第十四話 過去編(魔法の習得)

 俺が、第30階層を攻略していた頃――


「「「「グルルルゥ!!!!!」」」」


 地の底から響き出るような唸り声を上げながら、俺に襲いかかってくる、体長2メートル程の狼型の魔物。

 向けられる鋭い牙。

 それらを第15階層で発見した宝箱から入手した、鋭い短剣で受け流しながら、俺は必死に声を上げる。


「防壁出てくれ! 魔力の防壁よ! 我が身を守る盾よ! 我が意に応えて顕現せよ!」


 俺は人並みの想像力を最大限に発揮しながら、声高にそれっぽい詠唱を紡ぎ続ける。

 だが、何も起こらない。

 手応えすら、掴めない。

 今の俺は、ただただ痛々しい言葉を叫んでいるだけの――右手が疼くぅ!でお馴染みの――厨二病患者にしか見えないだろう。

 ……いや、殺し合いをしている時点で,”だけ”という言葉は当てはまらないか……て、そんな事考えている場合じゃない!


「うぐっ」


 増えていく傷痕。

 減り続ける体力。

 もう限界だと思った俺は、殺戮の日々によって培われた”殺す為の武術”によって、効率的に急所である魔物の心臓――魔石を斬り、殺す。


「はぁ、はぁ、はぁ……また、駄目だった……」


 無駄に体力を使ってまで、魔法発動の練習をしたのにも関わらず、成果は一切無かった。


「何かが、根本的に間違っているのだろうか……」


 気を落としながら、俺は自身のステータスと向き合う。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】川品大翔

【種族】人間

【年齢】16歳

【レベル】26

【状態】健康

【身体能力】

・体力206/417

・魔力209/209

・筋力403

・防護410

・俊敏411

【技能】

・精神強化・苦痛耐性・魔力操作

・飢餓耐性・悪食・治癒速度上昇

・暗視・気配感知・殺戮

【魔法】

・水属性・闇属性

・無属性・氷属性

・時空属性

【固有魔法】

・無し

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 確かにある、5つの属性。

 それこそが、俺が魔法を使うポテンシャルがある事を示す確かな証拠。

 そして、一切魔力が減っていない事。

 それこそが、俺が魔法を発動できなかった事を示す確かな証拠。

 それらを前に、俺は頭を悩ませる――が、ダンジョンは待ってくれない。

 見れば、直ぐに新たな魔物がこちらへ向かって来ていた。


「だが……俺は、絶対に諦めないぞ!」


 そう言って、俺は奴らを迎え撃つのだった。

 そんな、魔法が使えない日々。

 だが、それはある日唐突に終わりを迎える事になる。


「……これは、夢……じゃないよな?」


 己がステータスを前に、俺は信じられないとばかりにそんな疑念を呈した。

 だが、【固有魔法】の欄に記載された《幻想世界ファンタジア》の文字が、ある可能性を告げていた。

 それは――魔法が使える、ということ。


「随分と俺らしい魔法だが……試してみるか」


 そう言って、俺は向かってくる魔物に目をやると、その攻撃を必死に避け、防ぎながら、頭に浮かび上がってきた詠唱を紡ぎだした。


「【幻想ゆめへと堕ちろ、永劫に。我が幻想ゆめ叶えし贄となれ――《幻想世界ファンタジア》】!」


 直後、すっと身体の芯から何かが抜けるような感覚と同時に、眼前に漆黒の魔法陣が出現した。

 直後、バタリとその魔物は地に倒れた。


「えっと……意識を失っている、か」


 生きているのは、気配で分かる。

 俺はそっと近づくと、剣を振り上げ――下ろした。

 それだけで、簡単に殺せる魔物。

 即座にステータスを見てみると、確かに魔力が減っている。

 これが指し示す事は――


「魔法を――使えた!」


 俺はぐっと拳を握り締めて、歓喜に打ち震える。

 やった!遂に魔法が使えるようになった!

 そして、お陰で今最も得たかったモノも手に入った。

 それは――”魔力の知覚”だ。

 今までの俺は、魔力を感じ取る事すら出来なかった。だが、たった今魔法を使ったことで、微かではあるものの、確かに魔力という物を感じたのだ。


「よし。よし。よし。とうとう魔力を感知できたぞ! 後は、その感覚をより鮮明に、より繊細に感じ取れば、きっと使えるようになる!」


 それが、俺の出した結論だった。


「よし。そうと決まれば、とにかく”あの感覚”を引き出し続けるぞ!」


 そうして、俺は”魔力をより鮮明に、より繊細に感じ取る特訓”を始めるのだった。

 思い付いた事は、何でもやった。

 瞑想し、心を落ち着かせたり。

 心を無にして、ひたすら己と向き合いながら戦い続けたり。

 様々な呼吸法に挑戦してみたり。

 とにかく、とにかく、とにかく、俺は精力的に取り組み続けた。

 そうして、魔法の為の特訓を続ける事――7年。

 第140階層に到達した日、とうとうその時がやってきた。


「【魔力よ、清く美しい水となれ。荒く流れる河川。万物を押し流す自然の力。生命すべからく無力と化す。我が意に応えて顕現せよ】!」


 直後――俺の掌に白色の魔法陣が展開された。

 そして、そこから流れの激しい河川の如く流れ出す大量の水。


「「「「グガアアアアア!!!」」」」


 凄まじい水の流れに、眼前にいた魔物たちは為すすべ無く押し流されていく。

 まるで、雄大な自然の前には、どんな生物も等しく無力と言うような、そんな光景を前に、俺は歓喜のあまり涙を流した。


「ああ……この7年間、決して無駄じゃ無かったんだ……!」


 魔物の革に穴を開け、被っただけの簡素な服を身に纏う俺は、涙で顔を濡らしながら、膝をつき、天を仰ぐ。

 それから、俺の魔法開発は一気に加速していくのであった。

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