第二十六話 俺がやるべき事
「流石に、ずっとこのままでいる訳にもいかないな」
少し時間が経ち。
俺はやや名残惜しそうにしながらも、ルルムを抱きかかえながらよっこらせと立ち上がった。そして、そっとルルムを下に下ろす。
「マスター~~~~」
一方、ルルムは相変わらず無邪気な笑みを浮かべて、俺の腰に引っ付いて来る。そして、俺はそんなルルムの頭をポンポンと優しく撫でた。
「さて、ロボさんもこっちに来てくれ」
アルフィアが立ち上がる様子を視界に収めながら、俺は家の中で待機状態になっているロボさんを呼んだ。すると、まもなくロボさんが家からてくてくと歩いて来た。
「マスター。タダイマキマシタ」
毎度お馴染みの機械音じみた声で話すロボさん。
こうして俺含め4人全員が集まった所で、俺は口を開いた。
「取りあえず、昨晩は心配を掛けた。ごめん」
そう言って、俺は目尻と共に頭を下げる。
「うむ。心配させおって。ま、その様子ならもう大丈夫そうじゃな」
「ん~マスターが元気になって、ルルムも嬉しい!」
「イエ。シンパイハ、カケラレテオリマセンノデ、アヤマラナクテヨイデス。マスター」
アルフィアは腕を組んで大仰に頷き、ルルムは無邪気に笑い、ロボさんはどういう事か分からないって感じだった。まあ、彼ららしい。
「うん……それじゃ、これからする事に着いて説明するか」
そして、俺はこれからの方針について話す。
「まず、道理は通したいという事で、今日上に行って美玲と宏紀……2人の人間に詫びを入れてくる。向こうが何か欲するのなら、なるべく答えるつもりだ」
自分の心の詰まりを無くす為の――ただの自己満足と言われればそれまでだが、それでもやはり、道理は通しておきたいのだ。
「ふむ。また地上へ行くのか……ご主人様の居ない日が続くのはのぅ……」
そう言って、アルフィアはチラリと、俺の腰に抱き着くルルムに視線を向ける。
「む~……ご主人様と長く離れるのは嫌~~~だ~~~~~!!!!」
俺とアルフィアの言葉を拾ったルルムは、より一層ぎゅ~~~~っと、俺の腰に抱き着いた。
おいおい。ルルムさんよ。それ、並の魔物なら木っ端微塵に出来ちゃうぞ。
万力の抱擁を受け、腰が締め付けられる感覚を覚えた俺は、ルルムの頭をさわさわと撫でると、誤解を解く。
「待て待て。地上についてあらかた分かった事だし、流石に今回は連れて行くよ。ここの結界も、俺らが居なければそう魔物の襲撃は受けないだろうから、1日2日居ないぐらい、どうという事はない」
万が一壊されたら、半永続展開を再びするのにめっっっちゃ苦労するのだが、まあ出来ない訳じゃ無いし、それを憂いてルルムにストレスを溜めさせる方が大問題だ。
ルルムの癇癪で家が全壊したら、目も当てられねぇぜ。
あそこには俺の
「ほう。それは嬉しいのぅ」
「一緒にいれるの? やった~~~~~!!!!」
「リョウカイシマシタ」
アルフィアは嬉しそうに目を細め、ルルムは跳び上がってその喜びを全身で表現し、ロボさんはいつも通りに頷いた。
「ただ、流石に皆の正体がバレたら非常に面倒な事になるから、認識阻害の結界魔法をロボさんと共同で常時展開しておく。人間たちの力量はあらかた把握したし、本気でやれば固有魔法でも、見破る事は不可能だろう」
一応、魔物を従魔にするテイマーという存在が居るらしいのだが、流石にアルフィアたちをそれで誤魔化すのは無理がある。
まあ、最初は姿形を人間っぽく偽る事も考えていたのだが……ある可能性を恐れ、存在そのものを完全に隠蔽する方向に舵を切った。
「絶対、何かされたら無意識に手を出すだろうからな……」
小さな声で、ボソリと呟く。
そう。これが俺の恐れている事。
万が一、アルフィアたちが下手に人間に絡まれたらどうなるか。
答えは、ほぼ間違いなく周囲一帯を更地にする事だろう。
例え俺が念を押していたとしても、悪意を向けられたら条件反射で攻撃する――してしまう。それは俺にも言える事で、長い間ダンジョンで殺戮を続けて来た帰結とも言える。
もっとも。俺は高い精神力と、一応人間であるが故に、ある程度それを制御出来るから、問題は無いのだが……アルフィアたちは魔物だからね。さっきのルルムみたいに、価値観がちょっと異なるんだよ。
上を彼らに更地にされたら……まあ、俺がやった事じゃないから、悲しい事件だったねで済むのだが、美味い飯とか技術とか、あると嬉しいものが無くなるのは嫌なんだよなぁ……
「……っと。それじゃ、行く前に一応保険だけかけておかないと。【氷の守護者よ。顕現せよ――《
そうして顕現したのは、体長4メートル程の氷で出来た騎士像。右手には大剣、左手には大盾を持っている。
「即席だが、まあここぐらいの
そう言って、俺は召喚した氷の守護者に家を死守するよう命じておく。
さあ、これでこっちは大丈夫。早速上へ行くとしよう。
「それじゃ、先に結界を……あ、忘れてた」
認識阻害の結界を展開しようと思った俺は、ここでふと、ある事を思い出す。
それは――
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