第三十九話 弁当いろいろ

「……ふぅ。中々手荒な目覚ましだな」


 アルフィアの爆炎によって一瞬正気に戻った俺は、即座に《屍山血河デストブラッド》を解除する。そして、周囲が爆炎から晴れるや否や、心配させないようにそう言って見せた。

 やれやれ。俺とした事が、完全に正気を失いかけていたな。普段はギリ解除出来るのに、今日は一瞬身体を停止させるので精一杯だった。

 それで、アルフィアに起こされるとは、情けない。穴に入りたい気分とはまさにこの事だ。


「何が手荒な目覚ましじゃ! 妾、あれほど言ったであろう!」


「ごめんって、アルフィア……でも、ありがとな」


 ふがー!と憤慨するアルフィアに、俺は申し訳なさげにそう言う。


「ふん……ともかく、戻ってこれて良かったのじゃ」


 それに対し、アルフィアはふんと鼻を鳴らしてそう言った。


「だね……で、そっちはちゃんと出来てるっぽいな。なら、さっさと設置してしまうか」


 前方を見ると、そこには空間が砕かれ、虚空状態で満たされている《空間固定結界スペーショナルロックフィールド》が展開されていた。

 どうやら俺が狂乱状態になっている間に、アルフィアたちは無事に準備を終えていたようだ。


「さてと。【統べよ空間。空間と空間を繋げ。固定せよ――《転移拠点ワープ・ポータル》】」


 俺は早速詠唱を紡ぐと、《転移拠点ワープ・ポータル》を発動させた。直後、《空間固定結界スペーショナルロックフィールド》を起点に、白色の魔法陣が地面に展開される。

 展開された白色の魔法陣は、暫く光り輝き、その空間に魔力を刻み続けた後――すうっと消滅した。


「よし。設置完了っと。一先ず今回の探索で絶対やっておきたいと思ってた事は終わったから……約束どおっり、弁当を食べよう」


 そう言って、俺はくるりと身体を皆の方に向けた。

 すると――


「おお! 待ってたのじゃ!」


「やったぁ! マスター~~~!!」


 待っていました!とばかりに喜ぶアルフィアとルルム。

 そんな2人を前に、俺は思わず笑みを零しながらも、《空間収納インベントリ》を開くと、中から適当に6つ程弁当を取り出した。勿論どれも、全く別の種類のものだ。


「さてと。ロボさんはもう、《完全障壁マスターガード》を解除していいよ。後は俺が何とかするから」


「リョウカイシマシタ。マスター」


 色々な事をしながら、常時《完全障壁マスターガード》を発動させていたロボさんを休憩させるべくそう提案すると、2つ目の固有魔法を唱え始めた。


「【憎き人間、障害たる魔物。この身を害する貴様らを、俺は永劫拒絶する――《拒絶領域レジェクトフィールド》】」


 直後、周囲一帯を覆う最高峰の結界。

 俺が拒絶したいと思ったあらゆるものを拒絶する事が出来るそれは、ここら辺にいる程度の魔物如きじゃ、どれだけ居たって破れない。

 ただ、発動させながら移動する事は出来ないという、地味に重大な欠点を抱えている為、あまりダンジョン探索には生かせないのが悩みの種だ。


「グルア――グラァ!?」


「ガアアァ――ギャン!?」


 そんな事を思ってたら、壁から産まれ落ちてきた魔物どもが、次々と襲い掛かって来ていた。

 まあ、全員漏れなく《拒絶領域レジェクトフィールド》に阻まれて、撃沈しているが……


「さてと。うーむ……どれにしようかのう。どれもこれも良い香りがして、甲乙付け難い」


 一方そっちでは、アルフィアたちが必死にどれを食べようか考えているところだった。

 アルフィアは腕を組みながら、むむむと唸っている。


「んっと、えっと……じゃあ、ルルムこれ~!」


「ぬあ!? 抜け駆けじゃ!」


「アルフィア! 判断がぁ~遅いぃ~~!」


 そうこうしている内に、判断の早かったルルムによって、弁当を1つ取られてしまった。

 アルフィアは即座に抜け駆けだと抗議するが、ルルムは一切聞く耳を持たない。

 そのまま、俺が念入りに(←ここ重要)教えてあげた通りに弁当の蓋を開け、箸を手に取ると、もぐもぐと食べ始める。


「へ~ルルムが最初に選んだのは、うな重か」


「ま、まあ。他にも食べたいのはある。一先ず、これ以上抜け駆けをされない為にも、1つ取って置くとしよう」


 そう行って、アルフィアが手に取ったのは唐揚げ弁当。

 海苔が乗ったご飯の他、大きな唐揚げや漬物など、美味しそうな物が色々と詰まっていた。


「もぐもぐ……うむ! 美味いのう」


 器用に箸を使って食べるアルフィアは、頬を柔らかに紅潮させながら、上機嫌な様子でパクパクと弁当を食べて行く。


「さてと。俺も食べるとするか」


 周囲に転がる魔石を食べる――と言うよりかは取り込むロボさんまで一瞥した俺は、海鮮丼を手に取ると、早速食べ始める。


「もぐ……うん。美味しい」


 歯応えのあるマグロは、それだけでもなんか高級感があってよき。

 サーモンは、程よく脂が乗ってて、口の中一杯に広がるなぁ……

 プチプチと口の中で弾ける、塩味の効いたいくらも美味い。

 そして、それらを束ねる艶のある美味しそうな白米も、口の中に入れてみれば、ほかふわっとしていて、海鮮の旨味を高めてくれている。


「やーいいもんだねぇ……」


 美味い飯は、生活を豊かにさせる。

 どこかで聞いた事がある言葉ワードなのだが、全くその通りだな。

 魔物肉を淡々と食していた頃と比べると、落差がとんでもねぇなと思わず言いたくなる。


「さて、次はどの弁当にしようかなぁ……」


 そんな事を呟きながら、俺は引き続き皆と、食事を楽しむのであった。

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