罵倒だった。
「美玲! 我々の崇高なる行動を疑うとは、何事だ!」
「そんな風に育てた覚えは無いわよ!」
そして、殴られる殴られる殴られる――
両親が初めて見せた狂気的な表情を前に、美鈴の中で何かが――壊れた。
家族に対する未練とでも言うような、家族4人の集合写真がはめられたペンダントだけを持って、15歳の美鈴が向かったのは――警察署だった。
そこで、美玲は言う。
「”魔滅会”の主要人物が複数いるアジトは――ここです」
……と。
結果、不意を突かれる形でアジトは崩壊。中に居た構成員は、全員逮捕され、それぞれに見合った刑に処されていった。
もっとも。主要人物やそれに近しい人物が多いアジトだった事から、多くが大量殺人の容疑で死刑になったのは、有名な話だ。
そして、重要な情報を渡した美玲は、殺人を犯した事が無かった事や未成年である事が相まってか、匿名でしかもこれといった刑に処される事も無かった。
だけど――
「……私は、何をするのが正解だったんだろう……」
家族を失い、仲間を失い、美玲は孤独となってしまった。
正しい事をした筈なのに――間違った事はしていない筈なのに――
そんな、孤独な美玲にある日、手を差し伸べる人が現れた。
「貴方が、青梨美玲さんですね。私は、小川宏紀と申します。どうか、私の話を聞いてくれませんか?」
「話……?」
雨降る夜。
とぼとぼと歩く美玲に、声がかけられた。
その日から、美鈴の人生は大きく変わる事となる。
―――――
――――
―――
――
「【魔力よ、闇となれ。爆ぜよ。――爆ぜよ、爆ぜよ――《
「【魔力よ、
爆裂する闇の球体を3つ放つ美月――それに対し、美玲は電気が迸る半径5メートルの領域を、自身を起点に展開すると、爆発方向をずらす事で回避する。
「へぇ。やるねぇ」
だが、美月はその隙に地を蹴ると、片手剣を振り下ろす。
キン!
長杖と片手剣が打ち合い、火花が散る。
拮抗――は、ほんの一瞬だった。
「くはっ!」
後衛よりの魔法戦士である美玲に対して、美月は前衛よりも魔法戦士。
レベル差も相まってか、美玲は大きく飛ばされ、背後のビルに身体を打ち付ける。
「死ね!」
そして、追撃とばかりに美月は、先端に猛毒が塗られた長針を3本、指で挟むと美鈴目掛けて投擲した。
「くっ」
その長針を、美玲はごろりと横に転がって回避する。
「ん-無様だねぇ。まあ、あんたに相応しい末路だね」
傷だらけの美玲を、美月は澱んだ笑みを浮かべながら嘲笑う。
対する美玲は、苦痛で顔を歪めながらも、しっかりと二足で立ち上がると、美月をその眼で見据え、口を開いた。
「美月……私はもう、貴方を逃がす事は出来ない」
正直に言えば、美月とは戦いたくなかった。
だけど、もう――やるしかない。
美玲はぐっとその身に秘める思いを押し殺すと――詠唱を始めた。
「【正しき想いは孤独の始まり――】」
「くっ はあああっ!!!」
固有魔法だと、直感で感じ取った美月は、詠唱を潰すべく片手剣を構えて駆け出した。
「【嘆き、苦しみ、家族を想う――《
「くっ」
だが一歩、美玲の詠唱が終わる方が早かった。
美月は即座に間に合わないと判断し、緊急回避をする。
直後、美月の動きがまるで鉛をつけられたかのように重くなった。
(これは……
固有魔法による強力なステータスの低下に、美月は焦燥感を露わにした。
そして、その隙を突くかのように美玲は長杖を振るい、美月の腹に一撃を与える。
「ぐううううう――やられる訳にはいかないよォ?」
「っ……!?」
だが、美月は執念に取りつかれたような顔で、腹からこみ上げるような声でそう言うと、美玲の長杖を左手で無理やり掴み取った。
そして――
ドオオオオオオン――!!!
爆弾を用いて、自分諸共美玲に攻撃を与えた。
爆発音が響き、煙が立ち込める中、美玲は煙を口から吐きながら、バタリと地面に倒れ伏す。
一方、美月は――
「ははははは……やっぱり
身体中、傷だらけになりながらも、美玲とは違ってしっかりと二足で立っていた。
そして、倒れ伏す美鈴を見るや否や――嗤った。
「あははははは――っ! やっとあんたを殺せる! 私の手で! この状況を作る為に、どれほど組織に貢献したか――っ!」
それは、もはや壊れていた。
壊れ、嗤う美月に、美玲は息絶え絶えになりながら、視線を向ける事しか出来なかった。
そんな美玲が愉快なのか、美月はますます嗤うと――片手剣を構えた。
「さあ――殺してあげるよ」
「……ぁ、て……」
そう言って、美月が片手剣を振り上げた――次の瞬間。
「……んん?」
何の前触れも無く転移してきた大翔が、そんな場違いな声を出すのであった。
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