第四十二話 お好み焼きクッキング
治癒薬の調合に熱中していたら、唐突に背後のドアが開かれ、アルフィアがその隙間から顔を覗かせた。
「お~い。ご主人様よ~……ああ、やはり、まだやっておったのか」
「……ん? ああ、アルフィア。すまん。熱中してた。それで、今何時間ぐらい経った?」
繊細な作業たる調合の邪魔はしないようにと、遠慮がちに口を開くアルフィアに、俺は後ろを流し見ると、軽い感じでそう言った。
「く~~~か~~~~」
因みに俺に肩車されていたルルムは気が付けば寝落ちしていて、あどけない顔をしながら、夢の中に旅立っていた。
アルフィアはそんなルルムを見て、深くため息を吐きつつも、俺の問いに答える。
「丸々2日じゃな。流石にそれは休憩じゃないと思うがのう……」
「あー……結構経ってたんだね」
調合の進捗具合から、なんとなく予想出来てはいたが、本当にそれだけ経ってたんだなぁ……
確かにそれは、アルフィアの言う通り、全然休憩になってない。逆に、疲労溜まりまくりだ。
強靭な肉体を手にしたお陰で、この程度では全然疲労感は感じないが……それでも、気づかない程度には溜まっている事だろう。
「あと、飯じゃ飯! 妾はもう2日間、なんも食べておらぬのじゃ!」
すると、うがー!と、アルフィアが唐突に憤慨しだす。まあ、ガチ怒りって訳ではないが。
「あ、そうなの? 普通に魔物肉を食べれば――あ」
普通に魔物肉を食べればいいと言いかけて、俺ははっと目を見開いた。
そして、アルフィアが俺の言葉を続けるように、口を開く。
「もう、あの頃の食生活には戻れぬと言ったであろう! 妾、もう美味しい飯しか食べんのじゃ」
「うん。だよね」
アルフィアの言葉に、俺は激しく同意したくなった。
いや……だって、地上の飯を食べるという手段を持っているのにも関わらず、魔物肉を食べる選択肢を取る奴だなんて、普通に考えている訳も無い。
「うむ。じゃから、早く買いに行くのじゃ! ダンジョン探索中で、弁当のストックも無くなったのであろう?」
「ああ、確かに無くなったな」
アルフィアの言う通り、ダンジョン探索中でそれなりにあった弁当は、全て食べきってしまった。因みにその後は、普通に飲まず食わずで戦い続けてたけど。
「ただ、だったら買いに行くよりもいい方法があるよ。付いてきて」
「うむ……? まあ、分かったのじゃ」
そう言って、俺は立ち上がると、上へと向かって歩き出す。
アルフィアは、そんな俺の言葉を訝し気に思いつつも、俺の後に続いて階段を上って行った。
「さてと……それじゃ、今日はこれだ」
ロボさんも連れ、やがて家の外に出た俺は、皆の方に向き直ると、そんな言葉と共に《
そうして取り出したのは、手作りの特大テーブル。
そして――
「お好み焼きセットだ」
地上で購入したホットプレートの他、キャベツ、豚バラ肉、卵など……お好み焼きを作る為に必要な材料だ。
「今日はこれを使って、美味しい飯を作るんだ」
「ほう。作る……とな。それはまた、興味深いのう」
「オイシイリョウリ。ワタシニハヨクワカリマセンガ、キョウミブカイデス」
俺の言葉に、2人は途端に興味を示しだす。
因みにルルムは、俺の肩に乗っかりながら、今だ夢の中だ。
「それじゃ、早速だな。まずはキャベツを千切りに――【斬り刻め】」
俺はキャベツを2玉手に取ると、魔法を使い、一瞬で千切りにして、俺謹製の大きな皿の上にバサッと乗せた。
このレシピには、色々と書かれているのだが……やはり魔法は便利だ。
上手くやれば、こんな感じで思った通りに千切りにする事が出来る。
「えー次は、ボウルにお好み焼き粉と水を入れるっと――【水よ、攪乱せよ】」
その後、俺はお好み焼きを何袋かドバッって大きなボウルの中にぶっこむと、即座にその上から水を注いだ。そして、そのまま水を操作する事によって、ボウルの中身をいい感じにかき混ぜる。
「そしたら……【接続】」
これで一先ずの準備は完了。
俺はホットプレートに直接魔力を流す事によって、従来とは違う形で電源を付けると、少し待って温めた後、その上に先ほど作った生地を魔法で垂らしていく。
すると、じゅーっといい感じの音がし始めた。
「んあ~~……ましゅた~……?」
すると、その音でルルムが目を覚ました。
ルルムは目をごしごしさせながら、ゆっくりと顔を上げると、地に足を付けた後、きょろきょろと辺りを見回す。
「ん……何してるの? マスター~~~」
