第三十話 生きる意味
「大翔さんは何を食べたいですか?」
「そうだな……今日は肉系が食べたい気分だ」
美玲の問いに、俺は軽く腕を組んで悩んだ後、そう答えた。
すると、美玲は「分かりました。では……少し早いかもですが、”しょしょ苑”に行きましょう」と優しげな笑みを浮かべてそう言う。
しょしょ苑……これもどっかで聞いた事があるような、無いような……まあ、気のせいか。
「では、歩いて行きましょう。ここから歩いて10分程の所にあります」
「ああ、分かった。【解除】」
美玲の言葉に頷くと、《
直後、俺はアルフィアと《
『アルフィア、すまん。美玲と夕食を食べに行く事になった。故にその間は自由に移動してくれて構わないが……人間と接触するのは、出来れば避けてくれ。あと……ルルムの制御を頼む』
『うむ。その程度ならお安い御用……では無いが、まあご主人様の命令という事にしておけば、数時間程度なら問題ないじゃろう』
アルフィアを以てしても、お安い御用とは言えないルルムの制御……冷静に考えたらある意味恐ろしいよね。
『ああ。ありがとう。そしてすまん。俺の我が儘に付き合って貰って』
『よいよい。むしろ、どんどん頼って欲しいものじゃ』
そう言って、からからと笑うアルフィア。
やっぱり、アルフィアは優しくて頼りになるな。
無論、ロボさんもルルムも別ベクトルで、頼りになっているけどね。
『それじゃ、頼んだ』
最後にそう言い、念話を切った俺は、隣を歩く美玲をチラリと見やる。
すると、俺の視線に気が付いたのか、美玲も俺の方を向くと、小さく微笑んだ後、口を開いた。
「大翔さんは凄いですね。さっきのは多分、認識阻害の結界ですよね? あれをあんな手際よく展開できる人は、初めて見ました」
「まあ、鍛錬したからな。それに、ああいう系の魔法は結構得意なんだ」
美玲の掛け値なしの称賛の言葉に、俺は何とも言えない戸惑いを感じ、やや素っ気無く答える。
いや、だって仕方無いって。誰かに称賛されるなんて経験、全くと言っていい程無い訳なんだし。
だが、そんな俺の声音を特に気にする事無く、美玲は会話を続けてくれた。
「私は雷系の魔法が得意なんですよね。速くて威力も高いですし、魔道具の点検なんかも出来たりしますし」
「へ~そんな感じなんだ」
美玲の言葉に、俺は純粋に興味に駆られる。
やっぱ、そういう戦闘系への興味は結構あるんだよな。
俺の戦闘って、言ってしまえばほぼ独学な訳で……それで、大勢の人類が積み重ねて来た戦闘技術に全て勝っているなんて、普通に考えたらありえないじゃん。
美玲も、そんな俺の思いに気が付いたのか、やや目を見開き、言葉を続ける。
「大翔さんは……やはり、魔法が好きなのですか?」
「ん~魔法ってよりかは、戦闘系全般だな。強くなり、ダンジョンの果てへと突き進む為に、必要な事だから。こうやって戦闘に関する事を聞いていれば、参考になりそうな事も少なからずあるだろうし」
美玲の問いに、俺は好きな話題になったオタクの如く話してしまった。
おっと。だが、これも仕方の無い事なのだ……!
戦闘については、まーじで妥協出来ないからさ。
「そうなんですね~。私は戦いが好きという訳では無いのですが、ダンジョンに潜るのは好きなんです。ダンジョン配信者として、色々な人と繋がる事が出来ますし、ダンジョンに潜る事で、色々な人の役に立ててるというのが、何と言うか……誇らしいと言うか、胸を張っていられるというか……そんな感じです」
「なるほど……そういう動機もあるのか」
美玲の動機は、俺から言わせて貰えば随分と綺麗事だ。だが、同時にそれがダンジョンに潜る理由となっているのなら――支えとなっているのなら、良いのではないかと思った。
あと、何と言うか……美玲の事が、眩しく思えた。
「大翔さんはどうなのですか?……あ、言いたく無いのでしたら、言わなくてもいいですよ」
「俺か……」
聞いた途端、まるで後悔するかのように「言いたくなければ言わなくて良い」と付け加える美玲。多分、俺の本質をそれなりに理解してそうな宏紀から、教えてもらったのだろう。
まあ、経緯はともかく動機なら、別に隠す程の事でも無い。
「拒絶する為だ。あらゆる
「あらゆるもの……ですか」
俺の言葉に、瞠目する美玲。
そんなに驚く程のものなのだろうか……いや、美玲なら、そうなのかな……。
「詳しい事を言う気は無いが、その為に俺はダンジョンに潜り、強くなっているんだ。それだけが――俺の生きる意味
無論、今はアルフィアたちが居るお陰で、それだけでは無くなったが――それでも、それが大多数を占めている事に変わりはない。
「そうなんですか……。大翔さんの事を知らない私が言う事では無いかもしれないですが……生きる意味は多いに越した事はありませんよ。食べ物とか、ゲームとか、漫画とか。生きる意味が多ければ多い程、充実した人生になる……。あそこから抜け出し、宏紀さんと出会い、”星下の誓い”に入って――そう、思いました」
「……そうか」
美玲の助言に、俺は短く答える。
生きる意味……か。
それほど大層な事でも無いかもだが――現に地上の”食べ物”には興味がある。
正直に言えば、今日の夕食は――楽しみに思っているんだ。
「……あ、着きました。ここです」
「……なるほど。焼肉か」
更に歩き、到着した”しょしょ苑”という焼肉店を前に、俺は納得したように声を出すと、美玲と共に店内へと入るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます