第十八話 害する者への対応

 ネカフェに戻って来た俺は、ネカフェ利用者無料のドリンクバーでオレンジジュースを並々と注いでから、部屋に戻った。

 そして、ゴクゴクと懐かしい味に舌鼓を打ちながら、美玲が来るまでの間、再びネット検索に移る。


「美玲は……まあ、あの状況なら流石に来るか」


 俺は、約束を守ってもらえた事がほとんど無い。故に、美玲がここに来ると言うのも、信じてはいなかった。

 だが、よくよく考えてみれば、あの時の会話は美玲の配信を通じて、世界中に流れたはずだ。なら、美玲は今後の活動の為にも、あの約束を反故にする事は出来ない――そう思ったのだ。

 一応美玲の事は調べてみたのだが――どうやら彼女は”DanTube”というR15のダンジョン系動画専用の動画サイトで配信をしていたようで、開設3年目にしてチャンネル登録者数50万人を超えている、結構な人気者だった。

 配信のアーカイブを軽く見てみた所、どうやら彼女は配信上では『明るく元気な女性』を演じているようだ。俺と話していた時のような、丁寧な物腰からは想像できない。

 因みに年齢は23歳らしい。非公認だが。


「……うーん。変な気配だ」


 オレンジジュースやコーラなどを注いでは飲んでを繰り返しながらネットサーフィンをしていた俺は、唐突に天を仰いだ。

 そして、周囲の気配をより鮮明に察知しようと、感覚を研ぎ澄ませる。


「……うん。やっぱり不自然な気配がするな」


 うん。やっぱりそうだ。

 このネカフェの周辺に、不自然に屯している人間の気配がある。

 通りすがりとか、何かイベントがあるとか、そういうのじゃない。

 それだったら、こんな建物を少し離れた場所から何十分も見続けるなんて真似は――気配を消そうとするなんて真似は――絶対にしない。

 ふと、ここで俺の中に「もしや」とある考えが浮かび上がる。


「もしかして……美玲もしくは俺の姿を見に来た、あの配信の視聴者か?」


 この考えが、現状一番しっくりくる。

 ただ、確定では無い為、はっきりさせておこう。

 そして、俺を害しようものなら――潰すだけだ。


「さてと……【繋ぎ、監視せよ――《観察者オブザーバー》】


 空間同士を繋ぎ、離れた場所の景色をこちらから一方的に見る魔法、《観察者オブザーバー》を発動させた俺は、一先ずそいつらの会話を聞いてみる事にした。


「美玲ちゃんが来る様子は?」


「んー今のとこ無いな」


「川品大翔……意識を失った美玲ちゃんにあ~んな事や、そ~んな事を、してないだろうなぁ……!」


「何言ってんだお前」


「だがまあ、そう思うのも分からなくはない」


 そこでは、4人の男が話をしていた。


「なるほど。会話の内容的に、俺や美玲目的で間違い無い……か」


 その会話から、一発でこいつらの目的が分かってしまった。

 だが、会話だけではこいつらが何をする気なのかが分からない。

 別に見るだけなら害は無いし構わないのだが、その様子を無断で撮影してネットに上げるとか、後は純粋に絡んでくるとか……そういうのは勘弁して欲しい。


「ま、その辺は後で対処するか」


 今後まだまだ増えるだろうし、後で害ある人間ゴミを一網打尽にすればいい。

 そう思った俺は、《観察者オブザーバー》を解除すると、再びドリンクを飲みながら、ネットサーフィンを再開した。


「ん~……ああ、アルフィアたちにお土産も買ってかないとな」


 拠点を守る《拒絶領域レジェクトフィールド》の維持等をしながら、留守番をしてくれている皆に何かをあげるのは、仲間として当然の事だ。

 で、肝心の何をお土産にするかだが……あいつら、全員魔物だからな。

 ゴーレム、スライム、ドラゴン……そんな彼らが喜びそうな物となると難しい。

 今の所食べ物しか思いつかないが、ロボさんは魔石しか食べられないからな……


「うーん。どうすっかなぁ……ん?」


 身体を仰け反らせ、うーむと唸っていたら、見覚えのある気配を感知した。

 これは――


「美玲か」


 あの時、記憶しておいた気配――美玲のもので間違い無かった。

 さて。来てくれたのなら、俺も行かないとな。

 そうして俺は手短にササッと支度を済ませると、ドアを開け、部屋の外に出た。そして、ネカフェの外へと向かって歩き出す。


「んっと……あ、居た」


 ネカフェの近くで、マスクをして自然な感じで歩く美玲を見つけた俺は、彼女の下へ歩き出す。

 すると、美玲も俺の姿に気がついたようで、マスク越しでも分かる、柔らかな笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。


「大翔さん。昨日はありがとうございました。ここで話すのは……あれなので、私の事務所に来てください。車はそこにありますので、一緒に行きましょう」


 そう言って、美玲は直ぐ目の前にある有料駐車場を指差す。

 確かに、ここだと人の目があって話しづらいよな。

 そんな事を思っていると、俺の所に集中する視線の中から、カメラを向ける奴がチラホラと確認できた。

 それは――許容範囲外だ。


「ああ、分かった。【空間を抉れ。消せ――重ねて抹消せよ――《空間抹消イレーサー》】」


 美玲の言葉に頷いた俺は、小声で高速で魔法を唱える。直後、遠くから「す、スマホがつかない!?」「か、カメラがっ」といった悲鳴が聞こえてきた。

 俺がやったことは単純明快。

 ただ、俺を害しようとした人間ゴミどもが持っていた全てのスマホやカメラの内部を抉り、抹消しただけ。


「……運が良かったな」


 美玲の後に続いて歩きながら、俺はボソリと呟く。

 もし後程、ここ周辺でアルフィアたちの土産物を買う予定が無かったのなら。

 後顧の憂いを断つ為にも、お前ら全員――殺してた。


「大翔さん。どうぞ」


「ああ、ありがとう」


 車のドアを開けてくれた美玲に、俺は礼を言うと、後部座席に乗り込んだ。

 その後、運転席に乗り込んだ美玲は、アクセルを踏み、半自動運転となっている車を走らせ始めた。

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