第二十七話 皆へのお土産
それは――
「すまん。お土産渡すの忘れてたわ」
そう。お土産だ。
あの後街を巡って手に入れた、アルフィアたちへのお土産。
俺は直ぐに《
「ほう。なんじゃ? この食欲をそそる匂いは!」
「マスター! これなぁに~~~~!!!!」
俺が取り出した物に、アルフィアもルルムも声を上げた。ロボさんはじーっと見つめてるだけだが。
「ああ。これは地上の――人間の食料でな。その名も――たこ焼きと言う」
8個入りのパック2つを両手に掲げながら、俺は名を口にした。
そう。アルフィアとルルムのお土産として買ってきたのはこれ!
”銀タコ”っていうどっかで聞いた事があるような無いようなって感じの店名の店で買ったもので、ソースと鰹節と青のり――そしてマヨネーズがちゃんとかかっている。
時が停止している《
「タコ……ご主人様が昔クラーケンを潰した時に、そんな事を言っておったな」
「ああ、そうだな。あんな感じの生物をめっちゃ弱くしたバージョンが上にも居て、それとその他諸々で作られている」
随分と昔の事を引っ張って来るアルフィアに、俺は軽い説明を付け加えた。
「じゃ、早速食べてみてくれ。人化しているアルフィアとルルムなら、味覚も俺に近いし、きっと気に入るよ。この爪楊枝ってやつでたこ焼きを刺して、食べるんだ。……これだよ? これをこうしてこうなんだよ?」
アルフィアとルルムに1パックずつ渡した俺は、食べ方を説明する――特にルルムには、しっかり説明する。
お陰で、アルフィアとルルムは何の問題も無く、1個目を口に入れた。
「「んん!!!」」
揃って目を見開くアルフィアたち。
そして、やたら無言でもぐもぐと咀嚼し――飲み込む。
すると――
「美味い! これがご主人様の言っていた、美味いという感覚じゃな! 素晴らしい!」
「なんか、ぽかぽかする~。とろけるような~? とってもいい気分~」
アルフィアは、嘗て俺が教えた”美味い”という感覚を初めて理解したのか、若干興奮気味に声を上げ、ルルムはその感覚が何なのか理解できていないようだが……それでも幸せそうに頬を紅潮させていた。
「満足してくれたのなら、良かった」
喜んでくれている2人の姿を前に、俺はそう言って笑みを浮かべた。
こうして喜んでくれるのなら、買ってきたかいがあったというもの。
これから地上へ行くし、その時にまた、色々なものを食べさせてあげるとしよう。
「よし。そんじゃ、次はロボさんへのお土産だ」
そう言って、俺は夢中でたこ焼きを頬張る2人から目を逸らすと、1人取り残された感じになっちゃっているロボさんを見やる。
ロボさんはその性質上、魔石や純粋な魔力以外を取り込むことは不可能――故に、別のものを用意した。
「オミヤゲ……ナニヲ、クダサルノデショウカ」
その声音は、やはり感情の無い機械音であったが――その奥には、微かに興味という感情があると、直感で感じた。
そんなロボさんの頭に、俺はすっと手を当てると――魔力を流した。
「ここを……こうして……こう……」
そして、地上で得た魔導工学の知識を流用して、ロボさんを改造していく。
今回改造しているのは、魔心核と外装の接続部。ここを変え、より燃費の良い体に改造しているのだ。
「……で……よし。どうだ? 燃費が良くなったと思うのだが……」
すっと手を下ろした俺は、ロボさんにそう問いかけてみた。すると、ロボさんは再起動中のコンピュータみたいにしばし固まった後――声を出した。
「ハイ。カクニンシタトコロ、イゼンヨリモマリョクコウリツガ、五パーセントヨクナリマシタ。アリガトウゴザイマス。マスター」
「そうか……良かった」
おお、どうやら成功したみたいだ。
5パーセントの効率化――これは相当なものだ。
最近はあまり無いが、
特に、そう遠くない内に遭遇するであろう、第899階層の
「さてと……おいおい。はしたねぇぞ……」
既にたこ焼き8個を完食し、パックに付いている鰹節やソースをぺろぺろしているアルフィアとルルムを見てしまった俺は、思わず頬を引きつらせてそう言った。
いや……だが、アルフィアはやたらと上品に感じる。少なくとも、下品とは誰も思わない。
一方ルルムは……うん。子供のやってる事って感じに見えて、こっちもこっちで下品に見えんな。
「……まあ、取りあえず結界を展開するか。ロボさん。補助を頼む」
「リョウカイシマシタ。マスター」
たこ焼きに夢中(?)になっている2人から目を逸らした俺は、認識阻害の結界を展開すべく、ロボさんに声を掛けた。
「よし。【繋げ】」
手始めとばかりに、俺は放出した魔力をロボさんと繋いだ。
これで、準備おーけー。
「結界の制御は任せた。【五感の外、世界の外。
直後、
これは、領域内に入っている存在の外部からの認知が不可能になる結界で、更に術者である俺及びロボさんが認めた者しか入る事は出来ず、それ以外の者は無意識の内にこの結界を避けてしまうのだ。そして、客観的にそれを見た人でさえ、それを異変だと気づかない――気づけない。
そんな、端的に言ってしまえば認識阻害という地味なものだが――その実、めちゃくちゃ高性能の代物だ。
「おーい。そろそろ行くぞ。後でそれと同じぐらい美味しいものを色々食べさせてやるから」
「おおう。すまんの」
「ほんと? やった~~~!!」
あの状態の2人も、俺の言葉は流石に聞いてくれるようで、それぞれ炎と溶解液でパックを跡形も無く消滅させると、俺に向き直った。
「ああ。そんじゃ、行くか。【座標を繋げ――《
地上の座標は、既に覚えている。
そうして、俺は転移魔法で地上へと飛ぶのであった。
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