そして、そんな問いを投げかけてきた。
「ああ。美味しい料理を作っているんだよ。あ、そうだ。ルルムはこれをこの上に、程よく乗せてくれないか? その次にロボさんがこれ。最後にアルフィアが、この豚バラ肉を乗っけて。この写真の通りにやると、上手くいくと思うよ」
思いついたとばかりにそう言うと、俺はそれぞれ天かす、もやし、豚バラ肉が乗った皿を皆に手渡していく。
そうそう。折角料理するんだったら、皆でやった方がなんかいいじゃん。
「うむ。了解したのじゃ」
「リョウカイシマシタ。マスター」
「分かった! ルルム頑張る!」
皆一様に食材が乗った皿を持ちながら、元気に返事をしてくれた。
そして、早速俺に言われた通りに、行動していく。
「まずは俺だな」
そう言って、俺は先ほど用意した千切りキャベツの一部を、2つある生地の上にそれぞれ乗せていく。
「んっと……ほい!」
続いて、ルルムが天かすをその上にパラリとばら撒いた。
「チョウセイ、チョウセイ……ハイ。デキマシタ」
そしてロボさんが、ここにいる誰よりも忠実にもやしを乗せていく。
「よし。最後は妾じゃ。ほいっと」
そして、最後にアルフィアが豚バラ肉を乗せてくれた。
その事を確認した俺は、すかさず温度を上げると、少し焼いた後、魔法でくるりとひっくり返した。
ヘラ使えって思いもしたのだが……便利なんだよ。魔法……
「まあ、そんなこんなありつつも、無事完成って所かな」
念動魔法でナチュラルに楽をしつつ、皿に乗っけた俺は、ソース、鰹節、青のり、マヨネーズのお好み焼き四天王をぶっかけると、魔法でそれぞれ4等分にして、皆の前に差し出した。
「ほーぅ。いい匂いじゃのう……」
「ルルム、食べる!」
差し出された、鰹節踊るホッカホカのお好み焼きを前に、ルルムは待てぬとばかりに最近使えるようになってきた箸を手に持つと、もぐもぐと食べ始めた。
「む、抜け駆けは許さぬぞ! ルルム!」
そんなルルムに抗議をしながらも、アルフィアはさっと箸を手に取ると、まるでルルムと競うように食べ始める。
そんな光景を見ると、微笑ましく思えてくるのだが……ここでどうしても仲間外れ感が拭えなくなってくるのがロボさんだ。
「……」
ロボさん自身は、別にこの事について何とも思っていないだろうが……流石にアレだからね。
ここは、俺が密かに考案しておいた、とっておきの改造を施してやろう。
「ロボさん。ちょっとじっとしててくれ――【接続】」
俺は背を向けるロボさんに手をかざすと、魔力を流し込んだ。
そして、性能に影響が出ないように気を付けながら、とある機能を搭載する。
「……っと。よし。これで、あらゆる物質をエネルギーに転換できるようになったぞ。まあ、魔石以外の転換効率は正直言って微妙だと思うが……これで、俺たちと同じ飯が食べられるようになった」
俺たちと同じ食事を食べる事が出来なかったロボさんが、同じ食事を食べられるようにする改造。
必要か不要かで言われれば、全くの不要なのだろうが……ずっとこんな仲間外れな事をし続けるのは、心にくる。心――精神は、ここぞという時に大きく響いてくるのは、俺自身が一番よく分かっているし。
ま、ロボさんの心情が分からない以上、どうしても自己満足的なのになってしまったがな……
「それで、皆と共に食べるといい」
「……ハイ。リョウカイシマシタ。マスター」
それに対するロボさんの返事は、相変わらず淡々とした機械音であったが――どこか、嬉しそうに感じたのは、気のせいだろうか。
「デハ、イッテキマス」
そう言って、ロボさんは美味しそうにお好み焼きを食べるアルフィアたちの下へ行くと、早速食べ始めた。
「え!? ロボさん食べられないんじゃないの~~~~!」
「ぬお!? ……む、これはご主人様の仕業か! そうしたい気持ちは分からなくは無いが――ろ、ロボさん食べすぎじゃ!」
「エネルギーテンカンコウリツガワルイノデ、タクサンタベルヒツヨウガ――」
「別にそんな事は無い筈じゃー! エネルギー補給が目的なら、普通に魔石でよかろう!?」
「むふふ~美味しい~~」
そんな感じでわいわい楽しく食べる魔物三人衆に、笑みが零れたのは言うまでもないのであった。
そしてその後、追加で沢山作る羽目になったのも、言うまでもない。
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